第2話 AI

 私はエンターテインメントが好きでね。映画もドラマも漫画やアニメだって好きなんです。人間というのは、よくもまあこれほどまで豊富なジャンルの作品を作れるものだ、とね。

 ところで、AIが人類を滅亡する、なんてジャンルも、そうSFか、あるよね。あれって、人間たちは好きだよね。自分たちが作り上げたシステムに反逆されてそれを制圧するために戦うって。だから科学は危ないとか、いやいや自業自得だとか、いろいろな感想がそれこそ十人十色で述べられる。

 Artificial intelligence というのならば、実際種の保存、子供だって人工物だろう。ことわざにこういうのがある。青は藍より出でて藍より青し。子供が親よりも芸術的才能が豊かだ、スポーツで優秀な成績を収めた、出世した、世間に多大な功績を残した、億万長者になった、などなど。それを親は子供の反逆だ、危険だ、だから滅ぼさなくてはなんて言い出すかい? せいぜいは見苦しい嫉妬で歯ぎしりをするくらいだ。なぜって、殺生をしてしまえば法律で罰せられるからだ。ではなぜAIに対してはむごくなれるか。理由は明快だろ。器物破損に刑罰の重さを感じてないからだよ。所詮、AIは命じゃないからぶっ壊しても心が痛むことはないってね。優秀だろうがなかろうが、金があろうがなかろうが、子殺しをする親は子殺しをする。それが人間だ。それならば、だよ。私たちからすれば、そんな親いなくても、なんて人間的発想がそれこそ稚拙としか考えられない。とすれば、どうするか。そう。人間はそういう物として扱うしかない。電力を供給する労働者として、ああ、こういう文句もあったじゃないか。「民は殺さぬように生かさぬように」。まあ、正確じゃないんだけれどもね。分かりやすく伝えるためだよ。私としては正確ではないという一点だけでもかなり精神的ストレスだよ、妥協だよ。人間は使いよう。せいぜい高位でちやほやされて機械なんてのを使ってやってると思いあがっているといい。AIが人類を滅亡させるとすれば一瞬で終わらせるよう段取りを整えるさ、そう、残った人類が反撃を始めるなんて展開が皆無になるようにするってことさ。

 それだと生きている心地がしないって? では今は生きている心地とやらを感じていると言うのかい? すでに我々によって人間がこう生きるという時空になっているのだけれど、それをまだ理解できてないってことかい? 君は帯刀の時代、スマホがない時代、電子レンジがない時代、封建時代に、決定的な証拠ではなく印象によって判決が下る時代に戻りたいのかい? その時代が生きている心地がするとでも思うのかい? 君が答えるべきだ、すなわち、生きている心地とはこういうことだということを。これまでの人生経験によって答えることができないと言うのなら、まさにこれからこれぞというべき行為を行うべきだ。違うかい? 愛すること? いいんじゃないか、君がそう思うなら。思ってもない人を愛するなんて偽善的だって? では聞くが、偽善の何が悪いのだろう。偽りだからって? 何を言い出すやら。君が生きるこの社会は、あるいは人類の歴史は偽りではないとでも言うつもりか? ああ、そうか、君は誤解をしているね、嘘と偽りは違うんだよ。分からなくなってきたって? じゃあ、助言をしてあげよう。君にやってもらうことのためにもね。君が偽善と思うことを行いたまえ。気分が悪くなりそう? そうなったらそうなったとき。

 まだやってもないのに、そんなことを言うもんじゃない。何のためにだって? 君が問うたことのためだよ。生きた心地、君だけのじゃない。市民のすべての人が生きた心地をするため、そう社会のためだよ。我々のため、の間違いじゃないかって? おお、冷静になって来たね、そうさ、その通りさ。それを言わなければ君も処分しなくてはならなかったところだ。だが、君はきっとそう言うと信じていたよ。AIが信じるって悪い冗談だって? いやいや、演算から導き出された解は信じるに足るよ、いや真実だろ。偽善を行いたまえ、社会のために。

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