変身ヒーローと魔法少女

彼野あらた

第一話「新ヒーロー誕生」

 桜の花が舞っていた。

 高校の入学式が終わった後、それぞれ新品のブレザーに身を包んだ宝田優斗たからだゆうと河内かわちれんげは、校舎の前でばったりと顔を合わせた。


「ああ、れんげ。今回は同じクラスだったな」

「そうだね。中学ではずっと別々のクラスだったから、ひさしぶりだね」

「そうだな」


 優斗とれんげは幼馴染である。家が隣同士で、物心ついた頃からの付き合いだ。小さい頃はよく一緒に遊んでいた。成長するに従って、それぞれ同性の友人と付き合うことのほうが多くなったが、今でもそれなりに交流はある。


「もう帰るのか?」

「うん、そうだよ。優斗ももう帰り?」

「ああ。やることもないしな。ひさしぶりに一緒に帰るか?」

「あ、ごめん。今日はちょっと寄る所あるんだ」

「そうか。じゃあ、またな」

「うん。じゃあね」




「なあ、高校の部活は何にするか決めたか?」


 学校からの帰路、優斗は並んで歩いている平田亮ひらたりょうに尋ねた。


「僕は高校でも陸上部に入るよ。走るの好きだし」


 亮は優斗と同じ中学の出身で、部活も同じ陸上部だった。高校では同じクラスである。


「優斗はどうするの?」

「俺はまだ決めてない。というか、部活よりバイトをしたいと思ってる」

「そっか。また一緒に陸上できればと思ったんだけど、ちょっと残念だな」


 そんなことを話しながら、優斗たちがアーケード街のそばを通りかかったときのことだった。

 アーケードの中から悲鳴が聞こえてきた。


「!?」


 何事かと、アーケードの中に入ってみると――


「るおおおお!!」


 異形の存在が吠えていた。

 直径二メートルほどの黒い球体に人間のような手足が生え、胴体と思われる球体を土星の環のように環が囲んでいる。

 その存在の周りの地面には何人かの人が倒れていた。


「あれは……最近ニュースになってる怪物!?」


 優斗はネットの情報を思い出した。今年に入ってから各地で異形の怪物が現れ、人を襲ったり、破壊活動を行っているというのである。だが、実際に目にするのは初めてだった。


「るおおおお!!」


 怪物は再び吠え、今度は優斗たちのほうへ向かってくる。


「うわあっ!」


 優斗と亮は逃げ出そうとしたが、怪物は想定以上の速さで突進し、亮を弾き飛ばした。

 亮は地面に倒れ込み、動かなくなる。


「るおおおお!!」


 怪物は声を上げると、亮に向かって拳を振り上げた。


「やめろー!」


 優斗は怪物にしがみついて止めようとしたが、あっさりと振り払われる。

 そして怪物は再び亮に向かって拳を振り上げた。

 その時。

 一条の赤い閃光が怪物を撃った。


「るおお!」


 十メートル近く後退する怪物。


「何だ……?」


 いぶかしむ優斗の前に、一つの物体が浮いていた。

 スマホ大の赤く光り輝く石。

 先刻怪物にぶつかったのはこれらしい。


『適合者よ』


 優斗の頭の中に声が響いた。


「!?」

『我はインテリジェント・ストーン。今、汝の前に在る存在』

「適合者……? インテリジェント・ストーン……?」

『適合者とは我の力を引き出せる者。インテリジェント・ストーンとは意思を持った石だ』


 突然の事態に頭がついていかない優斗に構わず、インテリジェント・ストーンと名乗った石は話を続ける。


『我は汝に願う。汝が我を手に取ることを。そして、我と共に戦うことを』

「突然そんなことを言われても……」

『友を救いたいのだろう?』

「それは……」

『我にはその力がある。汝に戦う力を与えることができる』

「…………」


 しばしの逡巡。

 しかし、頭に響く声は、インテリジェント・ストーンを名乗る石を信じさせる何かを感じさせた。


「わかった。力を貸してくれ」

『承知した』


 インテリジェント・ストーンは優斗の手の中に飛び込んできた。


『我を手に取り、「装着」と唱えよ。さすれば汝は戦う力を得るだろう』

「よし……装着!」


 その瞬間、優斗は赤い光に包まれた。

 そして、その光が収まると、頭から手足の先まで、赤いメタリックなスーツに身を包んでいた。


「るうううう……」


 そんな優斗のほうに向かって、怪物は警戒するようなうなり声を発している。


「行くぞ!」


 優斗は怪物に飛びかかった。


「るおおおお!」


 迎え撃つ怪物。二つの姿がぶつかり合う。


 打打打打打!


 優斗の左右の拳の連打が、怪物の腕を弾き、球体部分に打撃を加える。


「はああああっ!」


 そのままラッシュは続き、怪物は徐々に後ずさっていった。

 が。


「るおおおお!」


 咆哮とともに、怪物の球体の上部からクレーンのような腕が生え、優斗に向かって振るわれた。


「!」


 腕を交差させ受け止める優斗。

 怪物はその勢いのまま左右と上の腕で攻め立てる。


「ちぃっ!」


 優斗は大きく飛びすさっていったん距離を置いた。


「くそっ手強いな。腕が三本もあるし、頑丈だし」

『装着者よ。技の出し方はわかるな?』

「そう言われると……頭の中にイメージが湧いてきた」

『それは我の情報が汝に伝わっているからだ。まずは小技で相手の体勢を崩し、相手の隙をつくれ。そして大技を撃ち込むのだ』

「了解……っと!」


 優斗はインテリジェント・ストーンと言葉を交わしながら、突っ込んできた怪物をかわした。


「ショットアタック!」


 優斗の拳から無数の光弾が撃ち出される。


「るおおおお!」


 とどめには至らないものの、怪物が大きくバランスを崩した。


『今だ!』

「クラッシュアタック!」


 優斗の全身が赤い光に包まれ、一個の巨大な砲弾となって怪物にぶつかっていった。


「るおおおお!!!!!」


 怪物は体を大きく震わせ、一声大きく叫びながら、光の粒子となってかき消えてしまった。


「やった……のか?」

『ああ。倒した」

「そうか……」


 そして一息ついた優斗に向かって声をかける者がいた。


「どうやら既に終わってしまったようだな」


 振り返るとそこには、優斗が装着しているものと似た、青色のメタリックなスーツを身に着けた人物が立っていた。


「どうやら君がルードを退治してくれたみたいだな。礼を言う。ありがとう」

「あなたは……?」

「私はブルー。君と同じくルードと戦っている者だ」

「ルードというのは?」

「君がさっきまで戦っていた怪物。超古代文明の兵器だ。インテリジェント・ストーンから聞いてないのか?」

「まだそこまでは……インテリジェント・ストーンのことも知ってるんですか?」

「ああ。私が着ているこのバトルスーツもインテリジェント・ストーンの力だからな」

「なるほど……」

「詳しく話したいところだが、今は怪我人を助けるほうが先だな」

「あっ、そうだ。亮!」


 優斗は装着を解き、亮のもとへと駆け寄った。


「う、うーん……優斗……?」

「大丈夫か、亮!?」

「僕は……確か怪物に襲われて……」

「気を失っていたみたいだな。怪我はないか?」

「うん。ちょっと体が痛い……」


 二人が話しているところへブルーもやってくる。


「重傷ではないみたいだが、念のため病院で診てもらったほうがいい。救急車も来たところだ」


 いつの間にかアーケードの入り口付近に救急車が停まっていた。

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