1ー⑪
「二人とも、噂のヤモリ男は知ってるか?」
ミニパトを運転する源治郎が口を開く。
「恐竜博物館に強盗が入ったり謎のヤモリ男が現れたり、ここ数日で立て続けに変な事が起こってる。これは何か悪い予感がしてな」
強盗事件と、ヤモリ男…これは勇本人なのだが。は、一見無関係そうに見えてレプティカルというものの存在で繋がった出来事だ。レプティカルや秘密結社 REXについては知らずとも、源治郎の刑事の勘は二つの出来事に関する何かに気付き始めたのだ。
「俺の悪い予感ってのは当たるんだ。
そして勇と紗良、この二人に何か良くない事が起こる……本人たちには言えないがそんな予感がする為、源治郎は二人を家まで送り届けようとしたのだ。
一方の勇も、強盗の車に轢かれ死にかけレプティカルなる薬を飲まされヤモリ人間となり今は悪の組織に命を狙われているかもしれない。この事をいっそ源治郎に打ち明けるのはどうだろう。カシムの事も爬虫人類の事も配慮する義理など無い。警察というのは治安と市民を守る為にあるのだから。
「ゲンさん、あのさ……」
勇が口を開いたその時だった……
「ゲンさん、前!車道に人が!!」
紗良が前方を指差す。
「うおっ!危ねえ!!」
ミニパトの進路上、車道の真ん中に立つ人影を視認すると源治郎は急ブレーキをかけ停車した。
「おいアンタ、危ないだろ……」
車を降りてその人影に注意した源治郎は、立っていた男の顔に気付く。
「お前は……
男の名は須藤圭輔。過去に窃盗・住居侵入・詐欺・傷害・強盗等多数の逮捕歴を有し、何より恐竜博物館に押し入った強盗の主犯である。押収されたワゴン車からは須藤の指紋が残されていた事から指名手配されているところであった。
「動くな!」
源治郎は警棒を抜き、須藤に向け構える。
「(何だって指名手配犯が、のこのこパトカーの前に出てきやがるんだ?)」
源治郎が怪訝に思いながらも無線機の緊急ボタンを押し、応援を呼ぼうとしたが……
「!!?」
須藤は一瞬で源治郎に肉薄すると、前蹴りで源治郎を吹っ飛ばした。 185cm95kg、柔道の猛者である警察官を数メートル蹴り飛ばし、ミニパトのボンネットとフロントガラスを凹ませ、割るほどのダメージを与える……俄には信じられない光景だ。
「「ゲンさん!!」」
後部座席の勇と紗良は叫ぶ。小さい頃から知っている強い大人の代表格、それはプロレスラーである紗良の父と街を守るお巡りさんである源治郎。その源治郎がいともたやすくやられてしまう等とは二人には考えられなかった。
「匂うぜ……俺と同じトカゲの血が混じった匂いだ。どっちのガキだ?」
須藤は勇と紗良の顔を見やる。その目は人間のものとは思えない異質な輝きを放つ。そしてその目が勇の目と合った。
「……お前、俺が轢き殺したガキじゃねえか。生きてるってことは、お前の中にあるな?」
須藤は獲物を見つけ舌舐めずりする。その舌は薄い青色。有鱗目スキンク科の爬虫類 『アオジタトカゲ』の持つ特徴である。
「(あの身体能力と目と舌……REXの半爬者だ!!)」
勇は確信する。先日カシムから教えられた聞かされた秘密結社の手の者だと。
「な、何なのあいつ……」
恐怖に震える紗良は勇の手を握る。十年ぶりに触れるその手を勇はそっと握り返す。
「さっちゃん、落ち着くんだ」
身に降りかかる危機に恐怖するのは勇も同じだが、今はこの幼馴染みを守らねばならない。男として、かつて憧れたヒーロー達のように。
須藤が後部座席のドアを無理矢理開けたその時だった。2発の銃声が鳴る。
「その子達に手を出すんじゃねえ!!」
車に背中からぶつかったダメージも癒えぬまま、源治郎は銃口から煙の昇る拳銃を構えていた。
「おいおいお巡りさんよぉ、凶器も持ってない人間を背中から撃つのは駄目なんじゃねえのか?裁判で負けちまうぞぉ?」
日本の警察官が装備する拳銃“S&W M360J SAKURA”は、38スペシャル弾を用い犯人制圧における最低限のダメージを与える事を想定してある。それでも防弾衣も着ていない人間が受ければただでは済まない。少なくとも須藤のようにべらべらと喋る余裕など無いはずだ。
「熊や狂犬から市民を守る為なら、拳銃の使用は許されてるんだよ……何より2発も食らって何ともないてめえは充分バケモノだろう!!」
「バケモノだぁ?」
源治郎の発した言葉のうち、一つの単語が須藤の逆鱗に触れた。文字通り逆立つ様に鱗が彼の体を覆い始める。
「そのバケモノの姿と力、拝ませてやるぜ……昔から警察は大嫌いだからなぁっっっ」
須藤はぬるりと滑らかな鱗を持つトカゲ人間へと姿を変えた。量産型半爬虫人類 『スキンクマン』。それが今の須藤に与えられた名だ。
「勇坊!!さっちゃんを連れて逃げろ!!」
スキンクマンがじりじりと源治郎に迫る中、勇は紗良の手を取り二人は車外へと出た。
「…ごめん。ゲンさん!!」
勇はそう言い残し、紗良の手を引き源治郎とスキンクマンに背を向け走り出した。
「(そうだ、それでいいんだ勇坊……こいつを捕まえるのは
勇と紗良は、走りながら後方から鳴り響く銃声を聞いた。1発、2発、3発。拳銃に込められた5発の弾を全て源治郎は撃ち終えたのだ。
「早く…カシムさんに連絡を……」
勇は走りながらスマホでカシムの番号へと発信する……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます