第2話
試験が終われば夏休み。でも楽しい時間はあっという間に過ぎて、二学期が始まる。
新学期の席替えで、私の席は天才くんの隣になった。
「よろしくね、天川君」
「ああ、よろしく」
最初に交わした挨拶はその程度。ほとんど初めて話すようなものであり、私は愛想笑いを浮かべていたけれど、彼はぶっきらぼうな態度だった。
それから数日後、生物の授業中。
「好気呼吸が起こる場所として、特にミトコンドリアで多くのATPが合成されます。解糖系としては……」
初老の教師がモゴモゴと喋りながら黒板にあれこれ書いていくのを、私は淡々とノートに写していく。
話し方が悪くて要領を得ないことで有名な先生だった。でも彼の話は全てノートに書いておかないと、試験で困るのは学生である私の方だ。みんな同じような思いなのだろう。必死に手を動かしている。
そんな中、ふと隣に目を向けると、天才くんのペンの動きは驚くほどゆっくりだった。私の半分も書いていないのだ。
もしかしたら私が書き込みすぎなのだろうか。そう思って周りに目をやったけれど、私のノートの記述量は標準的。やはり私が多いのではなく、天才くんが少ないようだ。
この件が印象に残り、それ以降、他の教科でも彼のノートをチラリと覗いてみると……。
例えば英語でも数学でも現代文でも古文でも、とにかく確認できた全ての教科において、彼のノートの書き込みは他の生徒の半分以下。
おそらく天才くんは、私たちが後でノートを見返してようやく頭に入る内容も、授業を聞きながら瞬時に理解できるのだろう。だから要点だけをノートに記す形になる。つまり、最初からよくまとめられたノートが出来上がるのだ。
そんなノートならば、試験直前に見直すのも簡単に違いない。電車の中で彼を見かけた日も、ギリギリまで勉強していたというより「当日の朝、電車の中で勉強すればそれで十分」という状態だったのかもしれない。
彼の授業中の姿から、私はそんな想像をしてしまう。
その翌日。
天才くんに関して、さらに新発見があった。
昼休みが終わって、教室に戻ってきた時。自分の席に座ると、胸ポケットから何やら取り出して、それを耳にねじ込んでいたのだ。
「えっ?」
驚いて小声で叫んでしまうが、彼には聞こえなかったらしい。
天才くんが耳に入れたのは、黄色い耳栓だった。
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