カエデ



やばい、このままだとぺチャンコだ!


直ぐにおれは初球の防御魔法をMPが尽きるまで自分にかけ続ける。



ドァスゥン!!



「ぐわっ!」



勢いよく地面に叩きつけられるが、防御魔法でなんとか耐え忍ぶことができた…。



「くっ…ってててて。…はっ!ニャミスとクーは!?」



身体に激痛があったが先に落ちた2人のことを思い出し、立ち上がって辺りを見回す。



「お仲間さん?2人なら大丈夫そうよ。」



しらない女の声だったが、今はそんなこと気にしている場合じゃない。



「ニャミス!クー!!」



俺の声に反応して弱弱しくも返事があった。



「いててて…誠さん無事ですかー?」



「…危機一髪。」



よかった。ほっと胸を撫でおろす。


よく見ると2人とも持ってきたデカい荷物がクッション代わりになったようで


バッグの上に寝そべっていた。


持ってきてよかったな…ホントに。


2人が無事なことを確認すると、安心したせいか再び身体に激痛が走る。



「くっ……いててててっ。」



さっき声のした女が近づいてくる。



「大丈夫?応急処置程度の治癒魔法しか使えないけど…。」



そういうと俺に治癒魔法を掛け始める謎の女。


薄暗くてはっきりとは見えないが黒髪にポニーテール、


スラッと均整のとれた美人…クールビューティーとでも言うのだろうか。


こんな時にも異世界ラブとかいう能力を発現しているのか?



「すまない、あんたは…?」



俺が問いかけると



「あなたたちと多分同じ。地球人冒険者のカエデ、大剣使いよ。」



「そうか…あんたも上から落ちてきたんだな。お仲間は?」



「いないわ。一人で潜ってきたからね。」



「一人で?クエストを受けて来たんじゃないのか?」



「私はフリーの傭兵よ。今回はダンジョンの下見にきただけ…だったんだけどね。」



「そうか…お互い運が悪かったな。おれは地球人冒険者の佐藤誠、剣士だ。」



そういって俺が自己紹介をすると、急に彼女の顔つきが変わり、治癒魔法の手を止めた。



「地球人!?」



驚いたように俺から直ぐに離れる…カエデだったか?



「そうだけど…何?」



俺が立ち上がって彼女の方にフラフラと歩み寄ろうとすると、



「近づかないで!…あの子たちとパーティだって言うからてっきり異世界人だと思ってた

 

 けど…地球人の男は嫌いなの!」



そういってニャミスとクーの方に駆け寄っていくカエデ…


何か地球人の男に嫌な思い出でもあるのだろうが…俺には全く関係のないことなのに…


それは一種の差別だろう、ちょっと腹立たしい。



「ねえ…あなた魔法使いでしょ?」



「…魔法使いじゃない、クー。」



バッグを背にして寝っ転がったまま答えるクー。


せめて起こしてやったらどうだ?



「ああゴメンね…クーちゃんは魔法使いだよね?」



「…うん。」



「よかったー!!助かったわ…あなたが落ちてこなかったら私ここでミイラになってたと


 ころよ!…ちなみにだけど異世界人よね?」



「…大変だったんだね、クーは異世界人です。」



律儀に異世界人か確認してやがる…しかし安堵した様子だがぬか喜びだ、ざまあ。



「よしじゃあ、さっそくラールでダンジョンの入口まで一っ飛びだ!


 夢の彼方へさあ行こう!」



「………………………………。」



「…何なのよ、この沈黙。」



この展開もう一度やってるんだよなあ…


まあ面白いからほっとくか。



「よし、クーちゃん!入口まで転移魔法で一っ飛びよ!」



「…どうやって?」



クーは再び何を言ってるか良く分からないといったような表情を浮かべている。


この子もしかして記憶力が薄いのか?



「どうやってって…ラールよ!使えるでしょ!?」



クーは再び同じことを考え込んでいるようだったが、


しばらくして閃いたようでポンと手を叩く。



「…使えるのは使える。でも出てくるか分からない。」



「…なぜか分からないけど、嫌な予感がするわ。


 ………出てくるか分からないというのはどういう意味?」



次のクーの返答でその嫌な予感は見事に的中しただろう。



「…私が使える魔法はプルパンテ(何が出てくるか分からない魔法)だけ。


 魔法の種類は全部で319種類…1日に私が使えるのは3回まで。


 だからラールが出てくるかは分からない…。」



「サンイチキューを3回転………、それって確立何パーよ…。」



ニャミスがテヘッとわざとらしく笑う。



「今回は私何もわるくないですよね?」



おれは全くその通りだと深く深く何回も頷くのだった。


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