1ー⑫

 何もないと言われる福井県だが、蟹を始めとする日本海の幸は十分すぎるほど福井の名物である。しかし、他に何があるわけでもなくカシムは敦賀市の外れの堤防で海に釣り糸を垂らしていた。のんびりとした時間が流れていたその時だった。


「宮守くん、どうした?」


 勇からの電話を受けるカシム。


『REXの……トカゲ男に…襲われ……』


 息を切らしながら喋る勇の様子から、ただごとではない状況なのは明らかだ。


「すぐに行く!今いる場所を教え……」


 突如、カシムの携帯電話に緋色をした鞭のような、はたまた触手のようなものが巻き付き、それを奪った。10メートルほど先、何もない場所から伸びていた触手が根元へと縮む様に戻ってゆく。


「ヤモリ坊やの所へは行かせないわよ」


 何もない場所から姿を現したのは、緑色のチャイナドレスに身を包んだ女。その手にはカシムの携帯電話が握られている。


「はじめまして、REXの裏切り者マスター・トゥアタラ。私はREX幹部の一人、カメレオン・レディ。 あなたの持つレプティカルと、ヤモリ坊やはいただいていくわよ」


「知らん顔だ……私の事は、壮吉から聞いたのか?」


「ええ。そして、そのボスからもあなたを殺しても良いと許可を得ているわ」


 レディが言い終わる前に、カシムは持っていた釣り竿を振り、伸びた釣り糸をレディの腕に巻き付けると、一気に引っ張る。そして自らも疾駆、レディの手首を掴み、その手から携帯電話を奪い取るや否や掴んでいた手首を支点に海へと放り投げる。レディの体は大きな音を立てて海面へと吸い込まれた。


「私をマスター・トゥアタラと知り、一人で現れたのだ間違いだったな」


 カシムは停めていたバイクの元へと走り出そうとしたが……海面から大きく音を立ててレディが再び姿を現し、カシムの前に立ちはだかる。そして、二人の爬虫人が続く。


「……ウミヘビとウミイグアナの半爬者を海中に待機させていたか」


「ボスからは、あなたの事をよーく聞いてるのよ。 頭が回ること、判断に迷いが無い事、そして、ものすごく強いことも……ね」


 レディはその姿をカメレオンの姿をした爬虫人類へと変えた。


「なるほど、爬虫人3人が相手か······だが、貴様らなど私の敵ではない!!」


 カシムの体が鱗に包まれてゆく。


鱗化スケイライズ!!」


 緑色と灰色の隣に包まれたカシムの姿はトカゲの仲間によく似ていた。だが、その特性となる生物はトカゲではない。


─“ムカシトカゲ"

 英名及び現地名をトゥアタラというその生き物は和名にトカゲと付くが、トカゲの属する有鱗目とはほど遠い喙頭目というグループに属する。

 現生爬虫類は大きく分けて4つのグループに分けられており、ワニ目、カメ目、ヘビとトカゲを擁する有鱗目、そして最後が喙頭目であり、現在はムカシトカゲことトゥアタラのみが生き残っている。


 ムカシトカゲの爬虫人と化したカシム─マスター・トゥアタラは身構える。そこへカメレオンレディとウミヘビ男とウミイグアナ男は同時に飛びかかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る