第25話
私は更に質問を続ける。「念のため、確認しますが、設計者に問い合わせる、ということは不可能なんですね?」
「ええ。既に全員鬼籍に入っています。また、当時の記録等も確認する
まあ、それはそうだろう。もし、関係者に直接インタビュー出来るならば、わざわざ私に依頼するなんて遠回りをするはずがない。
「そして、依頼はこれだけではありません。むしろ、ここからが肝心なのですが、その規則性を見出したあとで、その規則性を破壊する値を見つけてほしいのです。つまり-」
「終局的誤差、ですね?」
「ええ。そうです」
終局的誤差は、シミュレーションソフトウェアというごくごく狭い業界で、仲間内で用いる用語である。
これは、単なる誤差とは質的に異なる。通常の誤差は、誤差といえども、出力がなされる。つまり、アルゴリズムは間違いなく機能している。ただ、その精度が問題になるだけだ。
一方で、終局的誤差の場合は、そもそも入力に対する出力が返ってこない。つまり、入力はモデルの認識の範囲外にあり、アルゴリズムが入力を処理する過程で、エラーを起こすのだ。
結果として、モデル全体が破綻に追い込まれる。(もっとも一般的なのは、最初に出された出力が、入力に影響を及ぼし、無限に計算がループする、という症状だ。この症状を、再帰的とか閉回路的とか表現したりする。)
現実問題として、実務の中で終局的誤差をどう扱うか。
これは、もう無視するしかない。
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