Wi-Fi

月簡

Wi-Fi

 ――この世は〈Wi-Fi〉に支配されている……。

 西暦2062年。Wi-Fiは表示する情報を操舵できるようになった。それにより人々は欲しい情報を、ネットなどで見つけられるようになった。

 だがこれは電波が人間の脳波を検知できるようになったからである。

 つまり、人間を操作することも可能になったのだ。

 だが、一人、Wi-Fiの支配を受けない人物がいた……。



「As《アス》、寝室の電気をつけて廊下の電気を消して」

 Asは最新鋭のAIアシスタントだ。

「了解しました」

 私にもWi-Fiの検知機能がきけば楽なのにな……。

 なぜ私には効果がないのか。それは今までの検査でも分からなかった。

「リュマ様に、Wi-Fi管理局からDM《ダイレクトメッセージ》が届いております」

 AIアシスタントの〈As〉が発光しながらなにか言い始めた。

「As、読み上げて」

「承知しました。『リュマ様、ご無沙汰しております。Wi-Fi管理局、検知機能課の田中です。この度、重要な事をお伝えしなくてはならなくなりましたので、3日以内に来訪していただけるよう、お願いします』とのことです」

 なぜこんな急にDMなんて?


「お越しいただきありがとうございます」

 そう言って私は、殺風景な部屋に通された。奥からはスーツ姿の男の人……田中がやってきた。

 声をかけてくる。

「あなたはWi-Fiの検知機能が使えないそうですね。その正体がわかりましたよ」

「正体?」

「幼少期の記憶が、〈偽りの記憶〉なのです。これによって電波が検知することが困難となっている」

 〈偽りの記憶〉なんて……。今までの記憶全て嘘だったということか?

 無意識の内にこわばった顔をしていたらしく、彼は少し不安げな表情を浮かべた。

「私達としてもこんなことは初めてで……。記憶を取り戻していただければ、または正体を見つけられたら、あなたはWi-Fiの検知機能を使えます」

 こうなったら、自分の正体を知る他無い。


 帰り道、誰かに付けられているような感じがした。裏路地に入ると、なお強く。

 護身できるものはなにもない。もしもストーカーとかなら……。仕方ない。全力で走ろう。

 風を受けながら全力で走ると、後ろからも走る音がした。確実だ。私は曲がり角を曲がると、急ブレーキを踏み、角に隠れた。

 人影が迫ってくる。

 もうどうにでもなれ!

 私は足を突き出した。人影が大きく転ぶ。

 人影は田中だった。

「なぜ私をストーキングしたんですか?」

「まー、なんというか、Wi-Fi関係で不具合とかがあると私達の信頼に関わるんだ。きみが多くの人に自身の体質を話せば終わりだ。だから始末……といったところか」

 彼は上着から黒い箱を取り出した。緑色の突起がついている。

 緑色の突起が押された。その時、私の頭に尋常でないほどの痛みが走った。

「きみの記憶を完全に〈偽りの記憶〉にすり替えさせてもらう。今までは記憶同士の不結合が原因だったからな……」

 田中は笑みを浮かべながら続ける。

「なぜかって?君がWi-Fiの検知機能等、多くの技術進歩に関わった〈神〉の娘だからださ」

 痛みが強くなってくる。

「さようなら、リュマ……いや、〈神〉の娘」

 そう言って田中は立ち去ろうとした。

 だがその時、私の頭に一本の線が描かれたような感覚とともに、一気に頭がクリアになった。

 私は立ち上がる。すると田中は後ろを向いた。

「流石は〈神〉の娘か……。なあ、私達とともにWi-Fi管理局で働かないか?きっと君の正体も……」

 彼は言い終わらないうちに大きく吹っ飛んだ。

 私が殴りつけたからだ。

「なぜ私がそんなことをしないといけない?そう言って始末しようとしているかもしれないじゃないの」

「そうだな……。じゃあ、か」

 そう言うと彼は腰から剣の取手の部分のようなものを取り出した。そこから少しずつ刃が生えてくる。

 剣が生えてくる中、彼は突進してきた。この手でへし折れるかな……。

 私は切りかかってきた剣に、手刀を繰り出した。折れることはしなかったが、少しだけ曲がった。

「〈神〉の娘!その力で私に反撃をしようというのか……。ならばそれ相応の報いを与えよう」

 彼の剣の刃が変形を始めた。

「これは荷電粒子砲。地球上で使用できない弊害を特殊技術によって削ぎ落とした。当たれば原子崩壊を起こして消滅する」

 銃の形に変形した剣は光のようなものが銃口にため始めた。絶対にまずい。

 私が地面に倒れ込むと、直後に発射された。凄まじい音だ。背後では爆発音や崩れる音がしている。なんとか避けられたか。

 私は一つ、手段を思いついた。検知機能は使えないが、Wi-Fiへのアクセスはできるという特製を利用して。そして、最新鋭。

「As、荷電粒子砲に妨害をかけて」

「電波妨害規制法に違反する危険性があるため実行できませんでした」

 その時、私はまた一つ思いついた。

「〈神〉の権限を持ってしても実行できない?」

「実行されました」

 ビンゴ!この世界において〈神〉の存在は絶大なのだろう。

 彼の荷電粒子砲から煙が上がっていた。

「な!」

「じゃあここで死になさい」

 私は近づくと、顔面に向かって右ストレートを叩き込んだ。

「あと、この〈突起の付いた箱〉はもらっていくわ」

 私は倒れた田中から〈突起の付いた箱〉を奪った。

 〈よくやった〉……。そんな声が聞こえた気がした。







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Wi-Fi 月簡 @nanasi_1

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ