第3話

「巫女さんの名前聞いてもいいかな?」


「私に名前はありません」


「なにそれ、どういうこと?」


「私たち神の巫女の治癒に性能差はほとんどありません、誰が何を出来る、出来ないなどの差は特に有りませんから」

 

「不便じゃないの?」


「基本的に外に出ることもありません、お勤め以外は部屋で読書かお茶がほとんどです、私自身は不便に思うことはありません」


「神の巫女たる者斯くあるべし、みたいな感じなの?」


「かくあるべし?ですか?」


 言語の適応って言ってたけど完璧に翻訳出来るとかではないんだな、それとも使い方が間違ってたか?


「神の巫女はそうあるべきだ、で通じるかな?巫女さんは自由がなかったりするのかな?」


「そんなことはありません。ただ、外に出るには護衛がつきますので迷惑かなと。商人の方はよく教会に来られますし、たまに巫女のためにお店を貸し切りにして招待していただけることがあります。他の巫女は大体名前がありますね。昔は私のような方も多かったと聞いています」

 うーん、聞いてもいまいち分からん。なにか意味が有るんだろうか?


 あれ?そういえば。


「さっき迎えに来てくれた時も護衛の人いたの?」


「はい、エルフさんが斥候に、猫獣人さんも周囲の警戒を、ゴブリンさんとホビットさんが近くで警戒されていました」


「近くで!?」


「はい、近くで。目の届く距離です」


「目の届く距離で」


 あー、自称天使への信仰心が下がっていくのが分かる。僧侶呪文覚えるの遅くなるじゃねえか、そんな要素あるのかしら。


 しかし4人もいたのか、そりゃ気をつかうのもわかるな。というか全く気づけない俺やばいな。いや、動揺してたんだろうな。



「人の事言っときながら俺も名前がないんだった、ないというか一部記憶喪失らしいんだが」


「記憶喪失ですか……なるほど!そうだったんですね!……よかった」


 今日一の反応だ、たぶんこの世界で常識のはずの神の巫女について根掘り葉掘り聞いてくるからおかしかったんだろう。

 いや、最初に巫女とか教会とか説明された気がする。わからない、わからないが、なぜか凄く安心した顔をしている天使ちゃん、納得してくれて良かった。


「記憶喪失は魔法で治せない?」


「天使様が出来ないのであれば私には無理でしょう」


「そうか、じゃあしょうがないか」

 自称天使は治そうとしたんだろうか。


「なにか変なこと聞いたりするかもしれないけど、記憶喪失ってことで許してほしい」


「わかりました、なんでも聞いてください」


「俺の使命は知ってたりするのかな、あとおつげの内容って聞いていい?」


「いえ、使命は知りません。おつげはこの世界の常識を教えろ、質問されたら出来るだけ答えろと、あとは身の回りのお世話を任されました。英雄の素質が有るから丁重に、と」

 英雄の素質って、そこまで可能性があるのか。


「そうなんだ、使命は魔物退治、いや魔に堕ちた生物を倒してほしいとかだったかな」


「なるほど、わかりました。お手伝いしますのでなんでも言ってください」 



 天使ちゃんがみつめてくる、かわいい。

 


「もしかしたら、英雄様は神の巫女に似たものかもしれません」


「どういうこと?」


「神の巫女は、神や天使が直接つくられたものです、魔力や身体能力に優れ、容姿が非常に整っていると言われます」


「ああ、目が覚めた時に天使様が世界に対応するために体を作り替えた、って言ってたな」


「なるほど、世界に伝わる英雄譚、伝説の勇者は容姿が整っていることが多いんですが、そういう理由もあるんでしょうね」


 まじか、ちょっと使えそうでマジもんの英雄作るんすね、天使様のサイコロ出目凄そう。


「英雄の肉体ね、ここまで歩くだけでも多少感じてたけど凄そうだな」


「神の巫女と一緒ならば、魔の討伐には非常に有利に進むでしょう。食事なども魔力で補え、排せつも必要ありません。体を回復させようと思えば寝られますが、必要なければ睡眠も十日に一時間ほどで十分です、強力な毒でさえエネルギーに変換できます」


 なんと、天使ちゃん排泄しなかった。天使ちゃんは伝統的アイドルでもある。

 というかクソチートだな、食料水分気にしなくていいタイプのゲームじゃん。


 俺の名前どうしようか、ゲームでよく使ってた名前とかでいいかな。


「名前決めてなかったな、アベル、アルス、マルス、ランス、こんな感じで大丈夫かな?」


「そうですね、全部問題ないと思いますが」


「わかった、じゃあ最初に浮かんだアベルで行こう」


「わかりました、アベルさん」


 アベルか、なにかのゲームの名前だろうか?よく思い出せないな。

 英雄の体を貰ったらしいが、名前に慣れるほど長く生きられるんだろうか。

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