第12話 田中、脱出する
定時を過ぎた時のみ発動できる『斬業モード』。
いつもは2割程度しか力を使うことができないが、この状態の時に限り全力で力を振るうことができる。
"斬業モード来た! これで勝つる!"
"斬業キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!"
"勝利BGM聞こえてきた"
"そっかもう18時超えてたのかw"
"勝ったな、トイレ行ってくる"
"いや、いくら強くなっても状況変わらなくね?"
"それでもシャチケンならなんとかしてくれるはず"
"田中がやらなきゃ誰がやる"
「先生? いったいなにを……?」
「凛は少し休んでてくれ。あ、揺れるかもしれないから地面をしっかりつかんでた方がいい」
「え、はい……」
凛は首を傾げながらも姿勢を低くして地面をつかむ。
それを確認した俺は、剣を構え天井を見上げる。この上には分厚い岩盤と、広い海がある。生き残るためにはそれを突破して地上に出る必要がある。
"マジでなにする気なんだ"
"ワープが使えるとか?"
"次元斬使えるしありえるw"
"普通に地面を斬るんじゃない?"
"それだと水が流れてきて終わりだろ"
"そうだよなあ"
"……やっぱり詰んでない?"
"俺らが信じるシャチケンを信じよう"
剣を上段に構え、集中する。
そして力の解放率を7割程度に調整する。
……よし、これくらいか。ここまで力を解放したのは久しぶりだ。勢い余って凛を傷つけないように気をつけなくちゃな。
俺は細心の注意を払いながら、頭上めがけて剣を振るう。
「我流剣術真式――――
剣が振るわれると同時に、不可視の剣閃が頭上に放たれる。
その会心の一撃は一瞬にして岩盤を斬り裂き、更にその上に広がる海をも一刀両断してしまう。
"は?"
"えっ"
"えええええ!?"
"なにこれ"
"ハア?"
"ひいっ"
綺麗に両断された岩盤と海。その先には空が広がっている。
ふう、久しぶりにやったけど上手くいった。
凛の方を見ると、彼女は切り開かれた頭上を見ながら、唖然としていた。
「せ、先生、今の技は……」
「ん? 星斬りのことか? 星斬りは『
"斬撃に斥力をまとわせる……?"
"なるほどわからん"
"????"
"視聴者の顔が宇宙猫になっちゃった"
"てか斥力ってなんだよ"
"物体を反発させあう力だけど……斬撃にまとわせるというのは意味が分からんw"
"物理法則「今日何回壊れればいいの?」"
"物理法則くんの体はもうボロボロ"
"それ以前に「
"深く考えるな、感じろ"
"シャチケンなら本当に星と戦えそう"
"これは凛ちゃんもさすがに引……いてないわ、むしろ惚れ直してそう"
"戦闘民族だから仕方ないね"
"はよ結婚しろ"
"婚約済なんだよなあ"
"末永く爆発しろ"
「よし、じゃあ帰るとするか」
「はい、私たちの家に帰りましょう」
俺は凛をおぶって、切断面を歩きながら地上へ向かう。
途中から足場が岩盤から海に切り替わるが、水は斥力で固めてあるため普通に歩ける。
凛は背中におぶられながら、海の断面を眺める。
「綺麗ですね。水族館みたいです」
「そうだな。せっかくだし今度本物の水族館でも行くか?」
「い、行きます! 絶対にっ」
「おい、暴れたら危ないぞ」
俺たちはそんな何気ない会話をしながら、ダンジョンを無事脱出し地上に帰還するのだった。
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