すべてが虹色になるまで、
河居おさけ
第1話 濁った色が澄みはじめた。
おれの名前は、葉山翠(はやま みどり)。
28歳。無職。就活もなにか勉強しているとかもない。
「育ててくれた親」のすねをかじって生きている。
午後3時くらいに起きたらSNSをちょっと見て、何となくお酒を一口。
そのあともうちょっと眠ったら6時とか7時とか8時とかなので、出前で適当な食い物を注文して食う。味はもうどうでもよくて腹持ちのいいやつがいい。
そしたら9時とか10時とかになってて、無心で見れるゲーム配信者の配信とかを適当に観る。「なんでそんな歳で夢中になれんだろう」とか思いながら観るじぶんが嫌いになるころその配信ページを閉じたら、これまた無心でやってられるソシャゲを適当にやる。課金はしない。そこまで好きでもないから。
そしたら「もうそろそろもう『無理』かも」と思ったころ、早朝の4時や5時、冬なんかだともっと遅く日が昇る。さすがにおれも人間なのでやばいなと思って枕に頭をつける。酒を飲んでいる場合眠れることもあるが、飲んでない日だったりするとぜんぜん眠れない。眠れないまま布団の中でぼぅっと正午をむかえる。
そんなことを何年続けてきただろう。
高3の時期、大学合格と同時に進学のため上京する準備を進めようと思っていたころ「育ててくれた両親」から、彼らはおれの生みの親ではない事実を知らされた。なんとなく違うことは思っていたが、血縁であろうと人間はみな違う生き物だからと納得していたのに「違かった」のだ。半分納得し、半分悲しんだおれはひとり静かに上京した。
知らない街で知らない人たちと始めた大学生活は一切のきらめきを持たず、すべてが灰色や濁った汚い色のものになってしまった。
やはり悲しみは軍団でやってくるのだな、などと知ったふりをしたりした。
そしておれは大学2年が始まるころ大学を辞めた。
「親」は何も言わなかった。ただ大学進学のころからのそのままの額の仕送りを送り続けた。
それから、いま、おれ、28歳。
別に「親」には育ててくれたことに大いに感謝しているし、愛してくれていることもしっかり感じ取れている。それでもなんだか「そのこと」を聞いたときに心を突き抜けた何かのせいで穴が開いたままの心地なのだ。
そこへ慣れない土地での生活はおれには大きすぎる試練だった。それまでできていたこともできなくなる。人と話すこと、友だちを作ること、好きだったこと、理由もなくできなくなった。もはや記憶もあまりない。ただただ心の中で「つらい」と叫び散らかしていた。
いまはなににも所属したりせず、なんの活動もせず、教育も受けず、働きもせず、「親の金」で借りている家で、「親の金」で買った布団の上で、「親の金」で通信しているスマホでネット上の意味のない情報ばかりを見ている。
情けない。動けないのも情けない。意欲がないのも情けない。ああ酒が美味しいな。
ピンポーン
不意にインターホンが鳴った。何かを注文したわけでもないのになぜ……?なにか……なにかやらかしたか……?さすがに何年もニートをしているとしかるべき何かを受けるのか?あばばばば
安いアパートの玄関の板の真ん中ちょっとうえに空いている向こうを見る用の穴をそっとのぞき込む。
……女の子だ。
……とてもかわいい女の子。
???
???????
どうせ玄関の板は薄いので少し大きな声でおれははなしかけた。
「どちらさまですか?」
玄関の板が開かなかったのに動揺したのか、少しの間があってからその子は
「あ!はい!こんにちは、用事があって来ました。葉山翠さんですよね?えっと、わたくし、赤羽ことりっていいます。」
誰……?
「あの、ドアを開けてくれるとうれしいです。これではお話しにくいので。」
見た感じ、まぁ、なにかあっても腕力とかで制圧できるなと判断したおれは玄関を開けた。
瞬間、
ダンッ!!
その子はおれのドアノブを握っていた方の腕を掴んでは、(詳しくないのでよくは分からないが)ぐるっとしてばっとして、おれを制圧した。おれの体は玄関の床に伏せられ腕は背中側に回され、その子は上の方から「観念しろ!」というようなことを言っていた。全力で暴れてその拘束から逃れようとするが、その子の力が強すぎて無駄な抵抗に終わった。おれは混乱から混乱を経て混乱に至った。
その混乱のなかでも「抵抗をしよう」という気持ちによって無意識にだったが「どちらさまですか?」とおれは叫んでいた。
そうすると上の方からしていた「観念しろ!」という言葉は止み、確かにおれに言い聞かせるような口調で話し始めた。
「わたくしは赤羽ことり、荷治森道場から使わされました。現在白池高校に通う17歳!2年生であり、保健委員会に所属しております。部活は無所属です。生年月日は……」
「いや、誰だよ!!」
思わず突っ込むように叫んだあと、その赤羽さんは手の力を緩めを解放した。
素早くインターホンを押したときの位置に戻った赤羽さんはキリっとした顔でこちらをじっと見た。なのでおれは「どちらさまですか?」ともう一度問いかけた。
「申し訳ないです!あまり1対1の会話に慣れておらず体術から入ってしまいました。」
なんでやねん。
「わたくしは、荷治森道場の道場主である荷治森蒼生様より『葉山翠をこの道場に連れて来い作戦』の「壱の策」の執行者として選ばれここにやって参りました。」
なんのはなしやねん。
「葉山翠殿!!さぁ!!行きましょう!!荷治森道場へ!!」
赤羽という子はさっきのおれを組み伏したときのすごい力でおれの腕を引っ張り外へ出そうとした。あああああああ、この玄関をおれは何年くぐってないのだろう。とかふと思いながら、思いっきり抵抗しようと赤羽さんの力の逆側に力を入れた。
ドサ……
ぎゅっと掴まれた腕を自分側に引いてしまったおれは、おれは赤羽さんを自分の方へ引っ張ったこととなった。まさか逆側の力が発生するとは思っていなかった赤羽さんの身体は重心を失いフラッとおれの方へ傾いた。そしておれと赤羽さんは狭い玄関で2人して倒れ、身体を重ねることとなった。物理的に。シンプルに。身体を。漫画とかアニメとかで見たことあったけど……不意に倒れてひととひとが重なり合って胸に手ががっちり!とか、もはやキス!とかもあるけど、マジであるんだな……実際にこんなこと起こりうるんだな……「現実は小説よりも奇なり」みたいなやつじゃん、とか久しぶりに高速で頭が回る回る。
幸いおれの手は「偶然相手の女の子の胸に!」とかではな……ではあった。がっつりおれの両手は赤羽さんの胸部に添えられていた。きれいに。
でも、童貞のおれでも分かるよ。これは、女の子の、胸じゃ、ない、よ。
???????
重なった身体には下半身もあって、おれの太ももには赤羽さんの「おまた」が「すっぽり」ハマってしまっていたのだが、童貞のおれでも分かるよ。これは、女の子の、股間じゃ、ない、よ。
???????
赤羽さんはすぐに床に手をつき上半身を起き上げるとそのまま叫んだ。
「大丈夫ですか!?痛かったですよね!!申し訳ないです。わたくしの不注意で!!」
ぜんぜん後頭部とか打ったし背中とか腰も痛いけど、それよりおれは混沌のカオスと闘っていた。
赤羽ことり……。上向きの目じりのぱっちりおめめに、すらっと同じく上向きに伸びる長いまつげ。これまた上向きの気の強さを表すようなきりっとしたまゆげ。かわいらしい鼻。遠めに見てもぷるぷるのピンクの唇。ほわほわしてそうなほっぺ。さっきからの体術とかで分かるようにフィジカル強いんだろうなって思わせる締まった身体……。耳の下のあたりで切りそろえられたショートヘアの髪の毛はキューティクルがこれでもかと言わんばかりに輝きを放っている。
「つかぬことをお聞きしますが……」
おれは躊躇った。やはり性別に関する質問は初対面でするもんでもないなと思ったし、あまりそれはこれからのことに関係があるとは思えなかった。
「『荷治森道場』とは一体何で、『葉山翠をこの道場に……何とか作戦』って何なんですか。」
そう聞くと謎に包まれた赤羽ことりという存在は、
「道場に来れば分かります!!」
とおれの上で笑った。
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