002 「おまじない失敗してるじゃん」
「恋に関する魔法」
動物は恋心を抱くものである。
人間もその例に漏れず、歴史の中では古今東西様々な恋愛が成就あるいは失敗してきた。
恋愛とは人と人とで行うものであり、本来そこに魔法が介入すべきではない。
――それを理解しつつも使う。それが魔女である。
少しでも成就の可能性を上げるために魔法を使いたい、または縁を切るために魔法を使いたいという、身勝手極まる諸君のために、この章では「恋に関する魔法」を紹介する。
最後に一つ、わたしの経験から忠告しておこう。
結局は顔だ。顔で全てが決まるのである。
――――――――――――――――
身も蓋もない前書きを読み飛ばし、ママのしおりの場所を読んでみる。
ええと、名前は「好きな人と絶対結ばれるおまじない」。
——おお、まんまだ。
割り切っててなんだか信用できるかも。
名前の下に星マークが五つ。その横に小さく、「難易度:5」と言う文字。
……難易度?
「ここに書いてあるわよ」
ママがページを始めの方に戻す。
そこには赤い文字で、こう書いてあった。
「難易度」
魔法には代償が必要である。
代償は髪の毛のような小さな価値のものから、使用者の命などの大きな価値のものまで、魔法によって様々である。例えば呪文を唱えて発動させる魔法は術者の気力を、まじないならば贄を代償として消費する。
さらに、代償の価値が大きいほど、失敗した際のリバウンドも大きくなる。
本書はそれぞれの魔法に必要な代償の価値やリバウンドをまとめて、難易度としてわかりやすくまとめた。
難易度は0から10まであり、0は基礎魔法のみ、実用的な魔法は1が最も初心者向きである。
ただし、難易度が低いからと油断してはならない。
わたしの経験から一つ、忠告しておこう。
髪の毛のような小さなものでも、有限であることを忘れるな。
――――――――――――――――
この著者、最後になにか忠告しないと気が済まないの?
とりあえず難易度については理解したので、恋の魔法の章に戻る。
ママが使った、「好きな人と絶対結ばれるおまじない」。
難易度5なら、まあまあか。
かけだし魔女の私には難しいかもだけど、とりあえず読んでみる。
「代償は……大事にしているぬいぐるみ、または人形。なるほど。それから、失敗した時のリバウンドは──」
「心臓に毛が生える、よ」
「ほんとだ。ママ覚えてるんだね」
「もちろんよ、忘れるはずがないわ」
まあ、パパと結ばれた思い出の魔法だもんね。
そりゃあ忘れられないはずだよ。
「そのせいでママ、週一で美容院通うはめになってるのだもの」
「……ん、どういう意味?」
「ママの知り合いの魔女が美容師やっててね。その子は天性の美容師で、お腹開けなくても心臓のヘアカットできるのよ」
「おまじない失敗してるじゃん!」
しかも美容師の才能じゃない!
心臓のヘアカットってなに!?
というか、ママの心臓には毛が生えてるってこと?
もう口に出すのも疲れて、私は心の中だけでツッコむ。
「魔法になんて頼らないほうがいいわ。ママも結局、普通にパパと付き合って結婚したのだし」
「魔女とは思えないセリフだよ……」
「さて、ママはもう寝るわ。とにかく、ろくなことにならないから恋の魔法はやめなさいね。理珠も早く寝なさい」
がちゃ、とリビングの扉が閉まった。
階段を上がる足音に混じって、明日は美容院だわ、とか聞こえてくる。
ママ、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます