鉄壁さんは防御魔法で無双する〜不遇な探索者は単独配信でバズった。おかしいな? 俺は敵の攻撃を完璧に防いでいるだけなのだが?〜

神伊 咲児

第1話 無能と言われて追い出される

「片井  真王まお。おまえにはこの探索者パーティー 炎の眼フレイムアイから出ていってもらう」


 と、宣言したのはリーダーの赤木だ。

 赤い髪をしたヴィジュアル系のイケメンである。

 剣技を得意とするやり手の探索者だ。


「あ、いや、赤木。そりゃないよ。2年間一緒にやってきた仲じゃないか!」


「うるせぇ! この役立たずが! おまえの面倒を見るのももう限界なんだよ!!」


「し、しかし。このパーティーの雑用は全部俺がやってきたんだぞ? 役立たずってことはないんじゃないか?」


「雑用をするのは当たり前だろうが! なにせ、てめぇは防御魔法しか使えねぇんだからな! この無能が!」


「うう……」


 確かに。

 俺は防御魔法しか使えない。

 いつもモンスターを倒すのは赤木や他のメンバーだ。

 だから、頼り切るのは悪いと思って、パーティーの雑用を率先してやっていたのだがな。


「戦闘で疲れてんだよな? ははは。マッサージしてやろっか? いつもみたいにさ」


「もうそういうのもウンザリなんだよぉ」


「うう」


 マッサージでもダメか。


「やってもらうんならおまえみたいなむさい男より可愛い女の子がいいっての!」


 た、確かに。


「さっきの戦闘を見たか? おまえは何もやってなかったじゃないか!」


 それは……。


「防御魔法でだな──」


 みんなに攻撃が当たらないようにしていたんだが……。


「見苦しい言い訳はやめろ! おまえみたいな無能に配信視聴料を分配すんのがバカらしくなったんだよ!! この寄生虫がぁああ!!」


「き、寄生虫……」


「なんだぁ? 言葉尻が気になんのか? だったら蛭だ。俺たちの努力の結晶をチュウチュウ吸ってる蛭野郎だ、てめぇはよぉお!!」


 ひ、蛭……。

 どっちにしろ酷い言われようだ。


「俺たち 炎の眼フレイムアイのチャンネル登録者数は10万人を超えた! その配信の視聴料は40万円だ。ところがメンバー全員4人で割ったらどうなる?」


 4分の1。

 つまり、1人10万円だ。

 しかし、


「俺は7万円しかもらっていなかったが?」


「7万円でも貰えていたら御の字だろうがぁあああ!!」


 た、確かに。

 俺みたいな能力の低い人間からすれば当然かもしれん。


「おまえみたいな蛭野郎にチュウチュウ吸われたら迷惑なんだよぉおお!!」


「うう」


 心に響くなぁ。


「てめぇみたいな無能の雑用係になぁ、貴重な視聴料が吸われていると思うとやりきれねぇえんだよ。このゴミクズ人間がぁああ!!」


「ううう」


 反論ができん。


 赤木は仲間の2人に意見を求めた。


 1人目は水属性魔法を得意とする青野原。

 彼は青い髪の毛をした秀才だ。

 背が高くてイケメン。女子のファンが多い。


「僕も片井は無能だと思いますね。 炎の眼フレイムアイには不要のゴミかと」


 最後は紅一点。

 木属性魔法を得意とする緑川だ。

 緑色の長髪。鋭い目をした強気な性格だ。

 ファンの中では女王様なんて呼ばれていたりする。


あたしも片井は雑魚だと思うわね。追放には異論ないわ」


「ギャハハ! 聞いたか片井? みんな同じ思いなんだよ! てめぇはゴミクズ無能蛭人間なんだよぉおおお!!」

「フフ……。ゴミクズ無能蛭人間とは……」

「アハハ! ちょ! 二つ名が長いじゃない。ウケるぅうう!!」


 ああ……。

 まさか、これほどまでに俺の身分が低いとは。

 悲しい思いも強いが、迷惑をかけていたと思うと謝罪の気持ちすら湧いてくるな。


 俺は深々と頭を下げた。


「すまん。なんか凄まじく迷惑をかけていたんだな」


「チィッ! まぁ、わかればいいんだぜ。失せろ。シッシッ!」


 俺はもう一度、深々と頭を下げた。

 そして振り返りトボトボと歩く。

 向かうはダンジョンの出口である。


「ギャハハハ! 害虫駆除成功ぉお!!」

「ぷふぅ! 害虫とはプクク」

「あはは! ちょ、ウケるぅううう!!」

 

 俺は彼らの笑い声を背に受けながらダンジョンを出た。


 外は夜である。


 繁華街はいつものように賑わっている。

 スーツを着たサラリーマンが飲み屋を渡り歩く。


 ああ、俺もサラリーマンになろうかな?


 そんなことを思いながら、フラフラと家路へとたどり着いた。


 そこは家賃5万円のワンルームマンション。

 外装からしてボロボロで、近所からは幽霊マンションと呼ばれている。

 幽霊なんて出ないが、雨が降ったら雨漏りが酷い。


 シャワーを浴びた後、気になった。


 やっぱり、最後のやり取りは配信していたのだろうか?


 パソコンを立ち上げて 炎の眼フレイムアイのチャンネルを見てみる。


 そこには『無能のメンバーを追放してみた! 【ガチ企画】』というタイトルの動画があった。


「なんだよ……これ?」


 さっきのやり取りである。

 俺が追放された瞬間が配信されていたのだ。

 再生数は50万。

 なかなかにバズっている。


 コメントは酷かった。


『害虫駆除最高ww』

『企画オモロw』

『この片井って奴、被害者ぶっててキモいな』

『片井ヤバイだろ』

『仕事せずに7万円は泥棒すぎる』

『無能は家に帰ってゲームでもしてろ!』

炎の眼フレイムアイの名を汚すな!』

『青野原様と女王様に土下座して欲しいわ』

『片井サイテーー』

『追放ざまぁwww』


 ああああ……。

 なんて言われようだよ。


 俺の顔にモザイクがかかって、声がボイスチェンジャーで変わっていることが唯一の救いだよな。

 晒されていたら自殺していたかもしれない。

 それでも相当にメンタルはやられたがな。


 俺……。

 やっぱり探索者、向いてないのだろうか?


 現在22歳。

 高校を卒業して探索者専門学校に入ってさ。

 20歳で探索者デビュー。

  炎の眼フレイムアイで2年間やってきてさ。

 最後がこれかよ。

 笑い物にされて終わる。


 こんなのが俺の描いていた探索者か?


 いや、違うよな?

 絶対に違うよ!


 俺は缶チューハイを一気に飲み干した。




 次の日。

 有金を叩いてダンジョン配信用のカメラを買った。


 10万円は高いが必要経費だ。


 俺の背後に浮かんでいるのはダンジョン攻略の動画を撮影してくれる専用撮影機。コウモリカメラ。

 現在のダンジョン配信者はみんなこれを使っているんだ。


「えーーと。まずは顔は出さない方向でいこう」


 設定をすれば俺の顔は映さない。

 戦闘の風景描写だけを綺麗に撮影して配信してくれる。


 最後にやってやるさ。

 単独のダンジョン配信。

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