第24話 田中、再会する

「……そういやニュースでやっていたけど、須田の奴もうすぐ裁判を受けるらしいぜ。お前も関係者だから法廷に立つんじゃないか?」

「どうだろうな。俺は別にあいつがどうなろうと構わないから裁判とか関わりたくないんだけどねえ」


 俺の所属していたギルドの元社長、須田。

 あいつのせいで苦労させられていたのは事実だ。相当あくどく儲けてもいたんだろう。


 だけどもうあいつのことはどうでもいい。それよりも楽しい未来のことを考えたい。


 ちなみに俺と足立と須田は幼馴染みだ。

 当然足立は須田と友人だ。まあ中学卒業以降は一回も顔を合わせていないらしいけどな。



「まあお前はそうだろうな。顔も見たくないだろう。それにしても……あいつも昔はそれほど悪い奴じゃなかったんだけどなあ。だがあそこまで性格がねじ曲がっちまったら矯正は無理だろう。本当に哀れな奴だよ」


 足立はどこか寂しげにそう言う。

 友人がおかしくなってしまうのを止められなかったことに、責任を感じているのかもしれない。


「っと、こんなつまらない話はこれくらいにしておくか。今日は祝いの席だしな。お、そろそろゲストも来るみたいだぜ?」

「ゲスト?」


 足立の言葉に首を傾げる。

 俺は他に誰か来るなんて聞いてないぞ?


「いったい誰を呼んだんだ? 俺たちの共通の知り合いっていうと……もしかして天月か?」

「まあ楽しみに待てって……お、来たみたいだな」


 個室の扉が開き、一人の人物が中に入ってくる。

 その人は俺も知って……というか、つい最近会ったばかりの人物だった。


「お前は星乃!? なんでここに!?」

「えへへ……来ちゃいました」


 少し照れた様子で星乃が入ってくる。

 どこに座るか悩んだ彼女だけど、足立に促され俺の横に座る。まあそれはいいんだけど……なぜか距離が近めだ。

 社畜まっしぐらだった俺に女性経験なんてないので、ドキドキしてしまう。ダンジョンの中なら仕事モードになるからある程度大丈夫なんだけど、地上だとダメだな。


「おい足立、なんでお前が星乃と通じてんだよ」

「お前のSNSアカウントは俺も使えるんだよ。それで唯ちゃんのアカウントにDMダイレクトメッセージを送ったらすぐ来てくれると返事してくれたぜ。あ、ちゃんとDMを送ったのはお前じゃないってことは伝えてるからな」


 足立は悪びれた様子もなく言う。

 そうか……あのSNSにはDMもあるのか。一回もその機能を使ってないから星乃と連絡を取っていたなんて気が付かなかった。不覚だ。


「ご、ごめんなさい! やっぱり田中さんには事前に伝えておくべきでしたよね?」

「いや、星乃は悪くないさ。こっちこそ急に呼び出してごめんな。星乃も忙しいだろう」

「そんな! 私は大丈夫です! えっと、田中さんが呼んでくれましたら本当にいつでも!」


 星乃は慌てたようにそう言う。

 オレに気を使わせないようにそう言ってくれてるんだろう。本当にいい子だ。


「足立、なんで星乃まで呼んだんだ?」

「そりゃ唯ちゃんのおかげでお前の人気が伸びたからさ。彼女がいてくれなきゃ、お前の人気はここまで伸びなかった。それに……」


 足立は俺から視線を星乃に移す。


「彼女は強くなる。その内凄腕の探索者になると、俺はそう睨んでいる。だから今の内に仲良くなっておこうって寸法さ」

「なるほどね……」


 足立の言葉には同意できるところがある。

 少なくとも黒犬ブラックドッグギルドには彼女ほど有望な新人はいなかった。


「だから今日は親睦会とダンジョン生還記念を兼ねてるんだよ。それならいいだろ?」

「まあそれなら仕方ないか。星乃、こんなおっさん二人と飯食うのが嫌だったらすぐ言えよ? 足立を殴って気絶させて逃すから」

「あ、えと、はい」

「田中、俺の扱い酷くない?」


 足立の突っ込みをスルーして、俺は星乃に助け舟を出す。

 まったく、足立の行動にも困ったものだ。


「星乃もほら、肉頼め肉。あ、女の子は冷麺とかの方がいいのか?」

「あ、いえ! 私もお肉をいただきます! えっとそれじゃあまずはカルビを20人前いただいて……」

「え゛、マジで財布もつかな……」


 心配そうに財布の中身を確認する足立。

 今更になって腹ペコ探索者を二人も呼んだことを後悔してももう遅い。すっかり食べるモードになった星乃は、店員さんに山ほど料理を注文していた。


 これだけの数だといっぺんにテーブルに乗らないし、出していたら肉が悪くなってしまうので、食べ次第順次店員さんが運んできてくれる方式になった。

 探索者の客が来るとこういう対応になることが多いらしい。店員さんの対応は手慣れていた。


「……まあ祝いの席で金の話をするほど冷めることはねえ。こうなりゃあヤケだ! お前ら胃がはちきれるまで食えよ!」


 足立はヤケになりながら、運ばれてきたジョッキを持つ。

 それに合わせて俺もビール、星乃はソフトドリンクを持つ。


「それじゃあ二人の帰還と俺たちの出会いを祝って、乾杯!」

「「乾杯!!」」


 俺たちはそう言ってグラスをぶつけ合い、楽しい食事を始めるのだった。

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