第4話『魔法使いシエラ』

「残念ですじゃ、勇者様。しかし、このローガン、いつか勇者様のお役に立ちましょうぞ! その時まで、しばしの別れですじゃ!」

 ローガンは気落ちすることなく、前向きに酒場から去っていった。

 いつかまたどこかで巡り合える。そんな気がした。



 ──選択は、成った。


 オレが選んだのは、シエラ。

 彼女はオドオドとして戸惑っているように見えた。


「あ、あの……あ、ああ、本当に、わ、わたしで……ごにょごにょ」

「これからよろしくな、シエラ」


 オレがそう言うと、シエラの口端がぐにゃあと歪んだ。あ、笑ったのか。

 それにしてもこう、なんか見た目を何とかしてあげたい。あげたいものの、そのためのお金がない。

 オレの装備品も何とかしなきゃだし、何をするにしてもまずはお金。

 オレのレベルも上がって何かスキルを覚えたし、シエラも仲間になったし、『次の町』へ向かう頃合いか。


 その前にまずは、シエラの戦闘能力を確認する。


 町の外。さっそく現れたのは、ゴブリン三体。以前だったら苦戦を強いられていただろうが、はたして。



「……っ!」

 ボゴォッ!

 シエラが無言で、杖でゴブリンの頭を殴った! ゴブリンの頭は陥没した! ゴブリンを倒した!

 ゴブリンは金切り声を上げると、シエラに飛びかかる。

 シエラは今度は杖の先で、ゴブリンを突いた。ゴブリンは右眼を貫かれた! ゴブリンを倒した!

 シエラは最後に残ったゴブリンの首を、右手で締め上げて、その首をへし折った! ゴブリンを倒した!


 ──なんだこれは。つ、強い。強いけど思っていた強さと違うこれ。

 まさかのパワーファイター脳筋なのか?


「し、シエラ。魔法を使うところを見せて欲しいんだけど」

「……あ! ご、ごめんなさい……ま、魔法……わ、忘れてました」

 

 気を取り直して。

 次に現れたのはスライム。


 シエラはぶつぶつと何かを唱え始めた。

 周囲に冷気が発生する。

 ふわりと風が、シエラの髪を泳がせた。


「きゃあっ! は、はずかしい!」

 シエラは顔を覆い隠してしまった。

 魔法は中断され、スライムがシエラに飛びかかる。


「スキル【強撃】!」

 オレは覚えたばかりのスキルでスライムを攻撃した。

 スライムは遠くまで吹き飛び、そのまま霧散していった。

 なかなかの攻撃力。これならこの一帯で一番強いモンスター、巨大アリも一撃で倒せそうだ。


「ゆ、ゆ、ゆうしゃさま……ごめんなさい。わ、わたしなんかを、守ってく、くれて……ありがとうございます……」

「……顔を見られることに抵抗があるのか?」

 シエラは頷いた。

「わ、わたしの顔、み、醜くて……見られるのが、恥ずかしい、です」

 醜い?

 ちゃんと見たわけじゃないが、さっきちらりと見えた顔は、まぁ……ちょっと薄汚れてはいたけれど、美人顔だったように感じる。


 と、ここでオレの中の……いや、オレが中の人なのだが、とにかく勇者カイが勝手に動いた。

 カイはシエラの髪をかき分け、顔をあらわにした。

 ──間近で見ると、その美しさがよくわかった。やっぱり薄汚れてはいるのだが、オレカイがこれまでの人生の中で見た誰よりも美しかった。どこが醜いんだ?


 そしてカイは言った。

「とてもキレイだよ、シエラ。自信をもって」

 瞬間、シエラの顔が真っ赤になる。タコよりもリンゴよりも赤い。

 こいつ(カイ)……まさかハーレム系勇者なのか!? さらりと恥ずかしげもなくそんな台詞を吐くなんて、オレにはできねー。


「ひ……きゃあぁぁっ!」

 視界が反転した。

 シエラの一本背負いが決まり、オレは地面に叩きつけられた。



 空は、青く、どこまでも広い。


 オレは、意識を失った。




 つづく!




名前 :カイ

職業 :ゆうしゃ

種族 :人間

レベル:4

所持金:250G

装備 :ショートソード

   :皮の服

スキル:強撃

アイテム:薬草


次のレベルまでの

経験値:9,170ポイント

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る