第五章 田中、自宅配信するってよ

第1話 田中、ペットを紹介する

「カメラよし。画角も……よし、と。家の中で配信するのは初めてだから少し緊張するな」


 ある日の昼頃。俺は自宅で配信を開始しようとしていた。


 俺の自宅は1Kの小さな賃貸だ。

 配信するにあたって掃除はしたけど、男の一人暮らし感を消すことはできなかった。こんなところで配信するのは少し恥ずかしいけど、変にスタジオを借りるより自宅配信にした方が絶対にウケると足立が言っていたので仕方なく受け入れる。


 いつもは飛ばしているドローンを三脚に固定させて、床に座っている俺の上半身とその前に置かれている小さなテーブルを画角に収める。


「よし。それじゃあ配信スタート、と」


 スマホを操作して配信を始める。

 すると一気に視聴者数が増えて、一分も待たずに一万人の人が集まる。


"わこつ"

"配信来た!"

"シャチケン最強! シャチケン最強!"

"突発配信助かる"

"ダンジョンじゃない?"

"もしかして自宅配信!?"

"自宅配信助かる。ちょうど切らしてた"

"田中ァ! 配信ありがとなァ!"

"今日の配信【『自宅配信』田中、ペットを紹介します】って書いてあるけどマジ?"

"俺を飼うんじゃなかったのかよ!"

"私を飼ってくれる約束はどうなったんですか!?"

"ペットわらわらで草"

"なに飼うんやろ? 犬とかは世話無理そうだしハムスターとか?"

"動物好き層まで取り込もうとするとか恐れ入るわ"

"てかなんで自宅でビジネススーツなんだよw"


 続々とコメントが流れてくる。

 そうこうしている間に同接は50万人を超えてドンドン伸びている。登録者数が増えたから初速の伸びが全然違うな。

 それにしてもこんな冴えない男の自宅配信にこんなに集まってくれるなんて。人生はなにが起きるか分からないな。


「みなさんこんにちは。田中誠です。今日は来てくださってありがとうございます」


"こん"

"こんにちはー"

"相変わらず堅苦しくて草"

"田中ァ! 肩の力抜けよォ!"


「タイトルにある通り、今日は新しく飼うことになったペットを紹介したいと思います。少し珍しい種類なので、驚かせてしまうかもしれません」


"え、なんだろ"

"ペットで驚くってさすがに大げさでしょw"

"なんだろ、コモドドラゴンとか?"

"象かもしれん"

"部屋に入らんだろw"

"視聴者を飼うとか言ったらさすがに驚くかもしれん"

"だったらあたしを飼いなさいよ!(憤慨)"

"今日もガチ恋勢の鳴声が元気ですね"


 だいぶコメントが温まってきたところで俺は胸ポケットに手を入れる。

 そしてその中にいるあいつをぶにゅっと掴んで、テーブルの上に置く。


"ん?"

"へ?"

"なにこれ?"

"黒い芋虫?"

"いやこんな虫おらんやろ"

"スライムみたいだな"

"え、モンスター?"

"もしかしてこの子って……"


「この子がこの度飼うことになりました『ショゴス』です。ほら、挨拶しなさい」

「りりっ!」


 挨拶を促すと、ショゴスはドローンに向かって元気な声を出しながら短い手を上げる。どうやら言葉はかなり理解できているみたいだ。


"しょ、しょごたん!?"

"生きてたの!?"

"ありえない!? 彼はショゴスを飼うと言っているのかい!?(英語)"

"いやこれは予想外だったわwwww"

"はあ!?(歓喜)"

"なんでモンスターが人に懐いているんですかね(畏怖)"

"シャチケンだからでしょ"

"恐怖の対象だったショゴスがマスコット化してる……"

"いあ! いあ! ふんぐるい!(理解不能な言語)"

"しょごすたんキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!"

"もうやだこの配信者、好き"

"爆速でしょごすたんのスクショがSNSに拡散されてて草。これもうアイドルだろ"


 少し不安だったけど、ショゴスはみんなに受け入れられているみたいだ。これだけ知名度が上がれば政府の過激派も下手に駆除に乗り出せないだろう。

 世論が味方してくれるのは強い。


「よく挨拶できたな、えらいぞ」

「りり……♡」


 褒めながら背中をなでると、ショゴスは甘えたような声を出す。

 その様はとてもモンスターには見えない。


"か、かわいすぎる……"

"完全に萌えキャラ化してて草"

"人になってヒロイン化する展開はまだですか!?"

"ヒロインレースがまた激化するな"

"大穴登場過ぎる"

"しょごたん握手会はいつやりますか!!?!??!?!??"

"いいなあ、俺もシャチケンになでられたい"

"ワイも田中に褒められてよしよしされたいで!!"

"お前らがぶれなくて俺は嬉しいよ"

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