第78話 総理の土下座

 さぁ、とんでもないことになったぞ。

 大和総理が、暗奏の封鎖が実施されれば切腹すると言い出した。


「S級ダンジョン暗奏がSS級認定をされれば、諸外国から日本の侵略が始まる。この国は大きく弱体化するだろう。各国から迫害を受け、外交的均衡は崩壊。数年後には滅亡だ」


 日本消滅……。

 他国の領土になってしまうという意味か。

 



「日本は現存する世界最古の国だ。千年続いたデンマークより、2倍以上をも長い年月を国として形を保ち続けている。日本は世界で最も長く続いている国なのだ。そんな歴史のある国を滅ぼしてはいけない。我が愛する日本を、SS級ダンジョンの手によって、絶対に滅ぼしてはならんのだ!」




 日本って、世界最古の国だったのか……。

 知らなかったな。

 いや、仮に知っていたとしても、総理の切腹はどうなんだ?

 総理大臣の自決が問題解決の糸口にはならんだろう。

 総理が日本を引っ張らなくて誰が国を動かすんだよ。

 こりゃあ、なんとか説得して止めないといかんよな。


 彼は俺のそんな思いを払拭するように笑った。


「鉄壁殿。あなたの力は素晴らしい」


 いや……。

 そう言われてもなんて答えたらいいかわからん。


「本来ならば、暗奏封鎖のタイムリミットまでに、応援の探索自衛官を投入すべきであった。しかし、暗奏の力が強力すぎてな」


 援軍か。

 こんな凶悪なダンジョンに。


「それは悪手ですね。犠牲者が増えるだけだ」


「そのとおりだ。とても、こんな危険なダンジョンに援軍は出せない。つまり、あなたの強さに頼ってしまったのさ。全てをあなたに託してしまった。ダンジョン攻略に、この国の未来がかかっているというのにな。本当に情けないことだ」


「仕方ありませんよ」


「ぐぬぅうううッ!!」


 え!?


 総理は下唇を噛んだ。

 ジンワリと血が滴る。


 えええええええ……。

 俺、なんか地雷踏んだ?






「鉄壁殿! あなたは侍だ!」






 いえ、探索者です。

 単なる、普通の、なんなら最低等級の、D級探索者ですよ。

 あと、属性的には魔法使いかも。




「私は臆病者だ。全てをあなたに任せてしまった」




 いやいや。

 総理の支持率は90%を超えていたはず。

 歴代最高だよ。そんな人が臆病者ってさ……。

 日本の未来がかかっているんだからな。暗奏封鎖は止むなしですよ。


「しかし、もう逃げない! あなたとともに戦うことを誓った! この国のために、そして暗奏に囚われた2352人のために!」


 えええ!

 だからって、なにも自決するのは……。




「暗奏の封鎖が実行されれば腹を切る! 私も戦う! あなただけにこの国の未来を背負わせてなるものか!!」




 うわぁ……。

 もう、なにも言えない。


 一文字曹長は俺の肩を叩いた。


「鉄壁さん。総理はこういう方です。止めても無駄です」


 無駄なのか?

 でも……。


「孤独じゃないってのがわかると、ちょっと気持ちは強くなれるかもな」


「ええ。総理の宣言で、全国民は鉄壁さんを応援していますよ」


 総理は勢いよく頭を下げた。




ゴン!!




 ええ!?

 今、床にゴンっていったよ?




「鉄壁殿。どうかご無事で!!」




 ははは……。

 総理大臣にすごい頼まれちゃったよ。



「あなたの勝利を心より祈っております」



 ああ、本当にこの人は熱い人なんだなぁ……。


 あ、そうだ。

 これが最後になるかもしれないからな。

 言っておこうか。


「総理。頼んでもいいでしょうか?」


「はい。なんなりと」


「えーーと、逮捕されたの桐江田一尉でしたっけ。彼女の罪は不問にしてあげください」


「……心得た」


「あと、ここにいるイッチーもね」


「はい。国を代表して、2人の罪は一切問わないことを固く誓います」


 うん。 

 良かった。


 一文字曹長は笑った。


「鉄壁さん! ありがとうございます!!」


 ふふふ。

 彼女たちの強力がなかったら暗奏には入れなかったからな。

 みんなのために戦って、大きな罪を背負わされたらやりきれないよ。


 コメントは大盛り上がり。


『鉄壁さん! あんた侍だよ!』

『漢やわ』

『全俺が泣いた』

『日本の鏡』

『最高!』

『かっこいい!!』

『総理も何気にカッコ良す』

『鉄壁さん結婚してーー!』

『惚れてまうやろーーーー!!』

『総理に土下座させる漢www』


 さて、盛り上がってるのはいいけどさ。

 タイムリミットは近づいてるんだよな。


 早くボスルームを見つけないと。


「お兄ちゃん! 鉄のゴブリンが来たよ!!」


 やれやれ。

 グレイトメタルゴブリンが3匹かよ。


 15メートルを超える巨体が3つも揃ってるなんて壮観だよな。

 

 しかも、3匹の同時攻撃ですか。

 それぞれが両手に2本の斧を持つ。

 6本の巨大斧が俺たちを襲う。


 その振り下ろす風圧だけでも、体の小さなエリンは吹っ飛ばされた。


 だからってな。

 俺の仲間に、その斧を当てさせるわけにはいかないのさ。





攻撃アタック 防御ディフェンス100倍」





 俺の魔法壁は、敵の出した強風よりも、更に大きな風を発生させた。

 バチバチと稲光を纏う。


 総理の想いが、この拳に宿っているようだな。







「壁……。パンチ」





 

 それは強烈な一撃だった。

 今まで見せた壁パンチを凌駕する。


 渾身の一撃。





ドゴォオオオオオオオオオオオオオン!!




 100倍の魔法壁は3匹のグレイトメタルゴブリンを粉砕した。


「やったーー!! お兄ちゃんすごい!!」

「うは!! 流石は鉄壁さん! 一撃だ!!」

「す、すごい……。たった一回の攻撃で……。3匹一編に……」


 ふぅ。


「時間がない。急ごう」


 早くボスルームを見つけるんだ。


 暗奏封鎖まで、あと40分20秒。

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