3-3話 一代子爵になる ゆれる心



「セレーナ様が、男爵から子爵令嬢になられたって話、知ってる?」


 朝から教室中で話題になっています。


「彼女は、子爵家の隠し子だったらしいです」


 栗毛の美人ことセレーナ嬢は、噂に事欠きません。


「第一王子様が、子爵を示す白色のバッチを二つ要求して、セレーナ嬢に一つ着けて差し上げたそうよ」


 そうなんですね、なにか、気持ちがモヤモヤします。



「フラン、ちょっと来い」

 意地悪な子爵令息から呼び出されました。


   ◇



「子爵令息様、何かありましたか」

 中庭で、二人きりです。


「フラン、領地改革に僕も同行したことにしろ」


 この令息は領地改革に興味があるのでしょうか?

 今回は、改革ではなく、視察だったのですが。


「なぜです?」


「あのセレーナが、子爵になったことは聞いただろ」


「俺は、同じ子爵として、先に武功を上げなくてはならない」


 簡単に言えば、見栄ですね。


「わかりました、私はごく一部しか見ていませんでしたので、どなたが居たかは知りません、それでよろしいですか」


 上位の貴族には従うしかないので、そういう事にします。


 第一王子がお忍びで一緒だったことは、面倒なので言いません。


   ◇


 教室に戻ると、令嬢たちの井戸端会議が始まっています。


「ねぇ、最近アイツひどくない」

「あぁ、あの意地悪な子爵令息のことね」


「手柄を横取りしている話でしょ」

「そんなの自分の取り巻きだけにして欲しいわ」


「あの令嬢なんてお見合いまでさせられたそうよ」


 皆さん、楽しそうに話をしています。


 あれ? 井戸端会の中心に、従者の女の子がいます。

 皆さんと一緒に、楽しそうに笑っています。



 そういえば、神殿の先生が言っていました。

「あの子は、明るさの分、同じ分の暗さを持っています」と。


 いつか、その気持ちを私に話してくれるといいな。


「私の爵位が高ければ、もっと良い世界に出来るのかな」



   ◇



 また、学園長に呼び出されました。


 領地に同行した時、勝手に、隣の領地に行ったことを怒られるのかも。


 学園長室の、いつもより重いドアを開けます。


 第一王子もいました。


「フラン、領地視察では大きな働きをしたと聞いた」

「その功績を、国王が称えて下さるそうだ」


 学園長はうれしそうです。


「フラン嬢、本日をもって貴女に特別な一代子爵を授与する」


 国王の名代である第一王子が、私の制服の襟のホールに、子爵を表す白色のバッチを付けてくれます。


「今回の領地視察の成果で、私は国王から褒美をもらった」


「それが、この白色のバッチだ」


 令嬢の心を溶かす甘い言葉です。でも私は知っていますよ。


 頂いた白色のバッチは、二つであったことを。


 もう一つは、セレーナ様に付けてあげたこと。

 教室で令嬢たちの話題になっていましたよ。


 第一王子の心は、どこにあるのでしょう。

 そして私の心も、どこにあるのでしょう。


「フラン子爵、卒業したら私の従者にならないか」


 突然の勧誘です。


「フランが驚いています。お戯れはおやめ下さい」


 学園長が彼を制してくれました。


 憧れの第一王子は、階段をひとつ上がったような、私の手の届かない所へ行ったような、そんな感じがします。


 私の気持ちは、モヤモヤと、乱れています。



「それから、領地改革に加わったと言っている子爵令息は、謹慎処分とした」


「パワハラの罪だ」

 学園長の言葉は、耳に入ってきませんでした。



   ◇



 教室に戻りました。


「もっと喜べよ、フラン子爵」

 第二王子から声をかけられました。


 彼から話しかけられるのは、とても珍しいです。

 普段は見せない優しい一面です。


「「おめでとう、フラン子爵」」

 クラスメイトからも祝福されました。


 家族を知らない私に、こんな嬉しいことはありません。


 涙があふれてしまいました。




「フラン様、春休みは子爵としての勉強もありますと、神殿の先生が、おっしゃっていましたよ」


 女の子が可愛い笑顔で教えてくれました。


「この場面で、それはないでしょ!」

 私の言葉に、教室中が笑顔に包まれます。




 もうすぐ卒業式です。第一王子は卒業します。

 私の爵位が上がれば、また、第一王子の近くに立てるかな。



「家族って、暖かいのかな」

 教室の外、青空に白い雲が浮かんでいます。



(次回予告)

 ライバルと共に子爵になったフラン。次回は子爵令息とお見合いです。

 でも、令息を狙う影が、、、


 さらに、セレーナと、ロペス伯爵に関係は?



あとがき

 読んでいただきありがとうございました。

 18話で完結しますが、現状を、星などで評価していただけると嬉しいです。

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