第14話 提案
『取材を拒否して雲隠れの社長ですが……』
連日ワイドショーでは、アキトの話題で一杯だ。内容を見ればまるで犯罪者の様な扱いである。
だが日本の騒ぎとは他所に、欧州各国の反応は違っていた。
BBC(英国放送協会)の取材を受け入れたからである。
元々中立性をうたっているが対外国的には、英国の国益を代表してプロパガンダ的な放送を行っている。英国に設立された企業それも世界をリードする可能性があれば、好意的な内容に収まるのは当然だった。
番組は英国人好みの内容で、アキトは不可能に挑戦する若者の情熱として受け入れられていく。
「プロデュース成功ね!」
復帰したクリスと並び出演した画像は、実に微笑ましかった。またクリス自身が闘病の情報を「どうせばれるなら」と視聴者に見せた事も良かった。
そんな中で、発電所の建設予定地も決まり忙しい日々を送っている。
「国民車ですか?」
俺はマクラレン・フィルの提案に首を傾げた。
「ええ、エンジン型の車と違って、電気自動車は構造が簡単ですから」
話の内容は英国での発電事業のほかに、自動車の生産を行いたいということだ。
「かつて我が国は世界に冠する自動車大国でした。しかし現状は……」
英国病と呼ばれた一九六〇年代以降のイギリスで起こった、経済・社会的な問題を発生させた現象がある。
ゆりかごから墓場までと呼ばれる社会保障制度が確立されていった狂った時代の話だ。
当時の社会主義的な政権によって産業の国有化政策がとられ、なかでも『ブリティッシュ・レイランド』という自動車企業を集めた国営企業を作り、イギリス国内の自動車市場の競争をなくしてしまい停滞させた。
「出来ればかつての栄光を取り戻したい」
そう語ったマクラレン・フィルの祖先は、既得権益を守ろうとする馬車業者による圧力に屈せず、自動車メーカーを立ち上げた一人だった。
「散り散りになった栄光のブランドを取り戻そうとは思いません。そう……我が祖先のように、一から自動車メーカーを立ち上げてみたいのです」
「それで国民車を?」
「はい、中心はもちろん我が英国ですが、生産地は欧州各地に設けたいと思っています」
「それで、ギリシャを巻き込もうと?」
ギリシャは民主党政権時代の二〇〇九年十月から二〇一〇年四月にかけて生じた危機で、債務不履行の不安からギリシャ国債が暴落(金利は急騰)株価も下落した。
そこでギリシャは国際通貨基金(IMF)、欧州委員会、欧州中央銀行に金融支援を要請した。IMFなどは金融支援の条件として、超緊縮的な財政政策を採るように要求し、ギリシャはそれを受け入れた。
その結果どうなったかというと、財政赤字は解消したが雇用は悪化した。
経済悪化が国家を衰退させたのだ。
「最初は英国と同じ車体でも構いません。こちらでも、小型車の開発を先行させようと考えています」
英国での核製造の前に、日本から輸入して研究開発を進めていた。その中にモーターの船舶以外の利用もある。
当然、電気自動車などはすぐにでも転用できると試作までされていた。
現在優れた燃料コストを生かした小型車の開発が進んでいた。それをノックダウン生産で始めようと提案しているのである。
ノックダウン生産とは現地での組み立て・販売方式の事だ。
組み立て技術を学ばせて将来は独自に開発まで見越しているが、現状では大部分は英国に依存させる。バイバックなどの、単なる海外拠点を目指さない所がマクラレン・フィルらしい。
「ギリシャを飲み込もうと考えているのですね」
俺はちょっと危惧した。あまりにも英国が強くなるのではと思ったからだ。
「そこまで考えていませんよ」
「何故です? 英国の利益を考えれば、そう考えるかと思いましたが?」
欧州の経済に影響力を持てば支配につながる。かつての大英帝国の復活も可能ではないかと思うのだが。
野心は無いとマクラレン・フィルは言うが、信用できないよな?
「ついでに発電も行って、生産コストを下げれば十分な勝算はあります」
現地に触媒を使って発電所を建設する。工場併設の小規模な物だが、コスト的にもマクラレン・フィルにはじゅうぶんな勝算があるのだろう。
「EUに対する英国の姿勢を見せるチャンスかもしれませんね。もっとも私は商人なので政治とは距離を取りますけど」
俺は釘を刺す意味で言ってみたが、すでに手遅れかもしれない。
だんだんと話が大きくなって、俺一人ではどうにもならなくなるような気がする。
そして、俺の危惧したことは現実になり、マクラレン・フィルの提案は、大きく欧州に影響を及ぼす事となった。
※
「お義父様? これで良かったかしら?」
「ちょっ! なにさりげなく呼んでるの」
賑やかなのはクリスと夏希だ。俺の父親と現在は魔法薬の研究を行っている。
魔法の秘密を知る者が限られて居るために、開発の手伝いに呼ばれた。
「ははは! 何でも良いさ」
普段の助手とは違って、クリスと夏希は華やかな雰囲気で周りも自然と笑顔になる。
研究が進む魔法薬は現在、材料に既存の漢方素材のみで進められている。強すぎる効果を恐れたためと、錬金した奇抜な原料を省いた事からそうなった。
もちろん魔方陣を使うのは当然必要だ。
「やはり効果は伸び無いか」
いま取り組んでいたのは薬の効果時間についてである。
魔法薬の宿命か? 既存の薬と違って不思議な事が多かった。
まず作成から消費期限が決まっていた事。
魔法で作っていたために魔法が切れると効果が失われるのだ。
その期限が、一二時間で半減し二四時間経つと効果が失われた。
また体の持つ生命力に依存するため、使用量が年齢で違ってくる。
具体的には若いほど効果が出る。
一五歳までを一とすると、年齢が上がる程使用量が増えるのだ。これは異世界でも力の強い人や高齢者などに共通する事で、その際は魔法を併用する。
神官が回復魔法などを掛けながらの治療に使っていのだた。
現在は魔法など使える医者はいないために、薬剤の分量を増やすしか手無かった。
いろいろ試しているのだが根本の改善はされていない。
「漢方材料で再現は出来たが、効果は落ちるな」
改良を進めるうちに万能薬の効果は薄れ、現状ガンの治療薬に収まったのは不幸中の幸いか? 強すぎる薬は毒にしかならない。
魔法使いでなければ魔法薬など供給は出来ないからだ。
こうして世に出る事に成った薬の使用量に触れると。
一五歳を一として見ると、二〇歳で約二倍。
そこから一〇歳ごとに増え続けるが、驚くことに五〇歳を越えると使用量が激増した。
五〇歳で一六倍が、一歳増えることに倍になるのだ。臨床治療で判明したこの事により、魔法薬は若年性のガン治療薬として世に出される。
もちろんこれも問題となっていくのだが、俺たちはまだ知らなかった。
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