ゲッコーボーイ
たかはた睦
第0話 復活
1945
─1945年、ロシア某所・雪原
吹雪の夜だった。辺り一面を覆い尽くす雪。その中を徒歩で進む二人の男。後にも先にも見えるのは雪ばかり。行き着く先も、戻る場所も見えない。否、彼らはもう既に後戻りなど出来ないのだ。そして男のうち片方のアジア人にとって、帰るべき故郷は海の向こうなのだ。
「!!……ソウキチ、追っ手だ」
二人のうち一人─ソ連の軍服を着たスラブ系の青年は、ソウキチと呼んだアジア人の青年に告げる。遥か彼方からTー34戦車が1両進んでくるのが見えた。履帯による速度は二人の歩みなどとは比べ物にならない速度で距離を詰める。
「捕虜と脱走兵の二人相手に戦車まで出すとは奴ら、よほどコレが大事みてえだな」
ソウキチはボロボロの服のポケットから、陶器とも石器ともつかない徳利のような小瓶を取り出した。
「聞くまでもないだろうが、どうする?コレを持って大人しく捕まるか、それとも……」
「
ソウキチの返事を聞き、カシムと呼ばれた男はふっと笑い同じく懐から小瓶を取り出した。
「そう言うと思った。私も、お前とのカミカゼに付き合ってやるよ」
ソウキチとカシムは小瓶の口を力任せに開ける。
「こんなもん飲んだところで戦車に勝てるなんざ思えんが、奴らの欲しがるコレをションベンに変えて悔しがらせてやるか!」
「
二人は小瓶の中の液体を飲み干した。何万年も凍土の底に眠っていたそれはひどく不味いはずなのに、何時間も飲まず食わずの体には心地よく浸透してゆく気がした。
「……何の変化も無ぇな」
「ああ。……ううっ!?」
液体を飲み干して数秒後、ソウキチとカシムは自らの体に違和感を覚え始めた。体が自分のものではなくなるようだ……いや、実際に体じゅうの器官が、組織が、別の生物のそれへと作り替えられてゆくのを感じた。歯は鋭く、爪は湾曲し、体毛は鱗へと変化。そして臀部から尾まで生えて来るではないか。その姿はまるで河童か何かを思わせる異形。
『我らの意思を継ぐ者よ、地上を再び取り戻せ』
二人の頭に響く声。
『邪魔する者は排除せよ』
ソウキチとカシムは互いの顔を見合う。
「「やるぞ」」
異形の人型へと変貌した二人の青年は、追っ手の戦車を迎え撃つ。太古の昔に絶滅した
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