第38斤☔

『オイテメエエエエエエエエエエエエエ!!』


 数日前から誰とも連絡がつかなくなっているらしいVTuber、富良らんすの配信を俺は見ている。


 ゲームに激怒して台パンをしている辺り気性はかなり悪そうだ。確かに普段からこんなんなら公式大会で不正を働きそうだな。それにしてもこんな奴が事務所のVTuberの中で一番人気だっていうのか。問題児程愛されるってことか、あるいは他の奴がしょうもないんだろうなと自分の頭の中で結論付けておいた。


『はぁ……はぁ……クソが!』


 息を切らして暴言を吐く美少女のイラストを黙って眺めていたら、スマホが通知音を鳴らしてきたので手に取って通知の中身を確認する。


『日曜は鎌倉水族館行くから休む』


 またかよ。俺はため息をつきながら『了解』と返信した。


 ま、あいつがいようがいまいが俺の計画には支障はない。むしろあいつらじゃない他の奴らを利用しなきゃならなさそうなんだがな。そんな風に心中でぼやきながらスマホを置き、パソコンに再び向き直る。


「なんかいいネタ、見つかんねぇかなぁ」


 いつものように呟きながら画面をスクロールしていると、ライブと表示されている動画が右側に出てきたのでマウスを動かす指が止まった。


 違うな。止まったのは配信中だったからじゃない、チャンネル名が原因だ。「黒和わわ/Wawa Kurowa」。初めて見た名前だがサムネを見るにこいつもまたVTuberのようだ。俺はそれに向けてポインタを動かし、左クリックした。


 タイトルは「【 雑談 】今週もおつかれさまとムリムちゃんとのデートの話【黒和わわ/ぱんどらぶれっど】」だった。ぱんどらぶれっどってことは富良らんすと同じ事務所か。


『配信終わった後ムリムちゃんがさ――』


 茶髪のツインテールが特徴的な見た目と、山を流れる流水のイメージを脳内に刻んでくるような高い声をしていた。それを見て聞いた刹那、身体が内側からぶるりと震えた。


『ムリムちゃんってどんな子なんだろ……ちょっとメタいけどw』


 ヘッドホンで声を聴きながら、俺は手元にあったメモ帳に「黒和わわ」と一心不乱に殴り書いた。


 絶対に覚えておかなければ。俺はそう思った。

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