Lesson 1 恋するキモチに! ガーリー呪術大集合
001 「ママも乙女だったのよ」
彼女の名前はリズ、彼の名前はナオ。
二人はごく普通のロマンチックな出会いをし、ごく普通のラブラブカップルになりました。
でも、ただ一つ違っていたのは――――。
彼女は魔女だったのです。
ついでにもう一つ違っていたのは――――。
上の前置きは全て妄想だったのです。
自分の部屋で、物思いにふける少女が一人。
くるりと跳ね上がったブラウンの髪、ころりと丸いクルミ色の瞳、やたら血色のいい指先はスマホの上を行ったり来たり。
好きな人のことを考えてると宿題がなかなか進まない、普通の中学二年生。
それが私、
「そうだよ、私は魔女。魔女なら恋愛の魔法くらい使えなきゃダメだよ!」
自分のために魔法を使う、それが魔女の一般常識。
だったら今が使いどきでしょ!
私はがばっと立ち上がった。
部屋を飛び出て、階段を一足飛びに駆け降りて、キッチンへ。
ジューっていい音、いい匂い。
夜ごはんは唐揚げかな? って、そうじゃなくて。
「ママ、魔法教えてくれない?」
お鍋片手に振り返るママ。ママももちろん魔女で、私の師匠でもある。
というか、うちは代々魔女の家系だ。
ママのママ、つまり私のおばあちゃんも、ひいおばあちゃんも、みんな魔女。
ママの実家で引きこもってる叔父さんもなぜか魔女らしいけど、それはちょっとよくわからない。
男の人でも魔女になれるの? って聞いても、無言で目を逸らされるし。
ちなみにパパは考古学者で、一年のほとんどを外国での遺跡荒らしに費やしている。
ファラオの呪いはあるかもだけど、我が家で唯一魔法に縁がない。
まあ、それはそれとして。
「いいわよ! 何の魔法が知りたいのかしら、皮膚が緑色になる呪文? 皮膚が青色になる呪文? 母校が甲子園で勝てなくてもドラマチックな試合になって、皮膚が赤色になるおまじないもあるわよ!」
「うーんと、そういうのじゃなくて」
最後のは日焼けでしょ……。
それに私、野球のこと詳しくないし、まだ母校すらないし。
ちなみにママの母校にも野球部はない。
「私、恋の魔法が知りたい」
「……は?」
すんっ、となるママ。
「――え、なに? 駄目なの?」
「やめておきなさい」
ママは真剣な顔できっぱり言った。
「中学生で恋愛なんてろくなことにならないわ。好きな人がいるくらいならいいけど、真面目に付き合おうなんて考えちゃ駄目」
……なんで? 私の恋なんだから、ママ関係なくない?
むっとしてそう言ったら、チッチッチ、と指を振られる。
うざー……。
「ママの経験から言っているのよ。そう、あれは入学式でのことだったわね……」
いやママの恋愛とか聞いてないし。
「思えばあれが初恋だったわ……」
知らないよ、てかどうでもいいよ!
でもママは話し続ける。
仕方ないから半分くらい耳を傾けた。
「三年間ずっと彼を想い続けて、卒業式の日に告白しようと思ったの。前の晩に手紙を書いて、朝一で渡そうと考えたわ」
「——それで?」
「やっと書き上げたら卒業式は終わってたの」
「何でよ!」
「翌日の昼過ぎまでかかったのだもの。その手紙は今でも手元にあるわ」
「捨てなよ! てか卒業式休んだってこと!?」
ため息をついて、だからね、とママは言う。
「結局、辛いだけよ。中学生の恋愛なんて」
それは主にママ自身のせいなのでは?
それに、とママが続けた言葉に、思わず私は大きな声を上げた。
「……もし理珠に彼氏ができたら、悔しいじゃない? 中学生の頃のママが負けた気がして」
「結局嫉妬じゃん!」
「まあでも、その初恋の彼ってパパなんだけどね」
「じゃあよかったじゃん!」
夜ご飯を食べながらあーだこーだ言い争いして、何とか教えてもらえることになった。
唐揚げでふくれたお腹をさすりながらママが持ってきたのは、分厚い魔導書。
表紙にでかでかと、金の箔押しで「魔導書」と書いてある。ポップな日本語の書体で。
……書いた人、どういうセンスなんだろ。
「恋の魔法、恋の魔法……後ろの方だったかしらね。パパに使った時以来だから忘れちゃってるわ」
ペラペラとページを繰っていくママ。
時々しおりが挟まっていて、「靴の手入れ呪文」とか「お塩とお砂糖変換呪文」とか、手書きで書いてある。
後ろの方にピンク色のしおりを見つけた。
これじゃない? と開いてみると。
「
……。
…………。
………………。
「……恥ずかしくないの?」
「ママも乙女だったのよ? まあ今もだけど」
私は見てないし聞いてない。そうすることにした。
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