ある日、父親が美少女になって帰ってきた
でらお
一章
第1話
それはなんでもない、土曜日の朝のことだった。
午後からのアルバイトへ向かうために10時過ぎに目を覚ました俺は、重たい体をゆっくりと起こしながら、自室のカーテンをしゃーと開けた。カーテンを開けると途端に陽の光が部屋に差し込んできて、ぱあっと部屋が明るくなる。そんな陽の光に向かって軽く伸びをしながら、俺は朝の支度を開始した。
俺は先週から、倉庫で仕分けのアルバイトを始めていた。その仕事内容を具体的に言えば、大手コンビニチェーン店で並べるような商品を、それぞれの店に適当な数送られるように大きな冷蔵庫のような倉庫で仕分ける仕事だ。
うちの近所ではそれなりの数のアルバイトが募集されていたが、あえて仕分けのアルバイトを選んだ深い理由はない。接客がなかったり、一人で黙々と作業ができたりする要素に惹かれたりしたのもそうだが、やはり自宅からの距離が一番近かったのが一番の理由た。
昨日までで先輩が付き添ってくれる研修期間が終わり、いよいよ今日から独り立ちだ。研修は時間をかけてじっくりとやってもらったし、その内容もしっかり理解したつもりだったが、高校生になって初めて始めたアルバイトであったので、やはり不安なものは不安で。
まあこうやってぐずぐず考えていても、結局はなるようにしかならないのは今までの人生経験でなんとなく分かってきていて。心配事の8割は実際に起こらないなんて言葉もあるし、今一番に俺がするべきなのは肩の力を抜くことだろう。
そしてそれは、アルバイトに向かわなけれないけないという憂鬱な気分に襲われながら、自室の扉を開け、洗面台へ顔を洗いに行こうとした瞬間だった。
「っ!?」
玄関に、美少女が倒れているのが目に入った。
銀色に輝く髪を長く伸ばした日本人離れした容姿を持つ美少女が、俺のすぐ足元ですうすうと寝息をたてている。
少女の年は俺と同じくらいか、それよりも下か。白いシンプルなワンピースから露出している手足はすらっと細長くそして雪のように純白で、顔は小さく顔のパーツもはっきりしていて、美少女という単語を今後聞く機会があれば、この少女のことが真っ先に俺の頭に思い浮かぶことだろう。そんな少女の寝顔が可愛くないはずがなく、まるで天使のようなその寝顔は、見た人の心のすべてを奪ってしまうんじゃないかと思うほどに破壊力があるものだった。
しかし一体全体、誰なんだこの子は……?
その少女に、俺はまったく見覚えがなかった。俺の親戚や知り合いには、こんな子は居なかったはずであるが。
辺りに彼女の身元を証明するようなものは何かないかと探したが、特にめぼしいものは何も見つからなかった。というか改めて見てみれば、その少女はバッグやカバンなど特に何も持ち合わせていないようで手ぶらの状態だった。
……なら、本人に直接聞いてみるしかないか。
起こした途端に暴れられたらどうしよういや絶世の美少女に襲われてみるのも一種の経験かと頭の片隅で考えながら、覚悟を決め、俺は屈んだ。
そしてそっと、少女に声をかけた。
「もしもし」
「…………ぅ」
「もしもし、起きてください。聞きたいことがあるんですが」
「…………んぁ?」
そう肩を揺すりながら話しかけると、おもむろに美少女は目を見開いた。
「!?」
するとなんと驚くことに、彼女の瞳は透き通った青色だった。いわゆる、碧眼というやつだ。
ますます日本人離れした容姿に磨きがかかっていくその一方で、やはり俺の記憶にはこの少女に関するものがないことが再認識された。銀髪碧眼美少女なんて、過去に出会っていれば強烈なインパクトとして確実に、記憶に残っているはずであるから。
俺に起こされて、意識を覚醒させつつあった美少女は、ゆっくりと上体を起こしている。眠そうに目をゴシゴシと擦りながら、尻をボリボリと手でかきつつ……って、なんだか行動がおじさんくさいな。
そんな少し不思議なオーラを纏う美少女は、俺を視界に捉えると。
「……なんだ。誰かと思えば、
「な、なんで俺の名前を知ってるんだ!?」
「そりゃあ、自分の息子だからな」
「息子!?」
とその容姿とは似合わない口調で、ワケの分からない事を言った。まだ寝ぼけているのだろうか。
俺が息子って……こんな金髪碧眼美少女が俺の母親なわけがない。図らずもライトノベルのタイトルのようになってしまったが、今の発言は論理的に破綻しているのだ。
「残念だが、俺の母親はもうこの世にはいない」
「知ってる」
「知ってる!?」
それならばなぜ、すぐ嘘だとわかるような嘘をつくのか。そう動揺する俺に、美少女はさらにとんでもない言葉を言い放った。
「そう言えば、哲には言い忘れてたな。……父さんな、今日から美少女になることにしたんだ」
「は?」
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