犬の骨 18

ある事を思い出して、どうしてもどこかに吐き出したかったのでここに書く。


保育所に通っていた頃、「お墓ごっこ」という物が流行っていた。

誰がやり始めたのかは定かではない。誰に教わったのか、どのように広まったのかも覚えていない。

気づいたら皆やっていた。


名前の通り、生き物の死体を埋める遊びだ。

と言っても生き物を殺す遊びではない。むしろ自分で殺しては絶対にいけないと言われていた。

死体は虫でもトカゲでも何でもいいが、既に死んでいるものを見つけなくてはいけない。

できれば虫よりトカゲ等の方がよく、虫なら大きい方が良いとされていた。

生き物の死体を見つけたら、保育所の園庭にある物置の裏に持っていく(そこでなくてはいけないと言われていた)。

そこに拳くらいの大きさの穴を掘り、死体を中に入れる。

死体の上から草花(何でもいい)を被せ、その上に石(できるだけ平たい物)を置き、その上から土を被せる。

土を被せた上には小さい石(目印)を置く。

そして手を合わせ「呪文」を唱える(この呪文はここには書かない。理由は後述)。


翌日、死体を埋めた場所に行く。

土を掘り返し、石をどけ、草花も避けて、死体が消えていたら「成功」だ(天国に行った、と言う子もいた記憶がある)。


別に失敗しても何がある訳ではない。

ただ「失敗したね」で終わるものだった。

逆に成功しても「成功したね」「よかったね」で終わる話だった。


大人になり、地元の公務員となった。

職場の掃除で、古い倉庫を整理していると地元の民話を集めた古い本が出てきた。昭和前半の物だった。

その中に、本の発行時からしても古い話として、地元に伝わる呪術の話があった。

土地に住む神に生け贄を捧げる物であった。


捧げる生け贄は牛等で、かつては人を捧げていたとされていた。

儀式のやり方は、「お墓ごっこ」にそっくりだった。

生け贄の大きさが違う為、石の大きさ等はまったく違うが、書かれていた呪文はまったく同じだった。

その本を読んで当時の事を思い出した。

その本には、生け贄を捧げるとどうなるのか、神とはどのような神かまでは記されてなかった。

ただ古い話にこのような物があるという紹介だけだった。


今はもう保育所は移転しており、元の敷地は空き地となっている。

誰の手も入っておらず、草もぼうぼうで荒れ放題だ。


私たちは何に生け贄を捧げていたのだろうか。

「成功」したとき、あの死体はどうなっていたのだろうか。

何か嫌なものを覚えたので、念のためにここに呪文はかかない。

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