第4話 食費を投げ銭機能で稼ぐ

 初配信から数日。

 俺は探索配信者としてのんびりとマイペースにやらせてもらっている。


 初回の配信は妙に伸びて200万再生を記録していた。

 いわゆるバズったというやつだな。

 チャンネル登録者は2万人にまで伸びている。


 これならば配信者として食べていけそうだ。


 しかし、問題はあった。

 金欠である。


 ダンジョン配信の撮影用に購入したコウモリカメラでお金を使ってしまったからな。

 配信の視聴料は来月振り込みなんだ。


 よって、今月分の食費がなくなった。

 冷蔵庫の物は食べてしまったしな。

 探索で入手したアイテムは金になったが、このマンションの家賃に消えてしまったんだ。

 大家は酷いよな。このマンションの外装はボロボロで、雨漏りもあるというのに、ちっとも改装してくれないんだ。

 とはいえ、家賃を滞納するわけにいかないしな。背に腹は変えられぬよ。


グゥ〜〜。


 虚しく響く腹の音。


 さて、困ったぞ。


「直ぐに金が必要だな」


 何か方法はないだろうか?


 と、配信の概要欄をスライドさせる。


「お!」


 ウルトラチャット。

 通称、ウルチャ。

 配信の投げ銭機能のようだ。


「これを使ってみようか」


 投げ銭は当日振り込み。

 この金が入れば飯が食えるぞ。





「はい。では、始まりました『防御魔法で探索チャンネル』。配信者の俺です」


 視聴者はさっそく千人を越えていた。


 ウルチャのことを知らせた方がいいだろう。


「えーーと。ウル……」


 んぐ。

 なんか言いにくいな。

 金を媚びているような気がしてきた。

 事実、切迫した状態で、緊急的に金は欲しいのだがな。


「それじゃあ、ダンジョン探索行きましょうか」


 ダメだ。言えん。

 こっそり機能をオンにしているのでそれでわかってもらうしかないな。


 真っ黒い狼のモンスターが出現する。


「はい。出ました。カースウルフですね」


 狼は牙を剥いて飛びかかってくる。


『ガルゥウウウウ!!』


 一度でも噛まれたら致命傷だ。


攻撃アタック 防御ディフェンス


 カースウルフは魔法壁に衝突した。


『キャイン!!』


「はい。これで攻撃は当たりません。攻撃アタック 防御ディフェンスは物理ダメージを限りなく無効にします。勿論、攻撃力の高さで魔法壁の分厚さは変わりますよ。薄ければ破壊されます。物理ダメージに対して壁の肉厚を計算するのがこの魔法を使うコツですね」


 で、この壁を押して、ダンジョンの壁とカースウルフを挟み込むっと。



ベチャァアアッ!!



「よし」


 撃破完了。


「俺の探索はこんな感じです。防御魔法だけでモンスターと戦ってます」


 コメントは大盛り上がり。


『いつもながら凄い!』

『鮮やか!』

『よ、壁職人!!』

『鉄壁の探索者!』

『モンスターを挟むの毎回ウケる』


 配信画面を映し出すコウモリカメラから妙な音が響く。


チャリーーーーン!!


 なんだこの音は?

 聞いたことがない効果音だけど?



【狸の 腹鼓はらづつみさんからウルチャが入りました】

500円。

『毎回、楽しみにしてます。これからも頑張ってください』



 うぉおお!

 マジか!

 これがウルチャ!


 500円も貰えてしまったぞ。


 宣伝しなくても気付いてくれるなんて、めちゃくちゃ嬉しいな。

 

「狸の 腹鼓はらづつみさん、ウルチャありがとうございます」


 これで牛松うしまつ屋の牛丼のセットが食えるぞ。


 その後も順調に進む。


ベチャァアアッ!!


「よし」


ベチャァアアッ!!


「よし」


チャリーーーーン!!



【ユラちゃんさんからウルチャが入りました】

300円。

『最高ーー! 防御魔法無双!!』



 このチャリーーンという音は癖になるな。


「ユラちゃんさん。ありがとう」


 これで牛皿が追加できそうだ。


チャリーーーーン!!


 うお、またか。


【最弱のスライム使いさんからウルチャが入りました】

300円。

『鉄壁の探索者! かっこいいです!!』


 鉄壁の探索者って誰だ?

 お勧め配信者なのかな?

 ちょいちょいコメントで見かけるんだよなぁ。謎だわ。


チャリーーーーン!!


 おお、まただ!


チャリーーーーン!!

チャリーーーーン!!


 ふほぉ!


 みんなありがとう!!


 いつしかこの音を聴くと唾液が出るようになってしまった。

 パブロフの犬になってしまったな……。


 ボスは巨大なミミズだった。


 10メートルを超える巨体。

 その体を地面に潜って移動する。

 しかも、土を掘るのではなく異空間に入ってその中を瞬時に移動するような感じだ。


 しかし、物理攻撃だしな。


攻撃アタック 防御ディフェンス


 これで防げる。

 と、思うや否や、魔法壁は破壊された。


バリィイイインッ!!


「おっと。強いな」


 ミミズの攻撃が俺の体にぶち当たる。

 そのまま受けていれば即死だったろう。


 だが甘い。俺は、瞬時に新しい攻撃アタック 防御ディフェンスを作っていたので、20メートル吹っ飛ばされる程度で済んだ。


「やれやれ。攻撃力が強すぎて魔法壁が破壊されたんだな」


 つまり、奴の攻撃を受ける場合は、魔法壁の厚みを分厚くしてやればいいんだ。


攻撃アタック 防御ディフェンス。3倍」


 さぁどうだ?


ガシィイイイイン!!


 ミミズは魔法壁に衝突した。


 うん。成功だな。


 あとはこれを……。


「ううーーん」


 押すのが大変なんだ。

 だが、これが終われば牛丼が食える。


「牛丼パワーーーー! うぉおおおおおお!!」


ベチャァアアッ!!


「よし。ボス討伐」


ゴゴゴゴゴゴーーーー!


 地響きだ。


「ああ、ここ発生初期だったのか」


 ダンジョンは消滅した。

 

 発生初期のダンジョンは、ダンジョンボスを倒すと消えるんだよな。


「はい。配信終了です。ご視聴ありがとうございました」


 俺の周囲には3組の探索パーティーがいた。

 どうやら一緒に潜っていた探索者らしい。

 みんなは顔を見合わせて、「あなたのパーティーがダンジョンボスを倒したのですか?」と探りを入れていた。


 単独探索は俺だけなんだよな。

 これは気不味いぞ。


 俺はそそくさとその場を去った。


 さて、ウルチャはどうなったかな?


「おお!」


 ウルチャはの総額は5千円を越えていた。


 こんなに貰ってもいいのだろうか?




 俺はそのまま牛松屋に入った。


「牛丼並のセット。それと牛皿を1つください」


 ああ、牛皿なんて久しぶりに頼んでしまったな。

 米が乗ってない肉だけのメニュー。腹具合からいえば割高なんだ。

 いわば贅沢品。

 

「はい。並のセットと牛皿ね」


 俺は牛丼をかっ込んだ。


 クッソ美味い!!

 腹に染みるぅうう!! 牛肉と甘い汁、米の旨みが胃袋に染みるんだ。


 少し、牛皿の肉が余る。

 このまま食べてしまってもいいが、これを肴にして……。


 こ、こうなると飲みたくなるよな。


ゴクリ。


「あ、あのぅ……。瓶ビールも1本もらえますか?」


「あいよ」


 ああ、頼んでしまった。

 牛丼屋で瓶ビール。

 確実に千円超えたな。

 牛丼屋で千円を超えるなんて、明らかに暴挙だろう。


 こんな贅沢ができるのも視聴者のおかげだな。


 みなさん、ありがとう。


 俺はキンキンに冷えたビールを一気に喉に流しこんだ。


「プハーーーーーーーー!!」


 牛丼の油とビールの苦味がハーモニーを醸し出す。


「最高だぁ」


 生きてて良かったよ。


 俺はお新香を追加注文するのだった。


 ほろ酔い気分で店を出る。


 牛丼屋で1500円。

 プクク、豪遊してしまったぞ。


 すると、目の前で2人の男女が揉めていた。

 格好からすると探索者だな。

 仲間同士のいざこざか?


「や、やめてください!」

「ふふふ。いいじゃないか」


 男が連れて行こうとしてる方角はホテル街じゃないか。

 無理やり襲うつもりかよ。

  

 部外者の俺が割って入るのもどうかと思うがな。

 

「いやぁ! 離してください!!」


 俺は思わず男の腕を取った。


「やめろよ。嫌がってる」


「なんだ貴様は?」


 えーーと。


「探索帰りの探索者だ」


「ふざけるな。ぶっ殺されたいのか?」


 と、男は俺の胸ぐらを掴み上げる。


 その瞬間、周囲は騒然とする。

 どうやら注目を浴びているようだ。


「貧相な装備だな。プクク。底辺探索者か?」


 凄まじい力だな。

 しかし、俺は凶悪なモンスターと戦う毎日だからな。

 こんな男が凄んだくらい、なんとも思わんのだ。


 魔法やスキルはダンジョンの中でしか発動しないからな。

 お互い条件は同じか。


「ゴミクズ探索者がしゃしゃり出てくるんじゃないよ」


 ゴミ……だと?

  炎の眼フレイムアイにいた頃を思い出すな。


「俺はA級パーティーだぞ? 貴様とは格が違うんだ」


 確かに、身につけている装備品は豪華だよな。確実に金を持ってる。

 

「格の違いを見せてやる。ゴミ掃除だぁ!! ハハハーー!!」


 男は俺に殴りかかってきた。


「喰らえゴミクズ野郎ぉお!」


 防御魔法は使えないけどな。

 散々、モンスターを魔法壁で挟んで来たからな。

 こちとら力がついてるんだ、


「よ」


ドン!


 俺は、男の拳より早く掌底を胸元に当てた。


「グフゥウッ!」


 男は3メートル以上吹っ飛んだ。

 そして、ガクンと気を失った。


「あちゃあ……」


 やりすぎたかもしれん。


「た、助けてくれてありがとうございます!」


 へぇ……。これはなんとも……。


 ネオンの光に照らされた彼女はアイドルのように可愛いかった。

 10代だろうか? まだ、幼さの残る顔立ちだな。

 輝く金髪。真っ白い肌。モデルのようにしなやかな手足。それなのに胸だけはやたら大きい。Hカップ以上はあるかもしれん。

 男が狂うのもわかる気がするな。


パチパチパチパチーー!


 拍手だと?


 周囲の野次馬が騒ぎ立てる。


「ひゅーー。やるねぇ」

「最高ぉ!」

「すっきりしたわ!」

「すげぇ」

「かっこいいわぁ……」

「勇気あるなぁ」

「強い探索者ねぇ」


 やばい。

 人が集まってきたぞ。

 面倒ごとはごめんだからな。


「わ、私、この人に迫られていて困っていたんです!」


「あ、じゃあ俺はこれで」


「え……!? せ、せめてお名前だけでも」


 あとは彼女だけでなんとかなるだろう。


 俺は足早に立ち去った。


 遠くから彼女の声が聞こえる。


「ありがとうございまーーす!」

 

 アニメ声優みたいな声だな。

 めちゃくちゃ可愛い子だった。


 


────


次回は赤木回です。

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