004 「またおしりが飛んでる」
その光景はとても綺麗で、そして幸せに満ち満ちていた。
見上げるくらい大きい木のドアがゆっくりと開いて、色とりどりのステンドグラスがキラキラ瞬いて。
赤い絨毯の上を、手を引かれて進んでいく。
柔らかな日差しの中、純白のドレスをまとった私。
側には白いスーツのナオ。
——私たち、とうとう結婚しちゃったんだ……!
自然と口元が緩んじゃう。胸のあたりがポカポカする。
花びらが舞い、どこからか音楽も聞こえてきて——なに、この曲?
なんかトランペットみたいな、風船から空気が抜けるような音楽。
こんなの頼んでないよね? ってナオに話しかけたら、彼は真剣な顔で言った。
「ずっとリズに伝えたかったことがあるんだ」
ごくり、と緊張を飲み込んで、私は次の言葉を待つ。
「それは――——ぱぱぱぱっぷーぱぶぱっ」
「ギィエャアッ!」
——そこで目が覚めた。
見慣れた天井ですーんと気持ちも醒めた。あーあ。
そばでスマホが叫んでいる。
パパパパップーパブパッ
パパパパップーパブパッ
パパパパップーパブパッ
うるさいよ!
このアラーム起きやすいけど、うざい!
ママの隣でトースターに食パンを放り込みながら、私はぽちぽち、アラームを変えた。
私、雨宮理珠は魔女である。
魔女と普通の人の違いは、魔法が使えるかどうかである。
あたりまえだ。
魔女は誰かの弟子になって、大人になるにつれて少しずつ魔法を学んでいく。
魔法は大きな力だから、使い方を間違えると大変なことになっちゃう。
だから、自分で判断ができる歳になるまで、魔女はあまり魔法を使えない。
でも、誰もが幼い頃に教えられて、使うことができる魔法もある。
――――それは空を飛ぶ魔法。
「いってきまーす」
玄関の重いドアを開け、振り返って叫ぶ。
いってらっしゃい、とママの声。
よし。
傘の隣に刺さっている竹箒をからからと引っこ抜く。
つるつるの柄には水玉リボン。これがないと、用務員さんの箒と見分けがつかないからね。
車が来ないか、左右をよく見て。
私は箒を掲げて全力で走った。
——わかってる、側から見たら頭おかしいのはわかってる。
でも仕方ないんだよ! 中学生の魔力なんてたかが知れてるんだから!
これでも助走距離は短くなってる方だし、っと。
ぐっと箒が浮くのに合わせて、柄に横向きに腰掛けた。
股に挟んで走るよりは、この乗り方の方がオシャレなはず。
そう、まるでレディの乗馬みたいに!
柄が細いせいで、ちょっとおしりがはみ出すのはこの際無視で。
気分は赤毛のアンみたいな──。
「あ、またおしりが飛んでる!」
「おしり魔女だっ!」
「黙れ!」
顔見知りの小学生に私は怒鳴った。
「リズじゃん、おはー」
「レンおはよ!」
学校に近づくにつれて、見知った顔が増えてくる。
電線よりちょっと低いくらいをふわふわ飛びながら、声をかけたりかけられたり。
私は魔女ということをみんなに隠してない。
わりといるものだし、第一、うちの中学にはもう一人魔女いるし。
そういうわけで、箒通学も許可が下りている。人づてに聞いた話では、認めるかどうかで相当揉めたらしい。
自転車通学は家が遠い生徒のみというルールがあるせいで、それほど学校と離れていない私の場合は乗り物を許可できないとかなんとか。
結局、学校の前でガードレールに突っ込んだ校長の車を魔法で直したら認めてもらえた。
ありがたいけど、それでいいのか。
中学生にはどうでもいいことである。
そんなことを思いつつ、私は昇降口へ降りていく。
直すついでにリトラクタブルヘッドライト……? を付けてくれというリクエストを無視したからか、窓からの入校は許可されなかった。ちぇ。
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