犬の骨 19

「火事ですか、救急ですか」

119番に電話をかけると、間髪入れずに繋がった。

「救急です!子どもを轢いてしまって…酷く出血しているのですが、どこが傷口なのか…意識も無くて…!」

子どもを抱えた左手からは、ぬるりとした嫌な感触がする。

暗くてよくわからないが、大量に出血しているらしい。

「場所はどこですか」

「S市からO市に抜ける、国道〇号の山の中の道で…こんな夜中に子どもが一人で…急いで下さい!」

「落ち着いて、近くに明かりはありますか」

「ヘッドライトはつけてますが…」

「明るい所で、その子の姿を確認してください」

ふと子どもを見下ろすと、自分が影になってよく見えなかった。

そのまま向きを変えて子どもをヘッドライトの明かりで照らせるようにした。

私が抱えていたのは地蔵だった。


意味がわからなかった。

確かに幼稚園の制服のような格好をした子どもだったはずだ。

地蔵を抱えた左手を見ると、夜露に濡れたコケがぬるぬるとしていた。

声も出せずにいる私に、オペレーターの方が電話の向こうから声をかけた。

「もしかして、お地蔵様ですか?」

その言葉にさらに驚き、思わず携帯電話を見つめた。

「あの…確かに子どもだったんですけど…今地蔵を抱えていて…」

「国道〇号のS市からO市に抜ける山の中ですよね。よくあるんですよ。お怪我はありませんか?運転できそうですか?」

しばらく返事ができなかった。

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