第2話 ギリーとブラン

 森の廃墟を脱出した三人は、ハイミ=テニラという街の小さな宿屋でテーブルを囲み、夕食をとっていた。

「私はギリー、ギリー・バンボン、魔道士です。攻撃系の呪文は少し使えますけど、回復はダメです。召喚はその……運が良ければなんとか……」

「俺は名誉ある騎士としてギリーを守っている、ブランだ。もちろんまだ修行中だし正式な騎士じゃないけどな」

 ミユは二人の話がよく理解できなかったので、もう一度自分の頬をつねってみた。が、やっぱり痛かった。

「……えっと……私は枕木美遊、ミユでいいわ。十六歳で、高校生よ」

 そう言うと、ほっとしたのかミユは、小さなリュックを降ろして横の椅子に置いた。

「なんかよく分かんないんだけどさ、私はギリー・バンボンちゃんと契約したのね?」

「はい、でも私は……この街のギルドに救援の要請というか……召喚の依頼をしたんです。回復魔法が使えるヒーラーを……もしかしてミユさんは、ギルドに登録してませんよね」

「コーコーセーというのは魔法が使えるのか?」

「いや、そんなの無理だから」

 ミユはテーブルに運ばれた、いい香りがするスープに口をつけた。肉は少ないが見慣れないハーブのような葉が煮込んである。

「……美味しいっ!」

「そうでしょ! マハイラはこの辺りの名物料理なんですっ。香辛料がたくさん入ってるから体力は回復するし、美容にも効果があるんですっ」

 ギリーとブランもマハイラのスープを手に取った。

「二人はこの街に住んでるの?」

「はい、まあ最近だとそうですね、野宿が多いですけど。私たちはバーレイの村からこの街に遠征してるんです」

「何? エンセー?」

「ミユは遠征したことないのか? 経験を積む修行の旅のことだろ」

 どうやら修学旅行のことではないらしい。

「だって二人ともまだ十一歳なんでしょ? なんか大変そうだけど、親元を離れて旅をするって大丈夫なの?」

「俺たちの村では普通だよな、みんな学校を卒業したら出ていくし。ちなみに俺は次の冬で十一歳だ」

「いきなり遠くに行く訳じゃないですよ、少しずつ距離を伸ばして行き詰まったら村に戻ります。無理をしないことが大切なので、レベルに合わせて旅をします」

「ふーん、そうなんだ。で、二人のレベルはどれぐらいなの?」

 ギリーとブランは目を合わせた。

「私とブランの二人だと……はっきり言って弱いよね」

「さっきのゴブリンはレベル3ぐらいで、俺とギリーの二人で4匹を倒すのがやっとだったからな……」

「4匹掛けるレベル3で、12を二人で割ると……レベル6です」

「1匹ずつなら全部倒せたんだけどな」

「まだ20匹は残ってたよね」

「じゃあ私は一人で20匹を倒したから、掛けるレベル3で、レベル60ってことね!」

「いや倒してないだろ、運良く足止めできただけじゃないか。コーコーセーってのはどういう職業なんだ?」

 ミユは黙ってマハイラを飲み干すと、両手を合わせた。

「ご馳走ちそう様! それよりもさ、高校生にはお金が必要なんだからね、ギリーちゃん、さっさとバイト代ちょうだいっ」

 にっこりと笑って手を差し出すミユ。しかし、ギリーも負けずににっこりと微笑んだ。

「美味しかったでしょ?」

「お金ちょうだい!」

「今……余裕がないんです……ここの宿代も必要ですし、報酬はマハイラの現物支給ということで……」

「でもギリー、それだとマハイラを食べ終わったミユが消えるはずだろ? まだいるってことは、契約は続いてるんじゃないのか?」

「えっと、そういうことだよね……」

「契約って……」

 ミユはポケットからスマホを取り出すと、契約の確認ページを読み上げた。

「……場所はここ、報酬はのはのらあふよせせせせ……」

「あ、最後はちょっと慌てていたので、ごめんなさい。変わった魔具ですねそれ」

「この〝のはのらあふよせせせせ〟って何!? これをもらわないと帰れないの!?」

「えっと……ミユさんが納得するものを手に入れたら、そこで契約完了になるので帰れる……はずです、たぶん」

 ギリーの目は元気いっぱいに泳いでいた。

「ゴブリンを全部倒してたらなー、槍とか牙を売ったらいい金になったのにな」

「私ってタダ働きしたのね!?」

「だから働いてないだろっ、たまたま風が吹いてスカートが……」

 ブランの顔が赤くなり、ムダに体力が回復してしまった。

「ギリーちゃんの杖って売れないの?」

「これはおばあちゃんの形見だからダメですっ」

「俺の剣もダメだぞっ、福引きの景品だけどなっ」

「でも、ミユさんに助けてもらったのは事実ですし、どうしてもお金が必要なら、バーレイの村に戻って借りることもできますよ」

「そのバーレイ村ってところまで、どれぐらいの時間がかかるの?」

「そうですね……馬車はお金がかかるし……私はほうきを使っても飛べないから、歩いて一ヶ月ぐらいですね」

 ミユはテーブルに倒れ込んだ。

「ATMないの?」

「何ですかそれ?」

「どうするギリー、どうせ俺たちも金はいるけどな」

「そうだよね、野宿が続くと辛いしね……」

 ギリーとブランは椅子から勢いよく飛び降りた。

「さあミユさんっ、行きますよ!」

「えっ、どこに? 今から!?」

「この街にもゼネラルギルドの支部があるので、ミユさんも登録しましょう! 無料ですから安心してくださいっ」

「三人のパーティなら少しは仕事も選びやすいしな」

「宝探しでもいいよね」

「お宝探しっ!? やるっ!」

 ミユの瞳がキランッと光った。


                     〔第2話 ギリーとブラン 終〕

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