第16話 田中、教える

「芯、ですか?」


 俺の言葉に星乃は首を傾げる。

 どうやらピンときてないみたいだ。


「ああ。剣を振る時、全部の力を腕にかけているから体がブレてしまっているんだ。ちゃんと姿勢をピンと立たせて剣を振るうんだ。

「なるほど。"ぐわー"って感じじゃなくて、"ぶわっ"て感じってことですかね」

「まあそんな感じだな」


"そんな感じだな、じゃないが"

"これで伝わってるの?"

"ゆいちゃんめっちゃ納得したような顔してるし……"

"戦闘民族語は理解が難しいぜ"

"なるほどわからん"

"芯がぶれてるのはわかったけど、剣を素手で止めた理由にはなってないよなあ!?"

"理由=シャチケンだから"

"納得"


 少し教えると、星乃の構えは格段に良くなってきた。

 昔何人かの覚醒者の教官的な仕事をやったことはあるけど、その時は中々言ったことを理解してもらえなくて大変だったけど、星乃はなぜかすんなり俺の言ったことを理解してくれた。


 もしかして……教えるのがうまくなったかな?


「いいぞ。足は"ぐんっ"と踏ん張って肩を"パッ"と開け。そうだ、いい感じだぞ」

「すごい! 確かにこれなら力が逃げません!」

「それで背筋に"ぴんっ"と力の線を張るんだ。まだ腕には力を入れるな。剣は腕じゃなくて体で振るんだ。足から"ぎゅい"っと力を送れ。そして"だん" "ずん" "ぱっ"っと剣を振るんだ」

「"ぎゅい"ですか。ええと……こうしてそれで。だん、ずん、ぱっ!」


 星乃が言われた通りに剣を振ると、俺たちがいる洞窟の壁がギャン! と思い切りえぐれる。

 まだ細かく直す点はあるけど、格段に良くなっている。これなら星乃の持っている力を存分に活かせるな。


"もうやだこの脳筋夫婦"

"なんであの説明で分かるの?"

"ゆいちゃんも戦闘民族だったんだね……"

"戦闘民族は引かれ合うってことだ"

"シャチケン! 責任取れよ!"

"よくよく考えたらオーガの群れ相手にある程度渡り合ってたんだから結構強いよねゆいちゃん"

"A級ライセンスくらいならすぐ取れそうw"

"俺は強いゆいちゃんも好きだよ"

"は? 俺の田中のほうが強いんだが?"

"田中ガチ恋勢こっわ"


「それと大剣を使ってるんだから、もっとこの側面を使うべきだ。大剣は身を守る盾にもなる。受け止めたり斜めに受けて滑らせたり。そうすれば守りも良くなるだろう」

「剣を守りに、ですか。考えたこともなかったです」


 俺は最後に大剣の使い方を何個か教えた。

 これだけ言ったことをすぐ覚えてくれると教える方も楽しいな。


「……っとこんなことかな。さて、そろそろ行くとするか。いつまでもこんな狭い所にいたら気が滅入ってしまうからな」

「あ、はい! えっと、その……田中さん。よろしかったらまた、色々と教えてもらってもいいですか? あの、お礼もしたいですし!」

「俺で良ければ構わないぞ。星乃に教えるのは楽しいしな」


 そう言うと星乃は嬉しそうに「えへへ、やった。ありがとうございます」とかわいらしく喜ぶ。

 そんなに強くなりたいなんて真面目な子だ。


"あかんゆいちゃんかわいすぎる"

"これで好意に気づいてないってマジ?"

"強さと引き換えに鈍感になった男"

"頑張れゆいちゃん! 田中を落とせ!"

"押し倒せ!"

"抱けえ! 抱けっ! 抱けーっ!"

"普通女の子がくっつくの嫌がられるはずなのに応援されてるの草"

"このゲームのヒロイン田中だから……"

"ヒロイン(一般サラリーマン男性)"

"一般の定義が壊れる"


「さて、どっち側に進むかだけど、ひとまずこっち側に進んでみよう。ここは深層、モンスターが急に出てくる可能性もあるから気をつけるんだぞ」

「はい!」


 俺たちのいる細い洞窟は両側に道が伸びている。

 風が吹けばそっち側が外に繋がっていると分かるんだけど、残念ながら洞窟は全くの無風。どっちが外に通じているか全く分からない。


「まあいざとなったら上方向に洞窟ごと斬ればいいけど、崩れたら危ないからそれは最後の手段だな」


"脳筋すぎて草"

"人間削岩機田中"

"田中は大丈夫だろうけど、ゆいちゃんが危ないしね……"

"ここ本当に深層? 緊張感なさすぎない?"

"シャチケンにとって深層は職場ホームみたいなところだから"

"職場がホームなの嫌過ぎる"

"田中ァ! 無事に帰ってこいよ!"

"私も職場から応援してます。頑張ってください"


 ちらとコメントを確認すると、応援してくれるコメントがいくつか目に入る。

 ありがたい限りだ。みんなの期待に応えるためにも無事に帰らないとな。

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