第44話 エルフたちの居場所

 俺はダンジョン探索者協会に来ていた。

 ここは自治体が運営する地域密着型のダンジョンのなんでも屋さんだ。

 政府は困ったことがあればすべてこの協会に問題を放り投げるのである。


 それで、そんな所に来た理由なんだけども、


「アンダルハイヤーに帰れない?」


  寺開じあく  輝騎てるきによって拉致された5人の褐色エルフたち。

 彼女らが元の世界に帰れなくて問題になっているのだ。


 協会の職員は眉を寄せる。


「政府が管理する、あのダンジョンねぇ。福音ダンジョンって命名されたのだけど……」


  衣怜いれが俺との交際を宣言したC級ダンジョンだ。


「その最深部にアンダルハイヤーに通じる異界門があるのですが、開通スキル所持者がいないと通れないのだそうです」


 じゃあ、 輝騎てるきの仲間、あの黒装束の7人の中に、そのスキル持ちがいるんだな。


「そんなのは警察の調べでなんとかならないのですか?」


「それが順調なら、彼女たちは元の世界に帰ってますよ」


 確かにな。

  輝騎てるきめ、情報の開示をしていないんだな。

 警察の取り調べには非協力的な態度なのか。


「なんでも、 寺開じあくたちの供述ではね。開通門の存在は白を切っているそうですよ」


「はぁ……」

 

 やれやれ。

 開通スキル持ちはそれだけ重宝されるのだろう。

 国家としても身内に抱えたいが 輝騎てるきが手放そうとしないわけか。


「他の開通スキル持ちでは無理なのですか? ファンシーネイバーの開通門を通ることのできる探索者とか」


「残念ならが、術式が特殊らしくてね。異世界に通じる門は簡単には通れないらしいですよ」


 なるほど。

 アンダルハイヤーへはそれ専門の術式が使える開通スキル持ちが必要なのか。

 

「というわけでね。彼女らの居場所がないんですよ。一応、第一発見者に相談するのが筋ですからね。連絡させてもらいました」


 ふむ。


「今はどうしてるんです?」


「職員の宿直室に無理やり泊まってもらっていますよ」


 聞けば、5畳1間の狭い畳部屋らしい。

 5人の女が寝るには随分と窮屈そうだ。


「今後はエルフの支援団体にでも任そうとも思っているんですがね。いかんせん、いい噂を聞かないんですよ」


「というと?」


「裏で非人道なビジネスと繋がっていたり、職員の暴力が酷かったりとね。エルフは綺麗な女が多いですから、まぁ、そういう所なんです」


「ふぅむ……」


 そんな所に行かすのは忍びないな。


 5人のエルフを見ると、今にも泣き出しそうな目でことの成り行きを見守っていた。


 やれやれ。

 乗り掛かった船だ。


「わかりました。俺が面倒みます」


 片井ビルには空室があるからな。

 1部屋を彼女たちに貸してやろうか。

 2L D Kだから住むには困らないだろう。


「「「 ありがとうございます! 」」」


 エルフたちは大喜び。

 その足で片井ビルへと向かった。

 3階の部屋へと案内する。


「この部屋を使ってくれ」


「うわぁあ! 凄い綺麗ぇええ!」

「広い広ーーい!」

「すごいすごい!」

「夢みたい!」


 ははは。

 まぁ、喜んでくれてなによりだ。


「慣れないことばっかりで不安だろうけどさ。できる限り力にはなってあげるから」


真王まおさま! ありがとうございます!!」


 ま、 真王まおさま?


「いや、様付けなんて必要ないよ」


真王まおさまは命の恩人。敬うのは当然のことでございます。悪党から私たちを救ってくれました。その上、こんな素敵な住居まで充てがっていただけるなんて! 本当に感謝の言葉もありません」


「ははは。そう言ってくれると嬉しいけどね」


 彼女たちは拉致されて来た辛い境遇だからな。

 少しでも幸せになってもらわないとだ。


 彼女たちは姉妹だった。

 年齢は180歳前後。地球人でいえば18歳ということらしい。

 上から、ネマ、ネミ、ネオ、ネナ、ネネ。

 5つ子のようにそっくりな顔立ちだから、誰が誰かはわからない。

 しかし、流石はエルフ。みんな端正な顔立ちだ。

 みんな美人揃いなので、放っておけば簡単に犯罪に巻き込まれそうである。

 しっかりフォローしたげないとだな。


 あ、そうだ。


「今日さ。片井温泉が完成するんだ。良かったらみんなで入らないか?」


 温泉という聞き慣れない言葉に、褐色のエルフたちは小首を傾げた。

 しかし、しっかりと説明すると理解してくれた。


「屋上に大浴場があるのですか!? 流石は 真王まおさまです!! すごいです!!」

「ネネはお背中をお流しします!」

「ネミも!」

「ネナも!」

「ネオは前を担当いたします」

「狡いわよ! ネオ! 前は私よ!」

「私よ!」

「ネネよ!」


 いやいや。


「体は自分で洗うからね」


 てか、俺1人でゆっくりと入るつもりなのだがな。


 夕方になると西園寺社長も来てくれた。


「片井さん。装飾の岩はダンジョンから採って来たらしいな」


「ええ。噂になっている福音ダンジョンからですよ。今は立ち入り禁止区域ですからね。貴重な岩だと思いますよ」


「それは楽しみだな。もちろん、混浴だろう?」


 いや、もちろんって……。


「男女別では分けていませんからね。女性陣が入ってから俺は1人で入ろうかと思ってます」


「おいおい。そんな味気ないことを言うなよ。私は気にしないぞ」


「社長……。私も気にしません」


真王まおくん。私も……大丈夫だよ?」


 い、いいのだろうか?


 俺は女性陣の推しに負けてみんなで温泉に入ることにした。


 屋上に向かう途中。

 紗代子さんが不安げな顔を見せた。


「しゃ、社長……よろしいでしょうか?」


 ん?


「なんか心配ごと?」


「し、心配事というか……。私の給料なのですがぁ」


「なにかおかしいことでもあった?」


「基本固定給の他に、追加手当が100万円も振り込まれているのですが? これは??」


「ああ」


 なんだ、そんなことか。


────

次回、1章完結です。


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