第60話 マフィン作りスタート

 そうそう、今エタンは洗濯機を回したのち、宿舎へ軍手を取りに行ってくれてるの。

 オーブン作業はミトンなんかじゃなくて、2枚重ねの軍手が最適。

 それで聞いたら、プランシュという私も乗せてもらったあの乗り物で、10分ほど離れた湖畔の宿舎の備品室から持ってきてくれるって。

 男性の体格良い人が多い職場だから大きいけど、クレール用の大きいミトンよりはマシなので、申し訳ないけど助かる〜。


 そして私もさっきエタンから受け取った、ネットの苺ちゃんを部屋に干してきたところ。


 さあてと。

 準備が整ったので始めますか。


「せっかくだからハンドミキサー使ってみようね。クレール、30秒測りたいんだけど」


 じゃあこれで、とスマホを出した。

 へ〜、電話なのに便利な機能が付いているんだねぇ。


 ハンドミキサーの羽を本体に2本刺し、ここのボタンを押すと取り外せることを習う。

 ボールの下は濡れ布巾敷いて。

 卵を2つ割り入れ、白身にくっついてる白い殻座からざを指で取り除いた。

 箸とか竹串も日本文化があるならあるだろうな、きっと。


 ハンドミキサーを握る。

 砂糖をいっぺんに入れて……

 低速がないので砂糖が飛び散らないよう、電源をいれずに、ハンドミキサーでざざっと砂糖を混ぜて、ボールの横を樹脂ベラではらう。


「いっくよー! スタート」

クレールが時間を測り始める。


「全卵や卵黄に砂糖を入れてぼーっと置いとくと、固まっちゃうんだよ。白身だと大丈夫なんだけどね。入れたらすぐ混ぜる〜」


「ハンドミキサーって手に持ってるだけじゃなくて、そんな凄いスピードで自分でも回転させるんだね?!」


「ん? そうだよ。結構疲れ……」


 ♪タンタタタンタタタンタタ……


「あ、30秒経ったよ」

ふふ、随分可愛らしい音設定だなぁ。


「どうもありがとう。こっからはあっという間だよ」


 速度落とせるなら生クリームもハンドミキサーでよかったけど、まあ、手で入れてくか。


 ハンドミキサーの羽根をボタンを押して外し、樹脂ベラで拭い、シンクに入れる。

 今度は右手にホイッパーを握り込んで、左手で糸のように生クリームームを垂らし入れていく。

 ぐるぐるぐるぐる……泡立てるわけじゃないけど素早く。

 下に濡れ布巾を敷いておくと、左手で抑えなくてもボウルはガタゴト動かないからね。


 ラスト入れ物に残った生クリームも、しっかりヘラで綺麗に残さず加える、見えなくなるまで混ぜる。


 ホイッパーのワイヤーを親指と人差し指で、一本づつ指で素早くぬぐっていく。


「さっきのハンドミキサーの羽根もそうだけど、計量しているんだもの、こういった細かい作業が大事なのよ」


 濡れ布巾を底からどかし、次は粉。

 ここの木ベラは炒め用なので、幅がでかい。

 それに料理臭い。

 樹脂ベラで混ぜる方がマシだなぁ。

 ほとんど使われていないようで、匂いもしないし。


 粉を1/5ほど振り入れて、テーブルナイフを持つように右手で上から握り込んだ樹脂ベラを、ボウル真ん中から左横へ並行移動。

 その移動に合わせて、左手は同時にボウルを手前に少しだけさっと回転させる。

 回転し終わるそのタイミングで、ボウル壁に行き着いた右手を、手首のスナップを効かせて、内っ側にくるりと。 

 ゲンコツの小指が上を向くように、ボウルに沿って斜め上向こうにちょいと引き抜くように。

 跳ね上げすぎず流れるように、また真ん中へ樹脂ベラを持っていき……。

 

 両腕の動きは、左右いっぺんに脇を締めるように。

 イメージで言うと、指揮者のようにリズムの合わせてさあっと、両腕を同時に、でもそれぞれバラバの動きをする感じ。


 4〜5回混ぜてボウル内の粉がまだ混ざり切らないうちに、残りの粉も数回に分けて入れ、それを次々繰り返していく。


「は〜。たいしたもんだなあ」

クレールがほのぼのとしたコメントを途中でくれた。

 まあね! こちとらプロですから。

 にこっといいお顔して、無言でどんどん作業を進める。


 粉全部入れ後、混ぜ切らず粉がまだ残ってる状態でひとまずストップ。

 その生地をちょこちょこあまりいじらないよう大胆に。

 さりとて優しくそうっと、半分だけ用意してたボウルに移す。

 スケッパーできれば耐熱かまぼこ形の薄い板状の製菓パン道具のがあったら、欲しいなぁと思いながら。


 バナナを散らして入れ、数回混ぜて粉見えない後、横を樹脂ベラで払って、指で樹脂ベラについたものを拭う。

 製造中は、ボウルの淵になびってまわりをを汚さない。

 これ鉄則。

 うん、生地できた。


 次、取り分けておいたボウルのほう、くるみとレーズンも同様に。


「さ、型に入れて焼こうかね〜。あっという間でしょ?」

 流れ出す感じではなく、もってりと、できあがった生地。

 適当に均一グラムっぽく型に振り分けて……うーん、5個づつって感じかな。


 バナナのほうの上部に、別に輪切りにしておいたバナナを載せて飾る。


 オーブンに入れ、180度でまずは9分。


 バナナの輪切りの残りは、クレールと食べちゃおうっと。

 そんで器具を片付けるか……。


「コニー……これ凄いね!ボウルに生地が何にも残ってない!」


 おお! さすがホットケーキをあいし自作する男! 違い分かっとるねキミ? 


「そうなのよ〜。何回かお菓子教室イベントをお店でやって思ったんだけどさ。樹脂ベラの使い方に熟練度が地味に表れるんだよね。

自分の初心者時代をすっかり忘れて棚に上げてさ、『なんで生徒さんたち綺麗にぬぐえないんだろう? 不思議だな〜』なんて思ったことあったよ」

ドヤ顔で答える私。


 後ろの2層シンクの方で仲良く洗い物をお喋りしながらしていると、エタンが帰って来た。


「ただいまー。おぅ、すんげぇいい匂いしてる!

コニー、ほいよこれ。手洗ってくるわ」


「エタン、急なわがままに応えてくれてありがとう。お疲れ様。なんか冷たいものでも飲む?」

いや大丈夫、と爽やかに廊下のほうへ向かうエタンの後ろ姿を見ていたら、オーブンのブザーが鳴った。





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オーブンに入れて、いい匂いが漂ってきました!

いよいよ、実食か(*´Д`*)わくわく。


【次回予告 61話 焼けたらちょっとつまみ食い】


えっ……次話の題名が不穏です……

ちょっとだけ? つまみ食いだけ? 

鬼畜な作者とコニーの本意は、一体どこに向かうのか?!(笑)

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