第34話 紗代子さん、初めての探索①
〜〜片井視点〜〜
片井温泉の完成が近づいて来た。
地下から汲んだ温泉水は、解呪の魔晶石で清められて最高のお湯となる。
温度は42℃前後といったところか。浸かるなら最高の温泉だろう。
「社長。温泉の装飾案なのですが、檜の浴槽も素敵なのですが、周囲に岩を敷き詰めるというのも良いと思うんです」
確かに。
温泉といえばそのどちらかだよな。
これはダンジョンの温泉水だから……。
「やっぱり岩かな」
というわけで、ダンジョンから現地調達をすることにした。
紗代子さんは顔を赤らめる。
「しゃ、社長……。折りいってお話が」
理由を聞いてみると意外だった。
「ダンジョンで探索したい?」
「は、はい……。い、以前から興味がありまして……」
「へぇ。まさか、紗代子さんがダンジョンに潜りたいだなんてねぇ」
「め、め、迷惑だったら断っていただいても良いのです!
「俺たちのことより、紗代子さんだよ。ダンジョンはモンスターがいるのにさ。命の危険があるんだよ?」
「わ、わかっています。でも、片井温泉に飾る岩を私も選びたいんです。それに……。ダンジョンの探索は……ゆ、夢だったんです」
ふむ。
普通のOLだった人にもこんな想いがあったんだな。
まぁ、刺激的な仕事に憧れを抱く人は多いよな。
「でもさ、探索者って資格がいるんだけど……?」
「持っています」
と、見せたのは探索者の資格証だった。
おお……。流石は紗代子さんだ。
「あ、あの事前準備に必要な物があれば言ってください。すぐにご用意しますから」
「よし。んじゃ今から行こうか」
「い、今から!?」
「もちろんだよ。な?
「
「うう。ありがとうございます」
んで、来たのがこのダンジョン。
「はい。チーズ!」
カシャ!
3人で記念写真。
彼女は写真好きだ。
ダンジョンの入り口をはじめ、様々な場所の写真を撮っている。それらを厳選して身バレしないようにヅイッターに掲載しているらしい。
もちろん、3人の写真は思い出用だ。あとで送信してくれるみたい。
紗代子さんは大喜びだ。
「
「ああ」
本当はD級程度のダンジョンが初心者には良かったんだけどな。
温泉用の良い岩があるのがC級だったので、このダンジョンに来たわけだ。
んで、配信者なので当然。
「コウモリカメラの電源をオンにしてっと」
顔出しはしないが、体だけは映すからね。
「ども。みなさん俺です。今日は新しい仲間を連れてきました」
「は、初めまして……」
「えーーと。名前は……」
しまったな。
行き当たりばったりだから何も考えてなかったや。
本名はまずいし、
「事務とお呼びください。社長」
ええ……。
そんなんでいいのかなぁ?
「あはは! 私は秘書。お姉さんは事務ですね!」
「はい。よろしくね、秘書ちゃん」
「こちらこそ。よろしくお願いします事務さん」
ああ、なんか上手いこと纏まったな。
「そういうわけで。事務さんです。彼女は初めての探索なので、俺と秘書が全力でサポートします。今日はそういう配信です。みなさんよろしくお願いしますね」
コメントは大盛り上がりである。
『事務キターーーー!』
『秘書の次は事務www』
『ちょwww事務員ってw』
『鉄壁さんのこと、社長って呼んでなかった?』
『うぉおおお! スタイル抜群!!』
『肌、白ぉおおお!!』
『おっぱいデカいw』
『絶対に美人ですやん!!』
『鉄壁さん。裏山ぁああああ!!』
『なんかお姉さんっぽいキャラだな。さては年上と見た。あと、美人だよね』
『色気がえぐい』
『うち、女だけど嫉妬する』
『声が色っぽい。体はエロい。秘書ちゃんほどではないが巨乳。これはなんともすごい事務員が来たもんだな』
『新キャラに好感しかないのだが……』
『おい。美少女と美女との探索ってどんだけ裏山なんだよ』
投げ銭機能のウルトラチャット。通称ウルチャも入りまくる。
チャリーーン。
チャリーーン。
チャリーーン。
こりゃ、30万以上は確定だぞ。
しかも、全部、紗代子さんの質問じゃないか。
この調子なら200万回再生は確定だな。
もう、特別ボーナスもんだよ。
事務所に帰ったら伝えてあげよっと。
それでぇ……。
ウルチャは何が書かれてんだ?
えーーと、何々……。
『彼氏はいてますか?』 だって?
やれやれ。こういうセンシティブなことを平気で聞いてくるのがネット民なんだよな。
「さよ、じゃなかった事務さん。いちいち、答えなくていいから……」
「か、彼氏はいてません。でも、す、好きな人はいます」
おいおい、答えるのかよ。
しかも、好きな人いるのかよ。
「えーー! さ、じゃなかった事務さん、好きな人がいるんですかぁ?」
「おい。秘書。広げなくていいから」
「だってぇ。鉄壁さんも気になるでしょ?」
まぁ、ならないと言ったら嘘になるがな。
それに、一応、俺は上司だ。
社員のメンタル管理には責任がある。
紗代子さんが選んだ人なら問題はないと思うがな。
「俺は応援してますから」
彼女は嬉しそうで、それでいて悲しそうな、複雑な表情を見せた。
全身は真っ赤になっている。
やっぱり、繊細な話題だったな。
これからは気をつけないと。
「え? スリーサイズですか? 上から……90」
「おおおおおおい! 事務さん! 答えなくていいからあああ!!」
「す、すいません社長」
やれやれ。
紗代子さんは、めちゃくちゃお姉さんでインテリだから頼りになるんだけど、どこかピュアなんだよな。純粋すぎて危なっかしいというか。
まぁ、それが彼女の魅力ではあるんだろうけどさ。
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