第4話 田中、突発配信する
「これは中々立派な鱗ですね」
俺は固定されたサファイアドラゴンの鱗を近くで見ながらそう言う。
軽く拳で叩くとコン、と高い音がなる。ふむ、結構硬そうだ。
「立派なのはいいけど加工に向かなくて持て余しているんだ。砕くことが出来ればそのままナイフとかにできるんだけどね」
薫さんは俺の剣を研ぎながら言う。
喋りながらだけど見事な手さばきだ。俺の渡した素材も使いながら、剣を修復し、強化してくれている。
「じゃあまずは星乃がやってみるか?」
俺は一番やりたそうにしている星乃に振る。
「はい、やりたいです! あ、あと私思ったんですけど、この様子を配信するのはどうですか? きっとみんな楽しんでくれると思うんです!」
「確かにそれは面白いかもな。俺にはなかった発想だ」
俺は星乃の提案に舌を巻く。
配信者として先輩なだけあって、星乃は企画力があるな。
「でも凛は映って大丈夫か? 嫌なら遠慮なく断ってくれ」
「問題ありません。むしろ堂島大臣にはもっとメディアに出て討伐一課の宣伝をしてくれと言われてますので」
「そっか。ありがとな。今度またお礼するよ」
そう言うと凛はこくこくと首を縦に振る。
「薫さんも大丈夫ですか?」
「もちろん構わないよ。どんどんこの店を宣伝しておくれ。最近は大手の武器製造会社のせいで客足が遠のいてるんだ」
「分かりました。配信が終わったら店の住所載せておきますね」
そうすれば配信中に凸してくる視聴者もでないだろう。
無事全員から了承を得た俺は、ポケットに入れっぱなしにしていたドローンを取り出す。
電池は……まだあるな。大容量バッテリーが積まれていて助かった。
「よし、それじゃあ配信開始、と」
スマホを操作して、ドローンを起動する。まだこの瞬間は緊張するな。
SNSでも突発配信開始と宣伝して数秒ほど立つと、人がぽつりぽつりと入ってくる。
チャンネル登録者数が100万人を超えた今、人が来ないことはないと思うけど、それでも人がちゃんと来てくれるとホッとする。
"え? 配信するの?"
"わこつ"
"配信助かる"
"シャチケンきた!!"
"田中ァ! 待ってたぞワレェ!!"
"突発配信うれしい!"
"仕事休みます"
"笹食ってる場合じゃねえ!"
さっそくコメントが盛り上がる。
俺は「ん゛ん」と喉を整えて社会人モードに切り替えると、ドローンに向かって話し始める。
「今日は来てくださりありがとうございます。タイトルにある通り、今日はこのお店にあるサファイアドラゴンの鱗を斬るチャレンジをしたいと思います。ちなみに今日お伺いしてますこのお店は私が行きつけの鍛冶店です。配信が終わりましたらこのお店の場所を載せますので、来ていただけると助かります」
"おけ"
"おk"
"k"
"把握"
"絶対行こ"
"お前ら金落とせよ!"
"シャチケンの武器作ってるとこなら信用度SSSSだわな"
"ダンジョンに行くより聖地巡礼楽だな"
「それと今日は知り合いの二人も一緒です」
そう言ってドローンの後ろに控えていた二人を前に促す。
するとまずは星乃がドローンの前に躍り出る。
「こんにちは! ゆいちゃんねるの星乃唯です! 今日はゲストとしてお邪魔してます! よろしくお願いいたします!」
"ゆいちゃん来た!"
"シャチケンと続いているようでなにより"
"相変わらずかわいすぎる"
"あの大きな胸を好き放題できる田中が羨ましすぎるぜ……"
"まだ絶対手を出してないから安心しろw"
"早く手を出せや田中ァ!"
"俺にも手を出せ田中ァ!"
"相変わらずここの視聴者は変なキレ方するな"
星乃が出ると一層コメントの流れが早くなるな。人気があるようで俺も嬉しい。
そして次は凛がドローンの前に出る。
「みなさま初めまして。私は魔物対策省、魔物討伐局討伐一課所属、絢川凛と申します。以後よろしくお願いいたします」
"誰この子!? めっちゃかわいいじゃん!"
"この前の政府の配信で映ってた子だ。また見れて嬉しい!"
"かわいい系のゆいちゃんと、クール系の凛ちゃんは隙がない布陣だ……"
"ハーレム形成してて草。羨ましすぎる"
"ゆいちゃんと仲良さそうだな。かわいい"
"いつのまにゆいちゃんと仲良くなってたんだろう。推せる"
"二人の間の空気を吸いたい"
"キモすぎて草。でも少し分かる"
"凛ちゃんはシャチケンとどういう関係なんだろ?"
"政府の配信では先生とか呼んでたような"
星野に負けず、凛も凄い人気だ。なんだか俺も嬉しくなるな。
そう思っていると、凛はドローンの横にホログラムで映し出されているコメントを読むと、質問に答え始める。
「私は討伐局に入りたての頃、誠先生にお世話になりました。先生には本当に様々なことを教えていただきました。しばらくお会いしていませんでしたが、先生を敬愛する気持ちは変わっておりません。なので付き合いは星乃さんより長いです」
"シャチケン、そんなこともしてたんだ"
"田中に向ける視線の湿度が高すぎる"
"これやっぱ攻略済みだろ"
"かわいすぎて胸痛くなってきた"
"動悸定期"
"クール系美少女の激重感情はいい。万病に効く"
"しれっとゆいちゃんにマウント取ってて草"
"これもう宣戦布告だろ"
"正 妻 戦 争 開 幕"
"責任取って全員貰えよ田中ァ!"
荒れるコメント欄。
俺は慌てて凛にツッコミを入れる。
「はは、付き合いの長さなんて気にしなくてもいいんじゃないか?」
「そんな……あんなに激しく体を重ねた日々は遊びだったんですか……?」
「いや、それは決闘を挑まれてただけだろ!? 勘違いされるような言い方はやめなさい!」
"通報しました"
"さすがに犯罪でしょ"
"田中ァ! 責任取れよ!"
"面白くなってきました"
"ゆいちゃん劣勢か?"
"慌てるシャチケンおもしろw"
"サファイアドラゴンの鱗「…………」"
"鱗くんすっかり忘れられてて草"
俺は必死に弁明し、なんとか誤解を解く。
これならダンジョンの配信のほうがずっと楽だな……。
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