第15話  初老の支部長 

 ヴィーは、ベルテ達衛士と共に捕縛した男達を乗せた馬車で、ギルド東3番支部のある村へとやって来た。


 街道を馬車で移動したとはいえ、男達を森の深部から引きずり出すのに時間がかかってしまったため、すでに陽は中天を過ぎようとしていた。

 ヴィー達が乗った馬車は、村の入り口を守る衛士達に止められる事も無く、そのまま門を抜けると、真っすぐにギルドの建物の裏口まで進んだ。

 周辺の村で野盗や何らかの犯罪者を捕縛した場合、この一帯で唯一の公的機関であるギルド支部が、王都から正式に引き取りに来るまで拘留する事になっている。

 その為の施設として、ギルドの裏口の横には地下の拘留部屋へ通ずる小屋がある。

 ヴィーと共に馬車に乗っていた衛士達は、捕縛した男達を手際よく馬車から引きずり出すと、その中へと連れて行く。

 小屋の中にはまた鉄の扉があり、そこを開けると地下へと続く階段があった。

 そして、その階段を降りた先には、鉄格子で仕切られた窓の無い部屋が廊下を挟んで左右に幾つか並んでいた。

 捕縛した妖精狩り達は怪我を負ってはいるものの、最低限の治療だけされ手枷足枷をされた後、そこに放り込まれた。

 衛士はテキパキと男達を鉄格子の向こうに放り込むと、頑丈な鉄製の扉を閉め、厳重にカギを掛けた。

 

 衛士達が男達を地下へと引きずって連れて行く間、ヴィーはエを肩に乗せたまま支部長への報告をするため支部へと入った。

 ちょうど依頼を終え、獲物を抱えた狩人が帰ってくる時間にあたってしまったため、建物内…特に受け付けは非常に混雑していたが、すでに移送を終えていたヴィー達は急ぐ必要も無かった。

 なので、受付に並ぶ列が減るまで隅のベンチに座りながらその様子を眺めていたのだが、ヴィー達同様に報告のためにギルド内へと入ってきたベルテと目が合う。


「ヴィー君、何故こんな所で座って…?」

 不思議そうな顔でベルテが話しかけると、

「別に緊急の用件というわけでも無いので、受付が空くのを待っていたんですが…」

「いや、そんな待たなくとも、すぐに通してもらえると思うのだが…」

 ヴィーとベルテがそんな話をしていると、人ごみの間からその様子を見たマールが受付から、

「ヴィーさん、ちょっと来てください」

 と、人ごみの中でも良く通る声で、ヴィーを呼んだ。

 瞬間、受付前で列をなす狩人たちに注目されたヴィーは、気恥ずかしい思いをしたが、素直に呼び出しに応じてマールの前までエルを肩にのせベルテと共に進んだ。

「ヴィーさん支部長を呼んでまいりますから、少しこちらでお待ちください」

 混雑時に順番を飛ばして対応してもらうのは申し訳ないと思い、

「待ってますんで、先に他の方のを受け付を済ませて下さい」

 そう言ったのだが、

「ヴィーさんへの対応は、王都本部から最優先・最重要と言われてますかから、気になさらず」

 マールは、並んでいる狩人たちに「ごめんなさいね」と、軽く頭をさげて支部長室へと走った。

 狩人達もヴィーの事は良く知っているので、気を悪くする事もなく、「何か大事か?」と話しかける。

 隠しているわけでもないが、あまり本当の事を言うのもどうだろうと思ったヴィーは、

「野盗を捕縛して連行したんですよ」と、微妙に嘘を交えながら話した。

 狩人たちが「おおー!」と声をあげた時、マールが奥からヴィーを呼んだので、雑談を切り上げてカウンター横を抜け支部長室へと進んだ。

 ちなみに退屈だったのか、森を抜け馬車に乗ったあたりからエルは肩でぐっすり寝ていた。肝が太い。

 ただ手足をだらーんと垂らして寝ているので、見た目死んでいるかの様だし、たまにモゾモゾとするので肩から落ちないよう、ヴィーは結構気を使うはめになった。


 支部長室で、ヴィーは捕縛時の男達の様子や戦いに関して報告を行う。

 ベルテは男達の状況を説明を行った。

 それを黙って聞いていた支部長は、本部より今回の報奨金が出ていると言い、少なくないお金を小袋に入れてヴィーの前へとテーブルを滑らせた。

「元々エル君から、森に野盗がいるかもしれないとは聞いていたよ。王都本部からも連行の依頼を受けていたしね。森の中だと、どうしても衛士の目も届かないので本当に助かります。今後もよろしくお願いしますね」

「これが僕の仕事ですよ」

 これは偽りないヴィーの本心だった。

「それでもです。あと今まで通り大型の獣の間引きもお願いします。いやあ、ヴィー君が間引いてくれてるので、他の地区のギルドと違って、ここの狩人の死傷率が低くて本当助かってます。でも決して無理はしないでください。ヴィー君が手練れなのは知っていますが、それでも何があるか分からないのが森ですからね…今回の様に」

 支部長の言葉に「わかってます」と短く返したヴィーは、まだ寝たままのエルを落としたり起こさないようにゆっくりと立ち上がると、軽く顎を引き支部長とベルテに会釈してから部屋を出た。

「さて、あいつらの持ち物の出所を調べなくてはなりませんね」

「そうですね…全く面倒な事です。まだ王国で妖精狩りを企む馬鹿が居るなんて…」

 ギルド支部長のぼやきに、ベルテもぼやきで応える。

 男達が持っていた武器や持ち物の出所を調べるため、詳しい報告書を作成するようベルテに指示を出す支部長。

 ベルテが退出したのを確認したのち、無事に妖精狩りを連行した事を伝えるため、本部へとに通信の法具を起動させるた。

「今日も残業ですね…」

 背中に哀愁漂う初老の支部長は、最近生まれた可愛い孫に今日も会えないのかと、がっくりと肩を落とした。

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