社畜剣聖、配信者になる 〜ブラックギルド会社員、うっかり会社用回線でS級モンスターを相手に無双するところを全国配信してしまう〜

熊乃げん骨

第一章 田中、退職するってよ

第1話 田中、ダンジョンに潜る

 結婚は人生の墓場だ――――

 そんな言葉があるが、俺はそれは少し違うと思う。


「就職こそ、人生の墓場だ……」


 俺、サラリーマンの田中誠は今日の業務内容が書かれたメールを見ながらそう一人呟く。

 そこに書かれているノルマは、とても定時内に終わる量ではなかった。今日も残業確定……俺は深いため息をつく。


「A級モンスターのオーガ五体にバジリスク四体。おまけにS級のタイラントドラゴン三体、か……今日も終電に間に合いそうにないな」


 どれも面倒なモンスターだ。

 今からダンジョンに潜ったとして、急いでも24時は過ぎてしまうだろう。


 俺がこのモンスターを討伐する職業に就いたのは、今から十年前……まだ俺が十五歳の頃だ。


「今でもまだ夢みたいだな」


 十年前、唐突に世界の至るところに現れた謎の建造物『ダンジョン』。そこには未知の生物やオーバーテクノロジーの武具などが眠っていた。


 人々は『探索者』となり、ダンジョンの中に潜ってお宝を探した。

 ダンジョンに入った人間には特殊な力が宿り、普通の人の何十倍も強くなるんだ。もちろんそれは全員じゃなくて才能を持った人だけ、運がいいのか悪いのか俺は力に目覚めてしまった。


 死と隣合わせのダンジョン探索だけど、今はその様子をDチューブという動画配信サイトで配信するのが流行っているみたいだ。

 ちなみに俺はやったことがない。仕事一筋で生きてきたのでどういう仕組みでそれでお金が貰えるのかも分からない。こういう時に自分が歳をとったのだと実感する……。


「さて、早速ダンジョンに入りますか……と、その前に」


 俺は懐から小さな球体の形をした機械を取り出し、起動する。

 するとそれはふよふよと俺の近くを浮遊する。


 これは小型ドローン。映像を撮って自動でそれを会社に送ってくれる優れものだ。

 設定次第ではそのまま動画サイトで配信も出来るらしいけど、俺はこれを会社へのノルマ報告用にしか使っていない。


 俺はスマホを出して、ドローンの設定をいじる。


「ええと会社配信用サーバーを選択……うう」


 急に立ちくらみして、その場でふらつく。

 そういえば今日も二時間仮眠を取っただけだった。

 家にも二週間は帰れていない。最後に思い切り寝れたのはいつだっただろうか。


「俺は……何をしてるんだろうな」


 俺の所属している会社は、政府の下請けをしている。

 それだけ聞けば立派だけど、それは政府ですらやりたくない面倒なことを押し付けられているだけ。いつもうちの会社には大変な仕事が山積みになっている。


 このままでは過労死する……それは分かっているが、忙しすぎて辞めることを考える暇すらない。俺は今日もいつも通り死んだ顔でダンジョンに潜る。


「視界がぼやける……ええと、設定はこれで……大丈夫、のはず」


 ドローンの設定を終えた俺は、腰に剣を携えダンジョンに足を踏み入れる。

 今回潜るのは都内でも有数の巨大ダンジョン『渋谷地下ダンジョン』。国内でも最大規模のダンジョンで、その深部が今日の現場だ。


「――――これより、業務を開始する」


 ネクタイを締め直し、ダンジョンに潜る。


 この時、俺は思いもしなかった。

 今日のこのダンジョンダイブのせいで、私の人生が大きく変わるなんて――――



◇ ◇ ◇



"ん? なんだこの配信"


"会社記録用ってタイトル付いてるけど、もしかして設定間違えてない?"


"やっぱ配信していることに気づいてねえな。コメントも見てないみたいだし"


"ていうかこれ、渋谷ダンジョンじゃね? 一人でガンガン深くまで潜ってるけど大丈夫なのこれ?"


"自殺配信だろこれ"


"最低でも三人はいないと大型ダンジョンはすぐ死ぬからなあ"


"てか同接3人って少なw"


"まあこのチャンネル、普段配信しないししゃーない"


"これ黒犬ブラックドッグギルドのチャンネルだよな? このスーツのサラリーマンはギルドのメンバーなのか?"


"公式サイトのギルドメンバー一覧には載ってないな"


"てか概要欄に本日のノルマ書いてあるんだけど、一人でやる量じゃないだろこれw"


"本当だ草w 書きミスだと思うけど、ガチなら黒犬ブラックドッグギルド、ブラック過ぎるだろw"


"ブラックだけにってか、やかましいわ笑"


"なんか面白そうだな。掲示板の奴らにも教えてやるか"


"なんかこの人、前に見たことあるんだよなあ。どこで見たんだっけ"

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る