犬の骨 10

私には妻と、息子夫婦と孫夫婦がいる。

非常に幸せな事だと思う。


しかし私は認知症で、妻の事すらよく思い出せない。

妻が言うには、私は進行性の認知症で、どんどん酷くなっていっているらしい。目の前の女とずっと暮らしている記憶はあるが、出会った記憶や、結婚して、子どもを育てた記憶がない。息子や孫についての記憶はない。


しかし、妻や家族以外の、若い頃の記憶は朧気ながらある。この土地が私のもので、資産がある事も覚えている。

今それがどうなっているかは、妻に任せている。私が任せたらしい。

息子や孫は私や妻にどうもよそよそしい気がする。


違和感を覚えるが、その事を妻に言うと泣いてしまう。

噓泣きには見えない。

しかしあの涙は私が認知症になってこんな言動をしている為の涙なのだろうか。

私は認知症なのだろうか。

今日も酷く不味い飯を食わせられる。嫌なので残しても無理矢理押し込まれる。

私は本当に認知症なのだろうか。

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