敵を倒したら薬草が噴き出しました。〜ドロップ率100倍なのに薬草しか落ちない件〜

カツラノエース

本編

モンスターが跋扈ばっこする世界。

この世界の人間はそんなモンスター達を倒す冒険者になる為に、18歳になると教会で能力査定を受ける事ができる。今年で18歳になったカズトも定期的に開催される能力査定に来ていた。


「遂に来てしまったか...俺が英雄になる時が!」

カズトは教会前の広場で腰に手を当て叫んだ。周りの視線が冷たい。

「随分自分に自信があるようね」

「誰だ?」カズトは急な後ろからの話し声に振り返った。


そこには赤髪ロングの美少女がいた。

「私の名前はヒナタ・ユグドラシル!よく覚えておきなさい!」

「お、俺の名前はカズト・ウェイマンだ。」

ヒナタの威勢の良い自己紹介に若干気圧されながらカズトも自己紹介を返す。


その時教会の扉が開き能力査定の開始を告げる鐘が鳴り響いた。

「じゃあ俺は先に行くぜ」

鐘の音を聞いたカズトはヒナタにこう言い、能力査定の列に並んだ。


列が進むに連れて教会から能力査定を受けた人間達が出てくる。カズトはそんな人間達を見ながら、

(残念だが英雄になるのは俺だぜ...)と、自分が最強の能力を手に入れて無双している妄想をしていると、遂に自分の番が来た。そこには能力査定をしてくれる聖女がいた。


「両手を出してください」

「これでいいか?」

カズトは聖女に言われた通りに両手を前に出した。


すると聖女はカズトの手に自分の手を翳し、目を瞑り集中しだした。

(俺、女の子と初めて手繋いでるよ...産んでくれてありがとう母ちゃん)

カズトは自分が初めて女の子と手を繋いだ事に感動し、涙ぐんでいると、あろうことか聖女の最初の言葉を聞き逃してしまった。


「...ドロップ率100倍が貴方の能力です」

「ドロップ率100倍!?」

カズトはドロップ率100倍の所しか聞き取る事ができなかった。


自信に満ちた顔でカズトが教会から出ると、そこにはヒナタが居た。


「ようヒナタ!能力査定どうだった?」

そう聞くとヒナタはニヤリと笑い

「聞いて驚かないでよね?私の能力はドラゴンの炎を杖から出せる能力よ!」

「なかなか良いじゃないか...だがな、俺の能力はもって凄いぞ!」

「私の能力より強いですって?どんな能力なのよ。言ってみなさい!」

「なんとだな...アイテムドロップ率100倍の能力だ!」

カズトの能力を聞いたヒナタは驚き、

「アイテムドロップ率100倍ですって...そんなの一瞬で最強装備を手に入れる事ができるじゃない...!」

「だろ?別にパーティー組んでやっても良いんだぜ?」

カズトは見るからに自分の能力に酔っていた。ヒナタはカズトの態度のデカさに腹が立ったが、アイテムドロップ率100倍は凄い能力だ。だからヒナタは

「悔しいけど...パーティー組んで欲しいわ」

カズトの能力の凄さを認め、パーティーを組んで貰うようお願いした。

「仕方ないな...特別だぜ...?」

「もう...腹立つわね!とりあえずあと1人居ないとダンジョンには入れないわ。だから誰かもう1人、パーティーに誘いましょ」

ヒナタはそう良い周りを見ると、

「アイツ、何やってんの...?」

1人の男が目に入った。

「鏡で自分の顔を見てるのか?」

「完全なナルシストね...アイツはやめておきましょう...ってカズト!?」

「なぁなぁ、お前なんで自分の顔を鏡で見てるんだ?」

カズトはヒナタの言葉を聞かずにナルシスト男に話し掛けた。


「ん?僕の事かい?僕は美し過ぎる僕の顔に酔っているだけさ...」

「気持ちわりぃ...」

カズトは完全に引いていた。

「君も能力査定に来たのかい?」

「あぁ、なんと俺の能力はドロップ率100倍だぜ?」

「なかなか美しい能力じゃないか...」

「お前はどんな能力だったんだ?」

「僕の能力は矢に雷を乗せて弓で放てるという能力さ...どうだい?美しいだろう?」

「美しいかは知らないが、良い能力だな。よし決めた!お前も俺の仲間になれ!良いよなヒナタ?」

そう言ってカズトはヒナタの方を見る。


「え!?ソイツ仲間にするの!?」

「ダメか?」

「ダメって言うか...そいつナルシストじゃん」

「僕はナルシストでは無いぞ。自分に酔っているだけだ」

「それをナルシストって言うのよ!」

ヒナタはナルシスト男にそうツッコミを入れると1つ大きなため息をつき、


「まぁでも良いわ、コイツ能力は強いし...名前はなんて言うの?」

「僕の名前はリク・ナターシャ。美しい名前だろう?」

「はいはい。美しいわ、」

「とりあえず3人は揃った訳だ...よし!まずは武器屋に行くぞ!準備は良いか?ヒナタ!リク!」

「美しい僕に似合う弓を探そうじゃないか」

「はぁ...めんどくさいパーティーに入っちゃったわ...」



武器屋に着くと各々自分の武器を探し出した。

「おっちゃん。この剣いくらだ?」

「その剣は金貨5枚だ」

「じゃあこれにする」

「まいどあり」

カズトは目の前にあった一番安い剣を買った。

「そんな安い剣で良いの?そういうのはちゃんと決めたほうが...」

「良いんだよ別に。俺の能力はドロップ率100倍だぜ?ダンジョンに入れば、すぐに超絶強い剣が手に入るだろ。」

「そういうヒナタは何か良い武器見つけたか?」

「私はこの金貨15枚の杖にするわ」

そう言い、ヒナタは目の前に置いてある杖を指さした。

「良いじゃねえか」


「リクは良い武器見つかったか〜?」

カズトは奥で弓を見ているリクに声を掛けた。

「あぁ。僕に似合う美しい弓を見つけたよ」

こうして3人は無事武器を買った。



武器を買った3人はギルドに行き、冒険者登録を済ませた後、クエストボードを見ていた。

「最初はこのクエストでいいんじゃない?」

ヒナタはそう言い、依頼ボードを指さした。


―――――――――――――――――――――――

「初心者向け!スライムを倒してスラードを手に入れよう」


場所 :スライムの洞窟

クリア条件:スライムがドロップするスラードを1つギルド受付まで持ってくる

―――――――――――――――――――――――


「まぁ、最初だしこの位のクエストで良いか」

「スラード...美しい響きではないか」

こうして3人の初めてのクエストが始まった。


スライムの洞窟の前に着くと、カズトは2人に確認を取った。

「2人とも能力の使い方は分かるのか?」

「私は聖女様に能力を教えて貰った時に一緒に呪文も教えられたから、大丈夫だわ」

「僕も美しい技の使い方は分かるよ」

カズトは呪文系の能力では無い為教えて貰っていなかった


「良し!俺が付いていればスラードなんて一瞬で手に入るぜ!」

カズトはそう自分の能力を誇る様に言い、2人もそれに続く様にスライムの洞窟に入って行った。


洞窟内に入るとそこらじゅうに青いねちゃねちゃした物が壁に付着していた。

「これはスライムの洞窟だな...」

カズトがスライムの洞窟に入った事を実感していると、

「ねぇ、前から音がするわ!」

そうヒナタが声を上げた。


ねちゃねちゃねちゃねちゃ。そう音を立てながらは現れた。

「遂に来たな...良いか2人とも、トドメはドロップ率100倍の俺が刺す。だから2人はスライムを瀕死にしてくれ」

「トドメを刺せないのは嫌だけど...分かったわ」

「美しい僕の攻撃で瀕死にしてあげるよ」

2人はそうカズトの言葉に頷くと、目の前まで迫って来ていた青いベタベタしたスライムに攻撃を放った。


「灰になりなさい!火竜の葛藤ドラゴンブラスター!」

ヒナタのその呪文に応える様に杖が赤く光り、スライムを地面から吹き出る火柱で消し炭にした。

「絶望したまえ。晴天の雷撃サンダーボルト!」

リクはそう呪文を唱えると矢に稲妻が纏われ、その矢でスライムを貫きその途端、雷の力でスライムは内から爆発した。


「2人とも威力強すぎ、これじゃトドメ刺せねえじゃねえか」

「初めてなんだから威力の調整なんて出来ないわよ」

「すまないけど、美しいこの僕でもまだ威力の調整はできないよ」


そう言う2人の言葉を聞いたカズトは、

「仕方ねぇな...俺が斬り裂いてやるよ」

そう言い放ち、カズトは目の前に残っている1匹のスライムに目掛けて走り出した。


「どりゃーー!!」

そう叫ぶと共に、スライムを手に持っている剣で斬り裂いた。

「出てこいスラード!...ってえぇ!?」

その瞬間スライムから大量のが噴き出した。


「ど、どうなってんのよ!?」

「全然美しくないね!?」

スライムから薬草が噴き出すという明らかに異常な光景に2人は混乱した。だが1番混乱しているのは当然カズトだ。

「どうなってんだよ...これ...」

カズトの思考は止まっていた。


その時、奥からやって来たスライムがカズトを襲う。

「カズト!危ない!」

だが混乱しているカズトに言葉は届かない。

「はぁー!晴天の雷撃サンダーボルト!」

そこに何とかリクが矢を放ち間一髪の所で難は免れた。


「何やってんのよカズト!」

そう言いヒナタは棒立ちしているカズトの頬を叩いた。

「イタッ...あ、すまない」

カズトはそう力が抜けたように謝る。

「一旦洞窟から出るわよ!」

ヒナタは2人にそう叫び3人は洞窟の外に出た。



「あれは一体どういう事なの?」

「説明して欲しいね」

2人は先程のカズトの能力の説明を求めた。当たり前だ、モンスターを倒した瞬間に大量の薬草が噴き出すなんて普通では無い。

「俺も分からないんだよ...こんなの聞いてない...」

能力の説明を聞きそびれていた事を知らないカズトは、自分の能力が嫌になった。


「はぁ、騙された気分だわ」

「君の能力はもっと美しいと思っていたんだけどね」

カズトの能力が思っていたのと違っていた2人はカズトに失望した。

「申し訳ないけど役に立たない能力は戦わない方が良いのよ、パーティーは解散ね。」

「僕達はまた別の美しい冒険者を探すよ。元気でね」

そう言うと2人は行ってしまった。


「くそ...こんな変な能力でも...俺は英雄に...なるんだ!」

薬草ばかりがドロップする変な能力でも使い方によっては戦えるはずだ。カズトはそう考えた。



「誰もパーティーに入ってくれないわね...」

「美しい僕の魅力に誰も気付かないなんて...」

2人は冒険者ギルドに戻った後、新たな仲間を募集していたが誰もパーティーに入ろうとはしなかった。

「カズト...大丈夫かな...」

「僕達は僕達の道を行くしかないのさ、彼は彼の道を見つけるだろうさ。」

2人はカズトを心配していた。その時、


冒険者ギルドの扉が強引に開けられた。

「誰か助けてください!子供がゴブリンの洞窟に入ってしまったんです!」

恐らくゴブリンの洞窟に入ってしまった子供の母親であろう女性が声を荒らげた。

その声を聞いた冒険者の1人がこう言った。

「報酬はいくらだ?」

それを聞いた母親は、

「家は貧乏でお金を渡す事は出来ないんですが...どうか助けてください!」

「ふざけるな!!」

「ッ!?」

「金のねぇヤツは諦めな」

「そんな...」

母親はそう言われると顔が絶望の色に変わり、地面にひれ伏してしまった。


そんな母親に優しく話し掛けた冒険者が居た。

「その洞窟はどこですか?」

「...え?」

「早く教えて下さい!お子さんが危ないです!」

それはヒナタとリクだった。

「アイツら今日初めて冒険者になった奴らだろ?」

「馬鹿だなアイツら」

あちこちから馬鹿にしたような声が聞こえる。

しかし、

「報酬目当てのアンタらには言われたくないわ!」

「君たちは本当の美しさを知らないね!」

2人はそう言い返し、子供の母親と共に冒険者ギルドを飛び出して行った。


それを冒険者ギルドに、戻ろうとしていたカズトが見かけた。

「もう依頼を受けたんだな...ハハ、凄い能力の持ち主たちは違うな...」

カズトは大量の薬草を背負いながらそんな2人を見ていると、冒険者ギルドからは聞こえてきた。


「アイツら馬鹿だな。下手したら死ぬぞ」

「あぁ、冒険者1日目で中級レベルのゴブリンの洞窟に行くなんてな。本当に愚かな奴らだぜ」


(下手したら死ぬ...?ゴブリンの洞窟...?だと!?)

「助けに行かないと...でもアイツらとはもうパーティーじゃないし...って何迷ってんだ俺!助ける理由に仲間かどうかなんて関係ないだろ!」

カズトは2人を助ける為に2人を追いかけた。

その頃2人は...



「ここです!」

「お母様は待っていて下さい、私たちがお子さんを連れて戻って来ます!」

「どうか...どうかよろしくお願いします!」

それだけ話し、2人はゴブリンの洞窟に入って行った。


「何ここ...生臭い...」

「人が入って良い匂いでは無いね...」

洞窟内に入ると血の匂いが鼻をツンと刺した。


奥に進むとそこには

「居た!」

子供が地面に座り込み泣いていた。

「君!大丈夫?」

ヒナタはそう聞くと子供は涙ながらに答えた。

「グズッ...グズッ...お姉ちゃん達...誰?」

「お姉ちゃん達は君を助けに来たよ」

(無事見つかって良かった...)

ヒナタがそう安心した時、

「ヒナタ君!」

リクが現実に引き戻した。

「ッ!?ゴブリン...!」


赤い目をギラギラと光らせ、ゴブリン達が近ずいて来るのが分かった。

「君は下がってて!」

子供を後ろに下げると2人は戦闘態勢に入った。

「喰らい尽くしなさい火竜の葛藤ドラゴンブラスター!」

ヒナタは速攻呪文を唱える。しかし、

「クソッ避けられた...!」

スライムと違い、ゴブリンは簡単には当たらない。

「ギャギャギャー!」

ゴブリンは隙を見つけ、攻撃してくる。

その時、

「リク!?」

リクがヒナタを押した。

「ぐあぁ!」

リクがヒナタを庇ったのだ。

ゴブリンの爪がリクを斬り裂く。

リクは恐らくもう戦えないだろう。


(やばいわねコレ...)

リクは負傷。戦えるのはヒナタのみ。対してゴブリンは3匹

「クソッ...」

終わった。そう思った。だがそこには現れた。


「ウォー!!」

手前から剣を持ったカズトが現れたのだ。

「カズト!?」

ヒナタはいるはずのないカズトの登場に驚いた。

「くらいやがれ!」

カズトはなんと持っていた剣をゴブリンに

すると投げた剣は見事に1匹のゴブリンに刺さり、

ゴブリンから大量の薬草が噴き出した。

「ギャギャ!?」

ゴブリンはその光景に驚いた。そのチャンスをカズトは見逃さなかった。

「今だヒナタ!」

カズトがヒナタに合図を送る。

「え、えぇ!」

ヒナタはその合図に頷き、

「奥義!火竜の怒りドラゴンバーン!」

必殺の呪文を唱えた。

「ギャギャ...ギャァ...」

ゴブリン達はヒナタが放った火に包まれていった。



「お母さん!!」

「良かった...本当に良かった...」

洞窟から出ると子供と母親は抱き合った。

「本当に...ありがとうございました!なんとお礼をすれば良いか...」


「お礼なら彼に行って下さい。」

ヒナタは負傷したリクを背負っているカズトを見て言った。

それを聞いた母親はカズトの方を向きこう言った。

「本当にありがとうございました!お名前、お聞きしてもよろしいでしょうか?」

「そんな、名乗る程でもないですよ」

「そこを何とか」

母親はよっぽど子供の恩人の名前を知りたいらしい。

カズトは少し考えこう言った。

「なら俺の事はハーブマスターとでも呼んで下さい」


――――――――――3ヶ月後 ―――――――――


あれから3人は実績を積み、瞬く間に上級冒険者への仲間入りを果たしていた。

「ヒナタ君!今だよ!」

「ハァ!火竜の葛藤ドラゴンブラスター!」

「ギャギャギャー...」

ゴブリン達が炎に包まれる。

「俺も負けねえぜ!食物繊維たっぷりの薬草をくらいやがれ!」

カズトはカゴいっぱいに背負っている薬草を1つ取り、それをゴブリンの顔面に叩きつける。

「ギャー!」

ゴブリンからは相変わらず薬草が噴き出す。

「相変わらずだねハーブマスター!」

リクにそう言われた。

「相変わらずだぜまったく...!」

「でも私はそんなカズトの能力が好きよ!」

ヒナタがカズトにそう言う。

「あぁ俺もお前らの能力好きだぜ!」


これからも3人は冒険者を続けるだろう。カズトは大量の薬草をドロップさせ続けるだろう。だが、そんな能力を、そんな彼を誰もが慕った。


         ~完~








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敵を倒したら薬草が噴き出しました。〜ドロップ率100倍なのに薬草しか落ちない件〜 カツラノエース @katuranoACE

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