第2話
変化は突然やってきた。
当時、私が勤めていた会社の社長は、コンピュータが世に出てまもない時代に、会社を創業し、一代で急成長させた男であった。彼は壮年に差し掛かって、自らの人生を振り返り、家族との時間が少なかったことを悔いた。
そして、自分の会社を売却して、アーリーリタイアすることに決めたのだった。引退後は、会社を売って得たお金で、南の島で家族と悠々自適という訳である。
別にこのことは大した問題ではない。他人の人生なのだから、そもそも私が口出しすることではない。しかし、会社を売った相手が問題だった。
会社を購入したのは、とある大手企業だった。元々はパソコンなどのハードウェアの販売を手がける会社であったが、多角化の一環として、ソフトウェア開発に乗り出し、手始めに私がいる会社を購入し、子会社とした。
そんな訳で、突然、会社のトップに、親会社の役員であった人間が乗り込んできた。これが全ての元凶である。
営業畑で大きな成果を出し、出世の階段を登ってきた新社長は、ソフトウェアについて全く無知であった。いや、無知なだけならまだ良い。彼は的外れな指示をしばしば現場に出し、その度に開発現場は混乱した。私の目には、彼は功を焦っているように見えた。
現場であるプログラマーの反感は日に日に溜まっていった。私はトップと現場との間で、板挟みになった。なんとか新社長に、「ソフトウェア開発が何であるか」を伝えようとし、社内に鳴り響く不協和音を解消しようと試みた。
となると、必然、社長が現場に何か指示を出すたびに、私が防波堤になり、時には社長を諌めるようになる。
そのうち、社長は私が意見をするたびに、露骨に顔を顰めるようになった。苦労しつつも、私は宥めすかしたり、時にはおだてたりしたりして、なんとか社長の手綱を握ろうと試みていた。
しかし、結果として、私の苦労は徒労に終わった。
ある日、出社すると私は全ての役職から解任されていた。本当に一瞬の出来事であった。
当然、私は抗議した。しかし、その段階で、役員会は親会社から来た人間たちが過半を占めていたので、私の抗議が
一方で、現場にも私の居場所はなかった。私が社長から敵視されていることは明確であったので、進んで付き合おうと思う社員はいなかったし、今から思えば、社長が現場に圧力をかけていたのかもしれない。
ともかく、私はたった一日にして、会社内での居場所を完全に失ったのであった。
そうなると、会社に出社してもやることがない。日がな一日中、デスクで時間を潰す毎日。同僚の冷たい視線。社長をはじめとした経営層の陰湿なイジメ。私が会社を辞めるのに、そう時間はかからなかった。
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