1ー⑥
放課後。
この日も一人で下校する勇。だが、今日はいつもとは違った。
「宮守勇くんだね?」
校門を出て数十メートルの地点で勇に声を掛ける者がいた。長身痩躯、銀色の長髪を後ろで結わえた男はまるで洋画の俳優のように整った顔立ちをした青年─つまるところ『外人』の見た目をしていた。
「えっ?は、はい」
西洋人に話し掛けられるという普段起こらない事に動揺しながら答える勇。なぜ自分の名をこの男が知っているのか……という疑問はその後に沸いてきた。
「コレを、君に返そうと思ってね」
男が差し出したのは、勇の学生証だった。
「はぁ。どうもありがとうございま……」
感謝の言葉を述べようとして、言い切る前に気付く。『返そうと』?僕はこの人に学生証を貸したりした覚えは無い。もし僕が落として届けてくれたのなら、『渡そうと』だろう。それに普通なら落とし物なんて、警察に届けてそのまま任せるだろう!とも。
「なぜ私がそれを持っているか、なぜ夜中に出歩いていたはずの君が自室で寝ていたか、知りたくはないかね?」
この男は何かを知っており、そしてそれは碌でもない事だ。勇は直感的に解った。そして、恐怖心がそれらを凌駕し、勇は目にも止まらぬ早さでその場を走り去った。
「何という反射神経と初速……だが、私も君をそのままにしてはおけんのでな……」
男は勇の後を追う。
路地裏に逃げ込んだ勇の前に立ちはだかったのはビルの壁。袋小路に入り込んでしまったのだ。
「どうしよう」
とてつもなくヤバそうな、変な男に追われている…逃げなくては…勇の中にある本能が彼を動かしていた。気が付けば、勇の両手は野球グローブのように変形し、その掌を垂直の壁に貼り付け、両足は窓枠や壁に空いた小さな穴等に引っかけ、器用にビルの外壁をかなりの速度で登っていた。
「何だこりゃ……まるでスパイダーマンじゃないか」
高さ50メートルほどのビル、その屋上に差し掛かったあたりでは思わず呟いたが、
「
なんと先ほどの男が既にビルの屋上へ先回りしていたではないか。驚きのあまり、勇は両手両足を離してしまい、 落下……する直前で男が勇の右手首を掴み、それを防いでいた。
「その体の異変も何なのか、知りたいだろう?ならば逃げずに私の話を聞け」
勇は頷く。今断って手を離されでもしたら、約50メートルの高さから落下してしまうからだ。
「それに、ここなら誰も邪魔はすまい」
男は屋上に放置されていたベンチにを腰掛ける。勇は男の隣に人ひとり分の感覚を空けて座った。
「まず、私が何者かを話しておこう」
男が勇に自動車運転免許証を差し出すと、それを受け取った勇は顔写真を確認する。すぐ側にいる男と同じ端正な顔だ。続いて確認した氏名は、 海東 可士武 とある。
「名の読み方はカイトウ カシム。こんな顔だが、日本人さ。何十年も前に帰化していているのでね」
何十年前という言葉に少し引っかかる。カシムの見た目は20代くらい、もう少し上だとしても30代前半だ。子供の時に日本へ帰化したとしても、20~30年前であり、数十年前と言うのが妥当ではないだろうか。だが、その疑問も生年月日欄を見て強引に納得させられる。免許証には大正12年生まれとあるからだ。
「ひゃ……100歳!?え?え??」
免許証とカシムを交互に見やる。
「若く見えるだろう?」
にこりと笑うカシム。そんな若作りのおばさんが冗談で言うのとは次元が違うほど、外見と実年齢が一致しないのだ。
「因みに偽造ではなく本物だ。更新の時は毎回試験場と揉めるし、身分証明書のはずが逆効果さ」
と、語るカシム。
「あなたは……何者なんですか?」
「ただの人間…だった者、とでも言うべきかな。そして宮守くん、君も私と似た生き物になってしまっている」
「……と、いうことは」
勇はカシムのロから告げられる事実を予想し、 ごくりと唾を飲む。
「宮守勇くん、君は既に“ただの人間”ではない。体が半分爬虫類と化した者……“
カシムの口から出る単語は半分近くが解らなかったが、確実に解った事がある。それは勇が既に普通の人間ではなくなっているという事。
「爬虫類?半爬者?そして僕が普通の人間じゃない? 何だそれ、解るように説明してくださいよ!!」
困惑気味の勇とは対照的に、カシムは落ち着いた声で話す。
「説明しよう。いやしなければならないな。昨晩、 君の身に何があったか……そして半爬者と
カシムは鼻腔から深く吸った息を口腔から大きく吐き出す。
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