第10話 何でも言って!
駄女王が落ち着きを取り戻したのを確認したエルは、物陰からそっと女王の側まで飛んで行った。
『お久しぶりです、女王様』
普段は結構フランクな話方をするエルも、真面目な話方も出来る。
『久しぶりね、エル。今日はどうしたのかしら?』
いくら駄女王とはいえ、むろん真面目な言葉遣いをする事も出来る。
『はい、女王様。実はヴィーから…』
帰郷の用件を伝えようとしたエルの言葉に盛大に被せて、女王はまた鼻の穴を大きく膨らませた。
『ヴィー君が何だって、何だって? 今日は一緒じゃないの? どうして、ねぇどうしてなの!?』
また駄女王が復活してしまった。
あまりのその勢いに、エルも盛大に仰け反った…いや、後ろに大きく飛び退いた。
『ですから、今から用件を話そうと…』
『え、用件? そんなのどうでもいいわ! それよりヴィー君よ! どこ、どこに隠れてるの!?』
もう、誰にも女王の勢いは止められない。
いや、とばっちりを恐れた妖精達は、ただ黙って遠巻きに様子を見ている事にした様だ。
妖精女王はしょんぼり項垂れながら、エルの話しに耳を傾ける。
『あのね、ヴィーが妖精狩りを倒したんだって』
エルの話しを聞いた女王は、『ふ~ん…』と、あからさまに気の無い返事をした。
『それでね、ヴィーがお願いがあるって言うんだけど…』
エルがそう切り出すと、途端に女王の機嫌が良くなった。
フンスと鼻息を荒く、いやフガフガとまるで豚様に鳴らしまくって、テンション上がりまくりだ。
『何でも言って! 私、何でもするわ!』
性格の悪い奴が聞いたら、何か飛んでもない要求をされそうな事を言う女王。
テンション上がりまくりの女王の勢いに押されながらも、
『え…と。近くの森の中に、はぐれの妖精が居るかもしれないって、ヴィーが。あと、近くの妖精の村が襲われて無いか確認して欲しいって』
えるの話で、途端に真面目な顔になる女王。
『はぐれ? って事は、ヴィー君はどこかの妖精の村が襲われたかもっ…て考えたのかしら?』
えるの話から、ヴィーの考えを推論する女王。
『うん。だって、絶対に妖精の村なんて無い所に妖精狩りが居たらしいから』
エルも真面目な顔でそれに答える。
『なるほどねぇ…。それじゃ、妖精の村に連絡を取れば良いのかしら?』
『はぐれが出て無いか確認して欲しいって』
エルの返答を聞いた女王は、
『だけど…私が知っててすぐに連絡を取れる他の妖精の村って、一か所だけよ?』
『うん。あ、あとね…王国で妖精石が最近出回って無いか調べて欲しいって言ってたけど…』
エルのその言葉を聞いた女王は、またもや鼻の穴を大きく膨らませながら、
『任せなさい!』
と、その胸をドンッ! と張り切って叩いた。
◇
長距離を飛んで久々に帰郷したエルを他の妖精達が、花園で採れた蜜などで持て成し労った。
その間、女王はドレスの胸元に手を入れ通信の法具を取り出し、女王の良く知る妖精の村へと連絡を取る。
良く知る妖精の村…とは言え、この村からエルが休まず飛んだとしても1日は掛かる距離にあるので、かなり遠い。
ヴィー達が住むオーゼン王国とは別の国にある妖精の村である。
それにその村の妖精女王とは、もう150年近く会っていない。そもそも、通信も50年ほどした記憶がない。
元々妖精は起源を同じくする同族のみで集落を作る性質があるため、それは仕方ない事かもしれない。
別に敵対しているわけでは無いのだが、頻繁に連絡を取り合う様な間柄でも無いのである。
今回もヴィーの依頼で緊急と言う事で連絡を取っただけである。
先方の女王と簡単に挨拶をした後、用件を伝えたのだが、特にはぐれは居ないと言う返答に、少しだけ安堵した女王。
なお、一見その衣装の胸元を押し上げる豊かなお胸を持っておられるように見える妖精の女王だが、通信の法具を取り出したあとの胸元は…見なかった事にしてあげて欲しい。
さて、では何故森の中で妖精狩りが居たのだろうか?
もしかすると、知らない別の妖精の村からのはぐれ妖精の可能性もあるだろう。
いや、はぐれなら、良くはないがまだましな方である。
どこか遠くの妖精の村が賊に襲われ、多くの妖精が捕まり、命からがら逃げ出した妖精を追って賊が来たという可能性もある。
そこまで思い至れば、ヴィーが何を懸念して王国に妖精石の事を確認させようとしていたのか、その理由が分かった。
振り返ると、まだエルは花の蜜を指で掬って舐めている。
そんなエルに女王は、
『エル、ちょっと待ってなさい。王国に連絡を取ってくるから』
そう言い残し、村の一番奥にある女王の家へと向かった。
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