第二話「ボーイ・ミーツ・マジカルガール」
亮に付き添った後、病院を出た優斗を待っていたのは、二十代前半頃の男性だった。
「ブルーだ。君は今日が初めての装着と戦いだったんだな。私が所属している会社で詳しいことを話したい。車に乗ってくれ」
「えっと……」
ブルーの言葉に優斗がためらっていると、インテリジェント・ストーンが語りかけてきた。
『大丈夫。インテリジェント・ストーンに選ばれた彼は信用の置ける人物だ』
「そうなのか……わかりました。乗ります」
優斗は彼の運転する白いセダンに同乗した。
「私は、この姿の時は
「宝田優斗です」
「そうか。よろしくな、宝田くん」
街中を走り抜け、二人の車がやって来たのは、郊外にある雑居ビルだった。
3階にあるオフィスに案内されると、二十代後半頃の女性に出迎えられた。
「ただいま帰りました、社長」
「おかえりなさい、村上くん」
「社長。彼がさっき電話でお話しした新しい適合者です」
社長と呼ばれた女性は優斗に話しかける。
「はじめまして。私は村上の上司の
「はい。そうみたいです。宝田優斗といいます」
「そう。よろしくね。事情はどの程度まで知っている?」
「最近あちこちで暴れまわっている怪物がいるのはネットやテレビで知ってました。今日知ったのは、そいつらがルードっていう超古代文明の兵器で、それと戦うのがインテリジェント・ストーンの適合者だっていう話です」
「そうよ。超古代文明の兵器を操って、現代社会を混乱に陥れようとしている者たちがいるの。彼らの名はゴストレア。復活した超古代文明勢力よ」
「ゴストレア……」
「そして、彼らとの戦いを請け負っているのが、我々ヒーロー派遣会社『ヒーローズ』よ」
「ヒーローズ……」
「村上は我が社に所属している社員よ。ルードが現れるたびに現地に派遣して、撃退してもらっているの」
「そういえばニュースやSNSで、ルードと戦っている姿を見たことがあります」
「そこで君に相談なんだけど、君も我が社で働いてくれないかしら。つまり、ルードと戦う戦力になってほしいの」
「ええっ!? でも、俺、まだ高校生ですよ」
「アルバイトという形でいいわ。ちゃんとお給料も出します」
「うーん……」
「ルードには通常兵器は通用しない。インテリジェント・ストーン……私たちはインストって呼んでるけど、その力を引き出せる者しか対抗できないの。そして、それができる人間は限られている。あなたの力が必要なの」
「話が突然すぎて……しばらく考えさせてください」
「わかった。良い返事を待っているわ」
「ありがとうございます」
ヒーローズから家への帰りは、また村上が車で送ってくれた。
「親に何事かと思われちゃうんで、家から少し離れたところで降ろしてください」
「わかった」
そういうことで、優斗は自宅から少し離れたコンビニの前で降ろしてもらった。
村上に別れを告げ、その車を見送った優斗が家に向かって歩き始めた時。
トンッ。
優斗の背中に何かがぶつかった。
「……?」
振り返るとそこには、洗面器が宙に浮いていた。
「!?」
優斗が目の前の事態を把握できずに戸惑っていると、
ぶうううん!
とうなりながら、洗面器が優斗に向かって水流をほとばしらせた。
「うわ!」
反射的に後ずさる優斗。
しかし、洗面器は今度は直接優斗にぶつかってきた。
「な、何なんだよ、一体!」
優斗は手で洗面器を払い落とそうとするが、洗面器は宙を飛び回りながら優斗にまとわりついてくる。
優斗が困り果てていた時、
「やめなさい!」
少女の声が響いた。
声の主は、オレンジ色のファンシーな衣装を着てステッキを持った、オレンジ色の髪の少女だった。
「あっ! ゆ……そ、その人から離れなさい!」
一瞬、少し焦った様子だったが、気を取り直して洗面器に向かって言い放つ少女。
ぶうううん!
しかし、洗面器は相変わらず優斗の周りをぶんぶんと飛び回っている。
「離れなさいって……言ってるでしょ!」
そう言って少女がステッキを振るうと、ピンク色の光線が放たれた。
ぶうううん!
それをひらりとかわし、優斗から離れる洗面器。
「大人しく……つかまりなさい!」
優斗の頭上をくるくると円を描くように飛び回る洗面器に向かって、少女のステッキから再びピンクの光線が放たれた。
弧を描くような光線が、今度は洗面器を捉えた。
「キャッチ!」
少女が叫ぶと、洗面器は彼女が左手に持っている瓶に吸い込まれていった。
「これでよし……っと」
「あっ、待って!」
瓶にふたをして立ち去ろうとする少女に向かって、優斗が声をかける。
「な、何か?」
「今の洗面器は一体? 君は何者なんだ?」
「わたしは……魔法少女フラワーガール。今の洗面器は魔法界のマジックアイテム。わたしは魔法界からこちらの世界にやって来て悪さをするマジックアイテムを回収しているの」
「魔法少女……魔法界……」
「それじゃあ」
「あっ、ごめん。もう一つだけ」
「何?」
「そんな仕事をしていて、大変だと思ったりはしない?」
「そうね……思わないこともないけど……困っている人がいて、自分にそれを助けられる力があるのなら、できる範囲で何かをしたいって思ったから」
「そうか……教えてくれてありがとう。それから、助けてくれてありがとう」
「どういたしまして……それじゃあね」
少女は優斗に別れを告げると、背中を向けて助走をつけてから十数メートル飛び上がり、空を飛行して去って行った。
「空、飛べるんだ……さすが魔法少女……」
優斗は感嘆のつぶやきを漏らした。
「そうか……俺と同じぐらいの歳の女の子でも、あんなふうに頑張っているんだな……」
帰宅して自室に戻った優斗は、スマホでネットを検索してみた。
魔法少女フラワーガール。
優斗も後から思い出したが、ルードと戦うヒーローと同様、ファンシーな衣装を着た少女の活動もネットで話題になっていたのであった。
しばらく考えた後、優斗は電話をかけた。
「もしもし、宝田優斗です。『ヒーローズ』の小川社長ですか? さっきの話ですけど、お受けします。ヒーロー、やります」
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