時屋へようこそ!

花月-KaGeTsu-

第1話

真っ白な空間。

目の前にはポツンと、一件の建物。

少し古ぼけたような煉瓦造りの建物で、扉は木製。

周りには何もない。草木も人も動物も。

後ろを振り向いても、虚無。


私は何をしていたのだろうか。

数分前のことを思い出そうとしたが、何も思い出せない。

どうやってここに来たのか、どうしてこんな所にいるのか。

それすらも思い出せないのだ。


今、私が何か情報を得るためには、あの建物の中に入るしかないらしい。

建物に向かって歩いている私は、薄水色の裾の長いワンピースをひらめかせ、数歩歩いたところで、扉の前に立ちつくした。

本当に、入っても問題がないのだろうか。

建物には何の看板も出ていないし、個人宅であろうか。


木製の扉を2回ノックする。

中から声は聞こえない。留守にしているのだろうか。

金色の取っ手を手に取り、押してみると思ったよりも軽く、チリンチリンとドアベルの音が鳴る。

どうやら鍵はかかっていないようだった。


「あ、あのー……」中を覗き込みながら声をかけようとした瞬間、

突如目の前に現れたのは、顔の似た少年少女。

「いらっしゃいませ!」と若々しい二人の重なる元気な声が響く。

少年は黒いハットにタキシードを思わせるような服装。

黒いハットについている青黒白のリボンがよく映える。

少女は真っ赤なワンピースに腰の白いリボン。

頭には赤い薔薇のついたコサージュをつけている。

どちらも私は持っていない艶やかな黒髪だ。自身の傷んだ長い黒髪をチラリと見つめ、少々悲しい気分になる。

「あの……ここは一体……?」

少し俯いたまま髪を見つめ、上目遣いで少年に声をかける。

すると「あぁ、当店にいらっしゃった方は皆そうおっしゃいます。」

続けて少女が答える。

「ここは、お客様の希望した『時』を売る、時屋です。」

「時屋……?」

時計屋さんじゃないんですか、と続けようとすると、少年が元気に被せて返事をしてきた。

「はい!えっと……お客様は……」

「坂木夢(さかき ゆめ)様ですよね♪」

「……!?なんで私のことを……」

名乗ってもいない自身の情報を言い当てられて一気に不安感が募る。

何か詐欺にでも合うところなのだろうか。

そんな不安そうな私の挙動を察したのか、少年が私のゼロ距離まで顔を詰めてきた。

「まあまあ、そんなことどうでもいいじゃありませんか!さあ、貴女が望むものはなんですか?」

「過去?」少女はふふっと笑いながらこちらを見つめる。

「未来?」少年も全く同じ顔で見つめる。

そして、打ち合わせをしていたかのように、二人同時に私に尋ねるのだ。

「それとも……現在(いま)?」

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