第11話 田中、ふるまう

「よし、じゃあさっそく焼いていくとするか」


 俺は石で作った台に網を乗せ、火をつける。

 BBQをしたら煤や油が散るけど、ダンジョンには自浄作用があるから多少汚れてもしばらくしたら綺麗になる。なのでこれくらいならやっても大丈夫なのだ。


「……うん、いい火加減になってきたな」


 そう俺が一人楽しく火起こしをしていると、星乃が興味深そうに覗いてくる。


「網まで準備しているんですね。その燃やしている木も用意していたんですか?」

「あ、これか? 違う違う。これはダンジョンで取ったものだ」

「え? 木なんて斬ってましたっけ?」


 星乃は首を傾げる。

 どうやら俺がこれを採取していたことに気が付かなかったみたいだ。


「それもちょっと違うな。これはトレントだよ」

「ああなるほど……って、ええ!? トレントを薪にしてるんですか!?」


 星乃は驚き目を丸くする。


 トレントは木の形をしたモンスターだ。

 いや、形をしているというより、木がそのままモンスターとなったと言ったほうが正しいか。

 幹には顔がついていて、根を足のように動かして移動して、枝を振り回し攻撃してくる。


 見た目はそれほど怖くないし、足も遅いから逃げるのも簡単だけど、捕まったら最後死ぬまで生命力を吸い取られてしまう、結構怖めのモンスターだ。


 森を移動している時に、気づいたらトレントに囲まれていた……なんてのはよくある話だ。


 トレントはその体のほとんどが植物と同じだからか、倒しても消えずに木の部分は残る。幹の部分は乾いているのでいい薪になるんだ。


「移動している時に、一回だけトレントに絡まれただろ? あの時に取っておいたんだ」

「そういえば……いたかもしれませんね。あの時は田中さんが一瞬で倒したので記憶に残っていませんでしたが」


"確かに俺も忘れてた"

"結構色んなの倒してたからな"

"トレントっていい薪になるんだ。また勉強になったわ"

"探索者だと本当に使えそうな知識で草"

"火属性が弱点だし、よく燃えるのも納得だわ"

"トレント「俺の屍を燃やしていけ」"

"やだ、かっこいい……"

"言うほどかっこいいか?"

"まさかトレントくんも薪にされるとは思わなかったやろなあ"


「食べる以外にも、ダンジョンで取れる物には利用できる物が多い。特に次元拡張機能のあるバッグを持ってない探索者は、物を現地調達できるようになった方がいい。下層より下に行くなら必須能力だ」

「わ、分かりました! 勉強します!」


 星乃はメモを取り出し、俺の言葉をメモしていく。

 懐かしい、俺も師匠に言われたことをメモしてたっけ。


"まあでも下層より下に行く探索者なんてほぼいないからなあ……"

"行くにしても複数人だから荷物問題は割りと解決しそう"

"でもそれだとはぐれると即死だからね"

"シャチケンは一人で深層送りされてたからこの技能ないと死んでたろうな"

"ダンジョンで遭難することって全然ある話だから、この話はもっと広めるべきだと思う"

"確かに。餓死する探索者もそこそこいるからな"


「さて、火もついたしそろそろ焼くか。ここは焼肉の作法にのっとり、まずはタンから焼くとしよう」

「は、はい……」


"タン(ミミック)"

"ゆいちゃん急に顔険しくなってかわいい"

"見た目は美味そうだけど……"

"普通に腹減ってきたわ"


 網の上にミミックのタンを乗せると、じゅう、という音と共にいい匂いがしてくる。

 ミミックの舌は旨味が詰まっていて、なおかつやわらかい。脂も乗ってて牛のタンとは違った美味しさがある。


「ほら、食べていいぞ」


 俺はミディアムに焼いたタンにダンジョンで取った塩を振り、皿に乗せて星乃に渡す。

 星乃は少しためらいながらもそれを受け取る。


「い、いただきます」


 箸で持ち上げ、ゆっくりとそれを口へ運ぶ。

 前にダンジョン内で飯を振る舞ったことはあるが、あの時肉は入ってなかった。まだモンスターを食うことに抵抗があるんだろう。


 だけど、それも今日で終わりだ。


「……えっ!? お、おいしいです!」


 ミミックタンを口に入れた途端、星乃はそう言って目を輝かせる。

 ふ、落ちたな・・・・


「気に入ったか?」

「は、はい。食感もいいのですが、噛む度に旨味が口の中に広がって……こんなの食べたことないです」


 星乃は驚いたように言う。

 モンスターの肉は、独特の旨味を持っている。

 これは俺の推測だけど、魔素が肉の成分と結合して独特の旨味を出しているんだと思う。そしてそれは魔素に耐性を持つ覚醒者の舌によく合うんだ。

 特にランクの高いモンスターほどその旨味は強い。ミミックはAランクのモンスターだからその旨味も強いってわけだ。


「それはよかった。ほら、まだまだいっぱいあるぞ」

「え、えっと……じゃあもう少しだけ……」


 貴重な魔物食仲間だ。

 少しなんて言わず腹がはち切れるまで食べさせて沼に引きずり込む。


 前からこの美味さを分かち合える同士がほしかったんだ。容赦はしない。


"めっちゃ食わされてて草"

"わ……餌付けされちゃった……"

"マジで美味いのかよ"

"腹が減りすぎた……今日焼肉行こ"

"わいも"

"今来たけど、彼らはなにを食べてるんだい?(英語)"

"彼はミミックを食べてるんだよ。おかしいね"

"ミミック!? 冗談だろ!? あいつのどこを食べるっていうんだい!?(英語)"

"外人ニキも驚いちょる"

"トレンドにも『#ダンジョン飯』と『#ミミック飯』が入ってる……"


「ほらロケットブルも焼けたぞ。こっちは脂がたくさんで甘いぞ」

「あ、ありがとうございます。ふー、ふー。もぐもぐ……んんっ! こっちもおいしいです♡」


 すっかりダンジョン飯にハマった星乃は焼き上がった肉をドンドン胃の中に収めていく。もう最初の遠慮は完全に消え去っている。

 くく、攻略完了だ。


"めっちゃ食うじゃん"

"いっぱい食べる女の子はかわいい"

"シャチケン悪い顔してて草"

"胃袋をつかんだな"

"逆逆ゥー!"

"なんで田中がつかむ側なんですかね……"

"うまそー"

"ダンジョン飯専門店開こう。裏メニューはリリたんで"

"はあはあ、リリたんに食べられたい……"

"いあ……ふんぐるい……(同調するような悍ましい文字列)"

"あ、リリたんも食べてる。かわいいね"

"マジで上手いことやったら食糧難救えそうだな"


 その後も俺たちは食事を楽しみ、疲れを癒やした。

 次は星乃にもっとレベルの高いのを食べてもらうとしよう。今から楽しみだ。

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