第15話 クエスト挑戦

 俺と 衣怜いれは喫茶店でスマホ画面を見つめていた。

 

 昨日は日曜日で、一日中イチャコラしちゃったからな。

 彼女最高に可愛いんだ……。

 ベッドの中では誰にも見せない艶やかな表情を見せる。今、思い出すだけでも……。

 いかんいかん。

 月曜日は真面目に働かないとな。


 ということで、このスマホの閲覧は仕事の一環だったりする。


 観ているサイトはダンジョンギルドの掲示板だ。


 そこには依頼者が書き込みをしている。

 依頼内容は様々だ。

 レアアイテムの収集。レアモンスターの素材集め。などなど。

 中でもポピュラーなのがダンジョン駆除の依頼だ。

 ダンジョンは突如として生成される。それに迷惑をする地主は多い。

 モンスターが地上に出てくることはないけれど、地下からの地響きやモンスターの唸り声、悪臭は社会問題になっている。

 よって、ダンジョン駆除の需要は高い。定着する前に攻略すれば消滅させることが可能なんだ。

 目安としては、生成されてから3ヶ月以内にダンジョンボスを倒すと消滅させることができる。


 自由な探索も楽しいが、クエストをやるのも面白い。なにせ、報酬が豪華だったりするからな。


真王まおくん。このクエストなんかどうかな?」


「どれどれ?」


「これなんだけどね……」


 この気兼ねなく喋っているのは間違いなく 衣怜いれだ。

 あの日を境に敬語はやめてもらうことにした。

 そんなわけで、名前の呼び方は、さん付けから君付けになっている。


「結構、条件がいいと思うのよね」


 ふぅむ。


「敷地内にできたダンジョンの駆除をお願いします。……か」


 等級は、A級ダンジョンね。


「ダンジョン等級は無難だし。私たちならなんとかなると思ったんだけど?」


「最近ってのがどこまでの期間なのかね。日数をボカシているのは怪しいな。おそらく、時間が経っているんだろうな。少し成長してるから、S級レベルまで考えた方がいいかもしれないけどね」


「へぇ。そんなことまでわかるんだ」


「まぁね。こういう物件は怖いんだ。ダンジョンレベルを上げるとクリア報酬を上げざるを得ない。それに探索者だって限られる」


「ああ。だから、ダンジョン等級を通常より低く見積もるんだね」


「そういうこと」


「流石は 真王まおくんだ」


 いやいや、大したことじゃない。


「じゃあ、他を探した方がいいわよね」


「うーーん……」

 

 捨てるには惜しい。

 報酬が良いんだよな。

 駅近の一等地。そのビルを丸ごと貰える。

 探索者の事務所を構えるなら最高かもしれないぞ。


「挑戦してみる価値はあるな」


「了解。それじゃあ、依頼主にメールを送るね」


「うん。頼むよ」


  衣怜いれは気が利く子だ。

 配信ネームは「秘書」ってことになっているけどさ。本当に俺の秘書みたいな存在だよ。まぁ、今は俺の恋人になったけどね。


「早速、依頼主から返信があったよ」


「よし。依頼主に会いに行こう」


 そこは郊外にある大きな屋敷。

 その庭の中にダンジョンが生成されたというのだ。


 依頼主は西園寺不動産の社長だった。

 

 西園寺 磨魅絵まみえ

 

 32歳の女社長。

 ナイスバディの美人さんだ。


「随分と若い探索者だな。他にメンバーはいないのか?」


「はい。俺と彼女。2人だけでやっています」


「ふぅむ。片井さんの実績で来てもらったが少々不安だな。こちらとしても事故は避けたいんだ」


 聞けば、既に10人以上の探索者がこのダンジョンに挑戦して命を落としているという。


  衣怜いれは目を細めた。


「お言葉ですが社長。それならばダンジョンの等級をS級の表示で募集すればいいのでは?」


「おいおい。気軽に言わんでくれ。S級ともなれば災害級だぞ。そんなダンジョンが我が邸宅の敷地内にできたなんて世間に知れたら大事だ。そんなことで注目を集めるのは困るんだ」


 なるほど、


「だから、報酬が豪華なんですね」


「そういうことだ。それで察してくれるとありがたい。こちらとしては騙そうとしてるのではないからな。妙な噂は本業の不動産売買に影響する。西園寺グループはクリーンなイメージで行きたいんだ」


 ふむ、


「わかりました。裏がとれたなら話は早い。要はS級ダンジョンと考えればいいんですね」


「……まぁ、そういうことになるのかもな」


「やりましょう」


「え!?」


「挑戦すると言ったんです」


「ま、待て待て。聞いていなかったのか? S級だぞ?」


「ええ。挑戦しがいがありますよ」


「そ、そんな……。命を粗末にするんじゃない。こっちだって死なれたら気分が悪いんだ」


「では、死ななければいいじゃないですか」


「か、簡単に言うなよ。こちらとしては無事に生還して欲しい。なので、できればS級の探索者。A級でも上位クラスの人間が挑戦して欲しいのさ」


「俺では不満だと?」


「そうなるな。実績を信用して来てもらったが。まさか、片井さんはD級の探索者だったとはな。そっちの娘はC級だろう。よく、そんな低い等級でやってこれたもんだな」


「探索者の等級は目安ですからね」


 等級を上げるには試験があるんだよな。

 防御魔法しか使えない俺では、せいぜいC級が限界なんだ。

 その程度のモノなら試験なんて受けない方が楽なんだよな。


「お言葉ですが社長。うちの片井は凄まじい実力者ですよ。近年稀に見る、最強の探索者です」


 おいおい。

 買いかぶり過ぎだってば。


「ほぉ……。そんな風には見えないけどな。体も細いし、弱そうだ」


「ま、 真王まおくんは細マッチョなんです!」

「お、おい。 衣怜いれ、なに言ってんだよ」

「ご、ごめん。ついムキになっちゃった」


 彼女はコホンと咳払いをする。


「では、どうでしょうか? ダンジョン攻略に失敗した時は、経費を請求しないというのは?」


「なに!? 怪我代や、備品の費用は払わなくて良いのか?」


「はい。クエストの失敗による損失は、全てこちらが引き受けます」


 ほぉ。上手い交渉だな。


「うむ。それならばこちらに損はない。しかし、死なれては困るがな」


「そこは安心してください。 真王まおくんは防御のエキスパートですからね。それに、もしも、危なくなれば引き返すだけですよ」


「よし。気に入った。そこまで好条件なら飲もうじゃないか。ダンジョンに挑戦してもらおう」


 こうして俺たちはダンジョンに入ることになった。


「ごめんね 真王まおくん。私、出しゃばっちゃった」


「いや。助かったよ。交渉が上手いんだな」


「だって……。 真王まおくんが軽んじられるのは黙っていられなかったんだもん」


「ははは。まぁ、俺なんか大したもんじゃないけどな」


「そんなことないよ!  真王まおくんは探索の歴史に名を残す偉大な探索者なんだから……。そ、それに将来は私の……」


「ん?」


「な、なんでもないから!」


「変な奴だな」


「と、とにかく、 真王まおくんは偉大な探索者なの!」


「大袈裟だなぁ」


 まぁいいか。

 ともかく挑戦できることになったんだ。

 ダンジョンを攻略すれば一等地のビルが手に入るぞ。

 そうなれば憧れの事務所設立だ。


 しかも、配信も同時にするからな。

 配信料も投げ銭も入って一挙両得。


 コウモリカメラを起動してっと。


「よし。秘書さん。行きますか」


「うん。ま……じゃなかった。鉄壁さん。よろしくお願いします!」

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