第2話 田中、名付ける

「てけり?」


 ショゴスはドローンが気になるようで、ドローンに近づきレンズを間近で凝視する。

 当然配信画面いっぱいにショゴスの姿が映し出され、視聴者たちは興奮する。


"こっちキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!"

"しょごたんこっち向いて!"

"ギャワイイイイイィ!"

"はあ、はあ、しょごたんかわいいよ……"

"心てけてけしてきた"

"既にSNSに擬人化しょごたんイラスト上がってて草なんだ"

"人になったら褐色ダウナーヤンデレ美少女でオナシャス!!"

"性癖ハッピーセット過ぎる。もっとやれ"

"確かにかわいいけど……モンスターが街にいるって怖くない?"

"なんだアンチか?"

"人を襲わないって保証はないからなあ、怖いのも分かる"

"しょごたんが人を襲うわけ無いだろ! ふざきんな!!111"


 コメントを見ているとなんだか荒れ始めてきた。

 原因はモンスターを怖がる人のコメントからだ。


 この人の意見ももっともだ。どこかの施設で厳重に飼育されているならまだしも、俺みたいな一般人が放し飼いに近い状態で飼っていたら不安にもなるだろう。


 そのことは当然堂島さんとも話し合った。


「みなさんが不安に思うのも当然です。ショゴスはモンスター、人を絶対に襲わないという保証はありません。しかし私がそのようなことはさせません。少しでも人を襲おうとしたら、その時は私がショゴスを斬り・・ます。堂島さんともそう約束をして飼育の許可をもらいました」


 俺はショゴスの背を人差し指でなでながらそう言う。

 そんな約束をしなくても堂島さんは飼育の許可をくれたが、これは俺なりのケジメだ。情が湧いてるこいつを斬るのは心苦しいけど、半端な覚悟でモンスターを飼育はできない。


"ほな安全やん"

"覚悟決まってて草"

"下手に閉じ込めるより田中が監視するほうが安全か"

"ま、まああんたほどの実力者がそういうのなら……"

"自分を斬るという話をされてるのに甘えてるしょごたんかわいい"

"まあ怖いのも分かるけど、好意的なモンスターなんて世界を探してもいないし、貴重な研究対象を処分するのはもったいなさすぎるよね"

"ほんそれ。今世界中がしょごたん誘拐計画を立ててると思うわ"

"田中の側じゃなければすぐに誘拐されるわなw"


 ふう、なんとかコメントも落ち着いてきた。

 これならショゴスが問題を起こさなければ大丈夫だろう。幸いショゴスは頭が良くて俺の言う事をちゃんと聞いてくれる。他人を襲うことはないだろう。


"そういえばしょごたんは名前ないの? いやしょごたんでもいいけど、田中はそう呼ばないだろうし"

"確かに名前はほしいな"

"かわいい名前がいいなあ"

"田中ァ! 名前決めろォ!"


 ……名前、か。確かに考えてなかった。

 仲良くなるためには名前はあった方が確かにいい。だけど俺、そういうの考えるの苦手なんだよなあ。

 必死に頭を働かせて、俺は考える。


「う~ん……ショゴ介、ショゴ蔵、とか?」

「てけ……」


"ネーミングセンスなさすぎて草"

"ショゴ介wwwww"

"しょごたん困惑してて草"

"ショゴス以下のネーミングセンスやんけ!"

"ごめん、彼は筋肉ゴリラなんだ。そういうのは苦手なんだ"

"シャチケンあざとすぎるw"

"田中ァ! ショゴ蔵はさすがにないぞ?"


 非難轟々。

 センスがない自覚はあったけど、ここまで言われてると凹む……。

 視聴者に名前を募集するという手もあるけど、名前は一生物だし自分で付けたい。


 ひとまず「ショゴ+漢字」はダサいということが分かったので、他のパターンで考えよう。見た目とか……鳴き声とか。そういうところからインスピレーションをもらおう。


「見た目から取ったら『クロ』か? 悪くないけど少し犬っぽい名前な気もするな。小さいから『チビ』……ってのも安直か。大きく育つ可能性もあるしな。鳴き声から取るとしたら『テケ』? いや呼びづらいなこれは。他のパターンで取ったら『リリ』とか?」

「りりっ!」


 ショゴスは最後に口にした名前候補に反応して声を出す。

 どうやらこれが気に入ったみたいだ。


"リリちゃんか、いいじゃん"

"ようやくいいのヒリ出せたね"

"ちょっとリリちゃんファンクラブ作ってくる"

"ふんぐるい! りり! りり!(脳が理解を拒む言語)"

"かあいいなあ"

"リリちゃんグッズの販売はまだですか!?(食い気味)"


 視聴者の反応も好評だ。

 ふう、なんとか納得のいく名前が付けられてよかった。大きな仕事を終えた気分だ。


 そんな風に疲れた様子を見せていると、リリが自分の尻尾をぶちりと千切って俺に差し出してくる。どうやら俺を労ってくれているみたいだ。


「ありがとう、いただくよ」

「りりっ!」


 ひょいぱくとリリの一部を食べる。

 最初に食べた時はじゃりじゃりしてたけど、だいぶなめらかな口当たりになってきたな。


"ええ!? 食べてる!?"

"自分から差し出してて草"

"献身的すぎるでしょ"

"ショゴスは奉仕種族だっていうけど……いくらなんでも奉仕しすぎ"

"自分食べられるの見て喜んでますよこの子"

"胃袋を掴む(物理)(内部)"

"愛情表現の仕方がアンパンマンなんよ"

"シャチケンもなんで普通に食べてるんですかね(呆れ)"

"自切系ヒロインか……新しいなあ"

"エッッッ"

"ほんま悪い。性癖どストライクだわ"

"リリちゃん食べたいよはあはあ"

"胃袋溶けるぞ"

"いいコンビやんけ"

"なんで自宅配信でこんなに撮れ高あるんですかね(歓喜)"


 俺がリリを食べると視聴者たちは大盛りあがりした。

 普段から食べてるから感覚が麻痺していたみたいだ。普通の人が見たら衝撃的な光景か。


 まあでも喜んでいるみたいだからいいか。リリも多くの人に好かれたみたいだし。


「よし、じゃあ次はしこんだ芸を披露するとするか。お座り、お手!」

「りりっ! り!」

「おかわり! 触手!」

「てけ! り!」 


"ぎゃあああ! 触手出た!?"

"触手系ヒロインでもあったか"

"属性の渋滞"

"エッッッッッッ"

"握手会がはかどるな"


 こうしてリリの配信は盛況の中、進んでいったのだった。

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