第33話 気付いた時は大体遅いって事

「ふぁ~」


 昨晩、あんな事があったけど私はぐっすりすっきり寝られた。王城のベットは格別なのか、私の性格が図太いのか。はは。


 今は明け方近いので部屋はまだ薄暗い。私はのそのそとベットに座り直した。


 女神様、ドーンにあんな事しなくても… 一番大事なものが私だったなんて。


 …


 ふふふふふふ、普通に… 普通にうれしいなぁ。


 ん?


 !!!


 うれしいのか私!!!


 そっか… うれしいんだ~。


 あの時、死を覚悟した瞬間、頭に浮かんだのはドーンだった…


 てっきり、最後に目に映った人物だからドーンが出てきたと思っていたんだけど。


 そっか! そうなんだ!!!




 いや、でもそっか… なんだったよぉぉぉ。


 そうだよ… 今更恋心を自覚しても、ね。


 バカバカ、鈍い私。


 もうその想いが… ドーンの中には無いんだよ。


「無くなっちゃったよ」


 涙がポロポロ流れる。朝から心が響く。痛い。


「うっ、うっ、うっ」


 少しだけ私は泣いた。外に聞こえないように布団に顔を埋めて声を押し殺す。




「はぁ~、久しぶりに泣いたな。ふ~、さて、どうするか。これからだよね。命が助かったんだしね。文句を言っちゃいけないね」


 っと、クルスと話さないといけない事を思い出した。いっけない。私は寝巻きにガウンを軽く羽織ってドアへ向かう。


「クルス? 居る?」


「… もう起きたのか?」


「うん。ちょっとだけ話せる?」


「あぁ」


 ドアを開けクルスを招き入れた。


「今は誰も居ないし。中に入ってドア締めて」


 クルスは廊下を目視確認してから部屋に入る。が、ドアの側から動こうとしない。多分、クルスなりに気をつかてくれてるのかな? 未婚の女子の部屋だからね。


「ごめん、廊下だと聞かれたらまずいし。だから小さい声で話すね。あの男爵令嬢の話… 私、総団長にウソを報告をしたよね? それでその通りになったよね?」


「あぁ。なぜだ? もしかしてだが、お前も敵とグルなのか? もしくは潜入捜査とか?」


「はぁ? グルな訳ないじゃん。でもあの時黙っててくれて助かった」


「いや… 俺はてっきりスパイなのかと… だから敵の人数を知っていたのかもと思った」


「スパイね。そうくるか… てかどっち側の? も~、私はスパイではないわ。ただ、夢に見たのよ。信じられないでしょうけど」


 どこぞの王女様みたいだな。無理ある? でもこれぐらいしか誤魔化し方が思いつかない。


「夢だと?」


「うん。あのパーティーでの令嬢達とのやりとりを、つい先日夢で見てたの。その夢は『夜の庭園でドレス姿で男女2名の賊と対決する』と言う物。最初はピンと来なかったんだけどさぁ、『ドレス』と『不審者に呼び出される』で咄嗟に結びつけちゃった。ごめん。結果はいい方向へ向いたけど、違う結末を考慮しなかったわ。最悪な場合も想定するべきだった。2人とかじゃなく、複数班の可能性もあった訳だし… 団長として騎士として反省しないと」


「…」


「て、申し訳ないんだけど~この事は秘密にしてくれる?」


「あぁ。本当に結果が良かったからいいが… 今度から夢と現実を混同するなよ。それにそんな時は事前に誰かに相談するんだ。ドー… いや、ごめん」


「いいよ。そうだね。今度からはドーンのような、信頼出来る側近に話すよ。今後は無理だろうけどさ、ははっははは」


 クルスは気不味くなったのか私の頭を撫でて誤魔化している。慰めてくれてるのかな? その手はとても優しいので逆に寂しくなって来た。


 ドーン。


「その~ドーン様の事は残念だ。敵の攻撃だとしても… いつか記憶が戻るといいな」


「うん」


「団は違うが、俺もトリスも、それこそアレク様がいる。頼って欲しい」


「うん、うん」


 ダメだ。今日はダメな気がする。また、涙が溢れてきた。


 クルスはじっとその場で私が泣くのを見守ってくれた。側に誰かがいるのがこれほどありがたいと思った事はない。


 私はしばらくクルスに甘えその場でまた泣いた。


「ぐすん。は~、ごめん。泣いちゃダメなのに… でもスッキリした」


「あぁ。あまり溜め込むなよ。今、まだ時間がある、もう少し寝ろ」


「うん。ごめん、ありがとう」


 クルスはそう言うとドアの外へ出て、私は言われた通りにベットへ戻って2度寝した。



「ラモン様! 朝でございます!」


 王城の侍女さんが朝の身支度を手伝ってくれる為に入って来た。


「あ~、うん。おはようございます」


「今日はいい天気です。顔を~ って、キャ~!」


 叫び声を聞いたクルスが慌てて部屋へ入って来た。侍女さんは騎士の登場に慌てて訂正する。


「も、申し訳ございません! 何でもございません! 私が… 騎士様。大丈夫です。ですので、どうか外に。まだお嬢様は寝間着でございます」


「なっ。あっ、すまん」


 なぜかクルスは赤い顔で退出する。ははは。どうしたのかな? 侍女ちゃん?


「どうかしたの?」


「あ~、その~。ラモン様のお顔が… 顔が腫れておいでで… すみません。昨夜はパーティーでしたものね。お酒もすすんだのでしょう」


 やばっ。泣いたから。ごめんクルス。


「驚かせてごめんね侍女さん。昨夜は疲れてそのまま寝てしまって、へへ」


「いえ、私が悪いのです。こんな事で騒いでしまって申し訳ございません。では、そのお顔を落ち着かせましょう。今蒸しタオルをご用意致します」


「ありがとう」


「では、お着替えはお手伝いが必要でしょうか?」


「あぁ… 着替えが無いんだった。第3騎士団に使いをやって、私の騎士服を取ってくるように伝言をお願い出来る?」


「かしこまりました。朝食は部屋でお願いします。その際にお持ちします」


「何から何までありがとう」


「いえ。礼など不要です。では」


 侍女さんは一礼して退室した。


 は~、私の顔今どんな事になってる? プロの侍女さんが驚くぐらいだし相当パンパンそうだな。ふふふ。


 私はやる事がないので、ベットに仰向けに寝転がった。


 今日の会議? 審議? どうしようかな~。どんな感じなんだろう。


 って、私の秘密とドーンの記憶、そして王女と女神様。


 ドーンとアレクは秘密の事は知ってるけど。あ~今はアレクだけか。


 私の秘密を総団長にも打ち明けようか。


 どうしようか。でも悩んでもしょうがないか。事件とドーンの記憶が結びつかないもんね。


 うん。


 あとは信じよう。数ヶ月の付き合いだけど、総団長はきっといい人間のはずだ。

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