第6話 田中、駆けつける

"速っっっや。これもう人間新幹線だろ"

"新幹線より速くね?"

"おろろ、また気持ち悪くなってきた"

"酔い止め必須やぞ"

"酔い止め飲んだらガチで体調戻ってきて草"

"じゃあ俺も飲むか……"

"この速さについてけるドローンくん凄いな。絶対いい機種だわ"

"ドローンくん過労死しそう"

"死なないでドローンくん(´;ω;`)"


 俺は流れるコメントを確認せず、ダンジョンの中を駆け抜ける。

 もちろん駆けながら周囲の状況確認も怠らない。


「なんか、変だな……」


 口では上手く伝えられないけど、ダンジョンの中は変な感じがした。

 落ち着かないような雰囲気だ。見かけるモンスターたちもなんだか気が立っているような気がする。


 こういう時は予期せぬトラブルが起きやすい。気をつけなきゃな。


「見えてきた……!」


 視線の先に戦っている探索者の姿が見える。

 その人は若い女性の探索者だった。身の丈くらいの大きさの大剣を振り回し、モンスターたちと戦っている。


単独ソロで潜っているのか? 危ないな……」


"あの、鏡……"

"一人で深層行ってた人がなんか言ってる"

"まあこの人は特別だから……"

"※彼は特殊な会社で働いていました"

"実際中層以下のソロダイブは危険だぞ。自殺行為だ

"ソロは免許制にするみたいな法案もあったよな。どうなったんだろ"


 突っ込まれてしまったけど、気にしない、

 俺の場合は無理やり会社に単独ソロで行かされていただけだ。好きでやっていたわけじゃない。


 上層ならまだしも中層以下は単独ソロで潜るべきじゃないんだ。ダンジョンにはモンスターの他にもトラップなど危険なものがたくさんある。二人以上なら助け合えるけど、一人だと一回のミスで死に繋がる。


 ダンジョンはゲームみたいな場所だけど、死んだらそこで終わり。

 もう一回コンティニューは出来ないんだ。


「あっち行って……下さい!」


 モンスターに襲われている女性の声が聞こえる。

 肩まで伸びた栗色の髪の毛が特徴的な、かわいらしい女性だ。歳は大学生くらいか? 探索者の中ではかなり若い部類だ。


 動きは悪くないけど、相手が悪い。

 彼女が相手にしているのは『オーガ』。角の生えた鬼型モンスターだ。


 高い知能がある上に、かなりの怪力を誇るモンスターで、中々面倒な相手だ。

 おまけにオーガは十体いて、チームプレイで女性を囲みながらじわじわと彼女を弱らせている。あれじゃ逃げることも出来ないな。


"あれってオーガだよな"

"え、なんでオーガがいるの!?"

"ん? なんか変なの?"

"オーガは下層より下に生息しているモンスターなんだよ"

"でもここ中層だよな?"

"もしかして異常事態イレギュラーが起きてる? やばくね?"


 騒ぎ始めるコメント欄。

 異常事態イレギュラーというのは、名前の通りダンジョン内で普段は起きないことが起こることだ。本来その層に現れないモンスターが大量に現れたりなどがそれに当たる。


「きゃあ!?」


 懸命に戦っていた彼女だったが、オーガの棍棒を受け止めきれず、大剣を落としてしまう。

 丸腰になってしまった彼女を捕まえようと、オーガが手を伸ばす。


 まずい。急がなければ。


「――――はあっ!」


 俺は一瞬で地面を十回ほど蹴り飛ばし、急加速する。

 そして剣を抜き放ち、手を伸ばしていたオーガの体を切り裂く。


『ガ……?』


 何が起きたのかも分からず倒れるオーガ。

 俺はそんな奴の横を通り抜けると、襲われていた女性を抱えてオーガたちから距離を取る。


 お姫様抱っこのような形になっているので、お尻とか色々やわらかい部分が当たってしまっているけど……非常事態なので許してほしい。訴えられたりしないよな?


「えっと……大丈夫ですか?」

「え、あ、ひゃい」


 俺の腕の中で驚いたように目を丸くする女性は、そう答えるのだった。


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