第2話 なんか跳ねたかもしれん

 さぁ、初めての単独配信だぞ。

 

 今まではメンバーに頼っていたからな。

 これからは自分一人でやらなくちゃいけないんだ。


 自分のチャンネルを立ち上げた。


 SNSが苦手な俺だが、それとなく工夫を凝らす。

 

『防御魔法で探索チャンネル』


 わかりやすいネーミング。

 初見にとっては意味不明かもしれないがな。

 俺は防御魔法しか使えないからこうなった。


 動画の主旨は簡単だ。

 その名の通り、防御魔法だけでダンジョンを探索する配信だ。


 俺は空飛ぶカメラに話しかける。


「えーー。聞こえるでしょうか?」


 このカメラはドローンタイプのダンジョン用撮影機。コウモリカメラ。通称コウモリ。

 機体のほとんどが画面になっていて、そこに配信画面が映し出されている。


「テステスーー。只今マイクのテスト中」


 視聴者はゼロだからな。

 マイクのテストを兼ねてダンジョンの歴史でも語ろうか。


「えーー。日本でダンジョンが現れたのは50年以上前に遡ります。不思議な地下空間。ダンジョンの入り口から異世界に通じているので、下水道や地下鉄なんかの影響は受けません。ダンジョンの中にはモンスターが存在します。階層は上層、中層、最下層と3種類に分かれており、深く潜るほどにモンスターが強くなる。でも、その分、貴重なアイテムが手に入ります。俺たち探索者はそのアイテムを売ったりして生計を立てているわけです。とはいえ、売れる物なんてのは中々見つからず、結局一番儲かるのは配信の視聴料だったりしますけどね」


 お!

 視聴者が3人になったぞ。


 1発目の配信タイトルは『防御魔法だけでダンジョン攻略!』なんだよな。

 一応、目を引くように工夫して、物珍しい感じにはしておいた。


 早速コメントが入ったぞ。


『男1人だけ?』


 あーー。

 やっぱりそこは気になるかぁ。

 配信業界は女子の人気がすごいからな。


「えーーと。単独パーティーなんで俺1人ですね」


 一応、配信者の名前は伏せている。

 片井ってのは 炎の眼フレイムアイの動画でバレているから使えないんだよな。


「配信者は俺1人です。よろしくお願いします」


『は? 男1人? さいならーー」


 え?

 ちょ、おい!


 視聴者が2人になった……。


 んぐ。

 早速めげそうだ。


  炎の眼フレイムアイの配信なら今頃千再生は余裕だったろうな。

 1日も経てば余裕で1万越えなんだ。

 やっぱりチャンネル登録者数10万人は伊達じゃない。

 それに比べて俺は登録者ゼロ人だからな。


 まだ始まったばかりだ。

 めげてどうする。


「じゃあ、配信の企画説明からします。この動画は防御魔法しか使いません。俺がそれしか使えないので」


 さっそくコメントがつく。


『は? マジで? どうやって攻略するん?』


 ははは。

 まぁ、そうだわな。


「俺も初めてなんで、どこまでやれるかわかりません」


『ちょw 危ないからやめとけって。大事故はバンの対象だぞ』


 そうなんだよな。

 配信視聴料をもらうからには血みどろの大怪我は御法度。

 死亡映像は1発でアカウントが停止なんだ。


「まぁ、ヤバそうだったら引き返しますんで」


 大怪我でも無事に生還できたら垢BANの対象にはならない。

 できれば無傷がいいんだ。


 お、視聴者が10人に増えたぞ。

 ふふふ。やっぱり危険そうな企画って伸びるよな。


「えーーと。今回攻略するのはA級のダンジョンです」


『は? ちょw マジでやめとけ!』

『単独でA級? アホなのか?』

『大怪我するのが関の山』

『せめてD級でやれし』


 ははは。

 まぁ、俺に失う物はないんだ。

 失敗したって別にいいや。

 

「んじゃ。行きます」


 1階層。

 出現したのは大きなゴブリンだった。


「はい出ました。ビッグゴブリン」


 B級モンスターだな。


『ちょ、デカイデカイw』

『単独は無理無理www』

『オワタ』

『通報事案』

『逃げてーー』


 体高3メートルはあるだろうか。

 大きな斧で攻撃してきた。



ブゥウウウウウンッ!!



 まともに食らえば即死だろう。

 でもな。



攻撃アタック 防御ディフェンス



ガジィインッ!!



 大斧は俺の手前で静止した。

 俺の防御魔法で透明の壁を作ったのである。

 ビッグゴブリンはその壁を破壊しようと力一杯押した。しかし、バジバジと火花が散らすだけで、俺の作った魔法壁はびくともしなかった。


 ふむ。

 これくらいはいつもの防御だ。


『え? すごくない?』

『マジか!』

『すさまじい安心感』

『どうやって倒すんだ?』


 そう。

 この探索のキモはモンスターの討伐方法にあるんだよな。


 さて、どうやって倒そうか?

 本来ならば、他の仲間が攻撃してくれるところ。

 今回は俺1人だからな。


 とはいえ、何度かはしたことがある。

 メンバーが他の敵で忙しそうだったからさ。


 この攻撃アタック 防御ディフェンスをな。


 こうやって押して……。


ググググググ……。


「斧、返却」


 その瞬間。

 大斧はビッグゴブリンの体に衝突。



バンッ!!



 魔法壁に押されたまま壁に激突。

 斧と壁に挟まれて体が分断した。


「よし」


 なんとかなりそうだ。


『強ーーーー!!』

『マジかーー!!』

『企画の主旨理解』

『すげーーーー!!』

『ワロタw』


 んじゃ、この調子で行こうか。


 鎧ドクムカデとスピードキャンサーが現れる。


 百足と蟹のモンスター。


 こちらも攻撃アタック 防御ディフェンスで攻撃は当たらない。

 加えて、ビッグゴブリンと同じように魔法壁を押し込んで、壁に激突させて討伐する。



ベチャァアアッ!!



「よし」


『ちょ、強ぉwww』

『ウケるwww』

『マジかコイツ』


 次々に出てくるB級モンスターを壁と魔法壁で挟む。


ベチャァアアッ!!


「よし」


 こんな敵くらいならな。


ベチャァアアッ!!


「よし」


 すぐに倒せるかもしれん。

 

 魔法を使う敵が現れても、


属性アトリビュート 防御ディフェンス。炎」


 これで防御。

 属性を追加して防御する。


 物体に触れるのは攻撃アタック 防御ディフェンスだけだから、その魔法壁を出してダンジョンの壁と挟んで倒す。


ベチャァアアッ!!


「よし」


 最深部近くになると流石に不安になった。


 うっ……!


 この動画、何が面白いんだ?


ベチャァアアッ!!


「…………よ、よし」


 まぁ、いっか。

 初めての配信だしな。

 失敗しても許されるだろ。


「ボスステージ到着」


 フレイムブリザードドラゴン。


 A級のモンスター。


『これは流石に無理だろ!』

『このドラゴンのノーダメ防御はできないぞ』

『主さんピンチか?』


 確かに。

 このドラゴンの攻撃は厄介なんだ。

 炎と氷のミックスブレスを放ってくる。

 ブレス攻撃は魔法と物理の混合ダメージなんだよな。

 通常打撃無効の攻撃アタック 防御ディフェンスだけじゃ壁を貫通してくる。

 なので、


魔法マジック 防御ディフェンス 属性アトリビュート 防御ディフェンスの混合にする」


 フレイムブリザードドラゴンは氷と炎の息を吐いてきた。


 魔法壁に属性を付与することを忘れてはいけない。


混合ミックス 防御ディフェンス。氷、炎」



パシィーーーーーーンッ!!



 成功。


「よし」

 

 これでヤツの攻撃は通らない。


 尻尾攻撃はシンプルに攻撃アタック 防御ディフェンスで防御だ。


 物理も属性攻撃も全て防御する。


「はーーい。うんじゃあ攻撃アタック 防御ディフェンスで挟んでぇ」


 と、押してみるもビクともしなかった。

 流石はA級だな。

 魔法壁で挟むのは無理があるのか。

 

 んじゃあ。

 氷と炎のブレス攻撃がきたら……。


反射防御ミラーディフェンス


 ブレス攻撃を反射してそのまま返す。


『ギャォアアッ!!』


 ドラゴンは絶命した。


「よし」


 ああ、なんだかんだで楽勝だったな。

 こんなアホみたいな動画、誰も見てくれないか。


 ドロップアイテムを回収するのが怠いな。

 リュックがパンパンだよ。


 やれやれ。

 んじゃあ、締めの挨拶だな。


「えーーと。これで終わりです」


 視聴者数が気になるな……。


 せめて10人は残っていて欲しい。

 あ、すいません。欲言いました。5人でも嬉しいです。


 と視聴者数を見てみる。


「え?」


 ゼロが1、2、3、4、5……6。


 視聴者数、ひゃ、100万人?

 し、信じられん。

 俺のチャンネル登録者はゼロ人なんだぞ?

 は、初めての配信が100万再生を越えてるだとぉ!?

 



『ちょ、すげぇええ!!』

『無敵すぎぃいいwww』

『A級ダンジョン単独制覇、しかも無傷wwwww』

『探索とはなんぞ?w』

『神か』

『めちゃくちゃ面白いです!』

『最高でした!』

『笑うしかない』

『探索の歴史がまた1ページ』

『期待の新人登場!』




 ああ、なんか盛り上がってるし……。



──


次回は赤木たちの回です。

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