第14話 田中、ダンジョンを進む

 無事魚人たちを追っ払った俺たちは、更にダンジョンを奥へと進んでいった。

 ところどころ浸水している部分はあったが、水中を通らなくても先へ進むことができたのは助かった。

 いちいち着替えるのも面倒だしな。


 ただその分モンスターはたくさん出てきた。

 魚の下半身を持った馬、ケルピー。人を丸呑みにできるほど巨大なカエル、ギガフロッグ。水を噴射して攻撃してくるアグレッシブな二枚貝、化蛤ばけはまぐりなどバリエーションに富んだモンスターたちが襲ってきた。


 だけどこっちは三人いる。Aランク程度のモンスターであればいくら出てきても苦戦しない。


「ふんっ!」


 堂島さんが拳を振り下ろすと、化蛤ばけはまぐりの貝殻が粉砕される。普通貝殻の隙間に刃物を入れて貝柱を切るのがセオリーだけど、あの人からしたらそんなもの関係ないみたいだ。


「なんじゃもう打ち止めか!? 張り合いないのう!」

「飛ばしすぎですよ堂島さん。体力配分には気をつけないと」

「ふん、この程度の相手であれば三日三晩相手にしようと息切れせんわ!」


 堂島さんはそう言うと上機嫌に笑う。本当に元気なおっさんだ。


"元気だなあ笑"

"国会より生き生きしてるなw"

"やっぱり現場タイプやね"

"てかこんなに強いところ配信してたら他の議員恐怖だろw"

"もうヤジ飛ばせなくなっちゃうねえ"

"我が国の大臣がこんなに強いはずがない"

"それなんてラノベ?"

"堂島さんもやばいけど、シャチケンもあれだけ戦って汗一つかいてないのやばすぎる。Aランク何体倒したよ?"

"田中ァがバケモンなのはもう知ってるからなあ"

"この二人についてく凛ちゃんが大変そう"


 堂島さんから目を離し、凛を見る。

 平静を装ってはいるけど、少し疲れているように見える。まあそれも無理はないか、もうこのダンジョンに来てから三時間は動きっぱなしだ。


 いくら戦闘慣れしている凛といえど疲れてきて当然だ。


「魔素も濃くなってきましたし、開けたところに出たら一回休憩しましょうか。元気になったら一気に一番奥まで向かいましょう」

「ワシはまだまだいけるが……いいじゃろう。腹も減ってきたことだしのう」


 よし、少し休憩すれば凛も元気になるはずだ。

 精のつく料理を作るとしよう。


「もう少し頑張れるか? 凛」

「はい……お気遣いいただきありがとうございます、先生」


 凛はそう言うと、俺のすぐ隣に寄り添って歩く。慕ってくれるのは嬉しいけど、この様子が配信されるのは少し恥ずかしい。


"イチャイチャしやがって!"

"凛ちゃん甘えててかわいい"

"リア充爆発しろ!"

"田中「なにかしたか?」"

"爆発効いてなくて草"

"こまった……ちょっと勝てない"

"凛ちゃんの甘え顔で白飯五杯はいけますよ"

"は? 俺はシャチケンの水着で8回×いたが?"

"なにを競っているんだ……"

"ここは変態の多いインターネッツですね"

"白飯? 水着? どういうことですか……? 分からないけど配信は面白いです!"

"初見くんが唯一の癒しだ……"


◇ ◇ ◇


 その後二十分ほど歩いた俺たちは開けた場所にたどり着く。

 地上にモンスターの気配はない。ここならある程度安全だろう。


「ここで休憩しましょうか」

「うむ。悪くなさそうじゃな」


 堂島さんも納得したみたいなので、俺はビジネスバッグの中から椅子やテーブルを取り出し設置していく。後はコンロとまな板、調理器具も出して……と。


「む? 料理を作るのか? 携行食ならあるぞ?」


 準備をしていると堂島さんが尋ねてくる。

 その手には長方形の携行食が握られている。


「それでもいいですが、せっかくですからなにか作りますよ。そっちの方が力出ますし」

「ふむ、それも一興か。ワシもお主の料理には興味があったしのう」

「じゃあ堂島さんもこれを」


 俺はビジネスバッグから長い棒を取り出し、堂島さんに渡す。

 それを受け取った堂島さんは、首を捻る。


「おい田中、これって……」

「はい、釣竿・・です」


 ダンジョンの飯は現地調達が基本。

 これを使って昼飯をゲットするとしよう。

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