ダンジョンへ

―そうしてダンジョンマップ制作のクエスト日、当日がやってくる。



「ま、そんなに大した装備も必要ないだろ、歩き回るしなるべく軽装でいこう。」



おれは必要最低限の荷物を持ってそれをリュックに詰め込んだ後、


宿屋から2人が待つ新ダンジョンの入口まで向かう。


場所は街から出て、北西の方角、ラムール森林を抜けシハン平原のど真ん中、


新しく隆起した岡に目的のダンジョンがある。


おれは久しぶりのダンジョン探索に少しワクワクし、勢いよく家から飛びだした。





―街を抜け、森を抜け、草原を1時間程歩いて新ダンジョン入口に到着する。


どうやら、調査をしている冒険者は俺たちだけではなないらしく、


結構他にもたくさんの冒険者が行き交いしていた。


ニャミスはどこかと探していると、何やらとてつもない大荷物をもった2人組が


視界に入る。どこに行くつもりだよと横目で見ながら苦笑していると、


そのうちの一人に見覚えがあった、まさか…



―ねえ、あの片っぽのタヌキ顔、この前会った猫人族じゃないですか?



アテネに言われ恐る恐る目を細めて二度見するとそのまさか…ニャミスだった…。



おれはスタスタと近づいて彼女に話しかける。



「…なんだその荷物は?」



「ああ、こんにちわ誠さん!今日は絶好のダンジョン探索日和ですねー!」



「これから夜逃げでもするのか?いや昼だから昼逃げか…?」



「なに冗談言ってるんですかー!ダンジョンに入るならこれくらいの装備常識ですよ 

 ー!」



…とりあえず、ツッコミどころ満載だが隣にいる女の子について先に聞くべきだろう。



「この子が、ニャミスが言っていた魔法使いか?」



「はい!異世界人族のクーです。ほらクー挨拶して!」



「…よろ。」



表情を変えずにどこか遠くを見ているかのような青い目で、素っ気ない返事を返される。


同い年と言っていたが、随分小柄で童顔の金髪少女だ、


青と白を基調とした魔法使いの着こなしに帽子、杖をもっているが


ぶかぶかである。



「ああ、よろしく…攻撃魔法、防御魔法、それに治癒魔法も使えるんだってね。凄いな。」



「…うん。」



「そんな凄い魔法使いならプラチナスティグマでもおかしくないのに、


 なぜブロンズなんだ?」



「興味ない…。」



…なんというか、随分言葉数が少ないタイプらしい。



「あはは、クーはちょっとシャイガールでして…別に機嫌が悪い訳じゃないんですよ。


 寧ろ今日は久しぶりのダンジョンでテンション高めです。」



「…やる気満々。」



「ハハハ…そうなんだ。まあやる気があるのは良いことだが、


 一つだけ確認しておきたいことがあるんだが。」



「なんですか?」



ニャミスは終始作り笑いのまま答える。



「その荷物本当にダンジョンの中に持っていくのか?


 まあ、持っていきたいなら好きにしてもらって構わないが…


 俺はマップを書き留めて歩かなければ行けないから、荷物の手伝いはできんぞ?」



「お構いなく!こっちで勝手に持ってくだけなんで。」



「…長時間歩き回るが大丈夫か?」



「お構いなく!」



作り笑いを崩さず、おれの意見を即座に突っぱねるニャミス…怪しすぎる。



―私の感が言ってる!この2人怪しいですよ!多分詐欺師です!



詐欺師本人がなに言ってんだ…いや、同業者だから見抜けるのかもしれない…


とはいえ、今更パーティの変更はできないし、当日のキャンセル料は報酬の50%の


だ。やる以外の選択肢は無い…。



めちゃくちゃ不安ではあったが…まあ、中にモンスターはいないし、


大事に至ることはまずないだろう。



「…じゃあいこうか。」



俺がダンジョンの中に足を踏み込もうとすると、



「あ、ちょっと待って!」



「…何?」



とニャミスに返事を返すと、



「念のため命綱を…ね。」



と、紐というよりぶっとい綱を身体に巻きつけるニャミスとクー。



「よし!準備万端!さあ行きましょう!」



「…夢の彼方へさあ行こう。」



―あ、私は近くの街で休んでるんで、また終ったら呼んでくださいねー!



「………。」



おれの不安は最高潮に達していたが、行かない選択肢は無く…


ぶっとい綱を巻きつけた2人を従え、ダンジョンに向かって歩を進めるのだった。


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